日米両国は今年、安全保障条約改定50周年という節目の年を迎えた。ところが、日米関係は前例のないほど危うい局面に差しかかっている。皮肉かつ不幸な事態である。
北朝鮮の核・ミサイルの脅威や中国の急速な軍備増強――。日本の置かれた安全保障環境は相変わらず厳しい。地球温暖化やエネルギー、軍縮など、地球規模の課題の重要性も増している。
一連の課題に効果的に対処し、アジアと世界の平和と繁栄を確保する。そして、日本の国益を守る。そのためには、やはり強固な日米関係が欠かせない。
◆「普天間」解決が急務だ◆
鳩山政権は、重大な覚悟で、日米間の不信を解消し、同盟関係を再構築しなければなるまい。
当面の急務は無論、米軍普天間飛行場の移設問題の解決だ。
鳩山首相は、沖縄県名護市に移設する現行計画を見直し、別の移設先を模索する意向を示した。
だが、その作業と並行して、1996年の普天間飛行場返還合意以降の経緯を冷静に再検証すべきだ。そうすれば、米側の主張通り、現行計画が「唯一、実現可能な選択肢」であることが分かるはずだ。
今月24日には名護市長選が予定される。仮に現行計画を容認する現職が敗れれば、計画の実現がより困難になろう。
首相が、日米同盟と地元負担軽減の両立を本気で考えるなら、新たな移設先が見つからない場合に備えて、現行計画を進める選択肢を確保しておく必要がある。
鳩山外交の最大の問題点は「日米同盟が基軸」と言いながら、何ら行動が伴っていないことだ。その根本的な原因は、同盟の根幹である米軍の日本駐留の意義を、首相や関係閣僚が十分に理解し、共有していないことにある。
首相はかつて、米軍が平時は自国にとどまり、有事にだけ日本に前方展開するという「常時駐留なき安保」構想を掲げていた。
だが、米軍は常に日本に駐留してこそ、有事への抑止力や即応能力を発揮できる。仮に在日米軍を大幅に削減する場合、その「力の空白」を誰がどう埋めるのか。
在日米軍の存在は、日本防衛だけでなく、アジア全体の平和と安定に「国際公共財」として貢献している。韓国や東南アジア各国が今の日米同盟の揺らぎを心配しているのは、その証左だ。
11月には、横浜でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席するため、オバマ大統領が来日する。
安全保障だけでなく、政治、経済、文化の分野にも及ぶ日米同盟全体を深化させる作業を早期に開始し、具体的成果につなげたい。
◆中韓と戦略的連携図れ◆
日米同盟の強化は本来、鳩山首相の掲げる「アジア重視」や、長期的目標である「東アジア共同体」構想と何ら矛盾しない。米国か、アジアか、といった二元論に陥る愚は避けるべきだ。
様々な分野で影響力を増す中国とは、首脳や閣僚間の対話を継続し、戦略的互恵関係をより実質的なものに高める努力が大切だ。
東シナ海のガス田問題は2008年6月に日中共同開発に合意しながら、具体的な進展が一切ない。北朝鮮の核や地球温暖化の問題を含め、中国が大国として責任ある行動を取るよう、粘り強く働きかけることが重要となる。
今年は、日韓併合から100年でもある。歴史問題が再燃しないように、両政府には、注意深い対応が求められる。
李明博政権の発足以来、日韓関係は安定している。その流れをより確かなものにするため、政治や安全保障に関する未来志向の共同文書を作成してはどうか。
「テロとの戦い」の一環としてインド洋で給油活動に従事していた海上自衛隊の艦船は、今月15日の特別措置法期限切れに伴って活動を終了し、撤収する。
◆自衛隊の恒久法制定を◆
政府は、アフガニスタンに対する資金支援に重点を移すという。だが、日本の人的貢献がなくなることは、国際協調行動からの離脱と解されかねない。国際社会における日本の存在感も弱まろう。
日本の国連平和維持活動(PKO)派遣人員は昨年10月末時点で39人、世界84位にすぎない。主要8か国(G8)で最も少ない。
世界の平和と安全の確保は、通商国家・日本の存立基盤だ。
年末に予定される「防衛計画の大綱」の改定では、より積極的に国際平和協力活動に参加する方針と、それに応じた部隊編成や装備導入を打ち出す必要がある。
より迅速な部隊派遣を可能にするには、自衛隊の海外派遣に関する恒久法の制定が欠かせない。民主党は野党時代から恒久法に前向きだった。野党の自民党とも連携し、超党派で実現すべきだ。
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