鳩山外交 揺らぐ日米同盟を再建せよ

毎日新聞 2010年01月09日

2010再建の年 日米安保 首相自ら同盟像を語れ

日米安全保障条約は今年、改定50年の節目を迎える。鳩山由紀夫首相とオバマ大統領は昨年11月、これを機に日米同盟深化に向け「協議のプロセス」を進めることで合意した。

冷戦終結から20年が過ぎた。米国の一極支配は揺らぎ、中国の台頭などによる多極化時代を迎えている。日本にとっては核実験と弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮の脅威が厳然と存在する。これら日本を取り巻く安保環境の変化に加え、01年の「9・11」以降、国際テロリズムが世界の安全保障の重要課題となった。

日米同盟が戦後日本の繁栄の礎となったことは間違いない。自由や民主主義など基本的な価値を共有する米国との関係を今後も維持し発展させることは、日本の国益に資する。鳩山政権も日本外交の基盤は日米同盟であると言明している。

14年前、日米安保は「アジア太平洋地域安定のための公共財」と再定義された。昨年、ともに政権交代を果たした日米両国が、共通の目標を確認し、そのツールとして「世界の平和・安定のための公共財」に再び定義し直すことは有意義であり、同盟関係深化の基本的な方向だろう。

ところが、この取り組みと「普天間」移設問題を切り離そうとした首相の意図とは裏腹に、普天間の先送りと迷走によって同盟深化の協議そのものが先延ばしになっている。

普天間をめぐる首相の言葉の軽さは、米国内に戸惑いを引き起こしている。引き続き鳩山政権の行方を見定めようとする比較的好意的な見方がしぼむ一方で、首相に対する不信や不安、失望、鳩山政権へのあきらめに似た脱力感が渦巻いたまま年が明けた、というのが実態だ。

不信やあきらめの意識が米政権全体を覆うことになれば同盟関係への影響は避けられまい。普天間問題がただちに日米同盟の崩壊に結びつくような議論は現実的でない。が、昨年のような首相の言動が続けば、「同盟の空洞化」の引き金になる可能性を否定できないのも事実である。

同盟深化の協議を本格化させるには、首相が普天間問題で強いリーダーシップを発揮し、落着させることが必須である。同時に、日米同盟に関する大きなビジョンを首相自身が発信することが求められている。

鳩山首相は首脳会談で、同盟深化について「拡大抑止や情報保全、ミサイル防衛、宇宙などこれまでの安全保障分野に限らず、新しい課題も含めた協力強化を進めたい」と語った。そして、「新しい課題」として防災、医療、教育、環境を挙げた。

「9・11」以降、国際テロリズムの脅威が現実のものとなり、テロ組織による大量破壊兵器の拡散の危険性が指摘され、「新しい脅威」が顕在化している。こうした新たな安全保障上の危機の温床である貧困問題や民族紛争、内戦、宗教対立に対処し、新たな貧困を引き起こす地球環境悪化や飢餓など地球規模の問題をも安全保障上の課題として取り組む重要性がかつてなく増している。

これまで「非伝統的な安保問題」と注目されながら軽視されがちだった分野であり、最近は、新たな脅威・危機の性格に着目し、戦争や紛争などを病に見立てて、「予防医学的」な安保課題とも呼ばれている。

首相の指摘した「新しい課題」がこうした理念に通じるものかどうか不明だが、予防医学的な安保課題を同盟深化協議の柱の一つに位置付けることができれば、日米同盟を「世界の平和のための公共財」に発展させる契機となるに違いない。

しかし、このような課題だけを強調するのではバランスを欠く。北朝鮮などの脅威を目の前にして、非伝統的な安保課題だけを語るのは現実的ではない。予防医学的な手法の強調が、軍事力と抑止力を背景にした旧来の「臨床医学的」な安全保障上のアプローチの必要性を過小評価することに結びついてはならない。

1990年代の安保再定義は、日米安保共同宣言に結実し、「日米防衛協力のための指針」改定で完結した。これに基づいて自衛隊の米軍への後方支援を可能とする周辺事態法が整備された。その後の展開は、自衛隊の活動領域・内容の拡大の歴史だったと同時に、戦闘地域と非戦闘地域を区分して後方支援の憲法論議をクリアすることで、集団的自衛権行使の議論を回避するものだった。

鳩山政権が、日米防衛協力の深化の方向や、ミサイル防衛のあり方を検討するにあたって、この集団的自衛権行使の是非が大きな論点の一つになるのは間違いない。

また、鳩山政権が進める日米間の過去の「核密約」の解明は、日本の国是である非核三原則と、核抑止を軸とする拡大抑止の関係を浮かび上がらせることになる。米政府による核兵器の運用は、密約当時と今とは大きく変わっており、ただちに核持ち込みが現実問題となる可能性は極めて小さい。しかし、非核三原則と密約、拡大抑止について理論的な整理は避けて通れない課題である。

日米同盟の日本側の最終的な管理・運営者は首相である。同盟関係を深化、発展させる責任を負っている。統治者としての資質が問われていることを首相は深く自覚すべきだ。

読売新聞 2010年01月04日

鳩山外交 揺らぐ日米同盟を再建せよ

日米両国は今年、安全保障条約改定50周年という節目の年を迎えた。ところが、日米関係は前例のないほど危うい局面に差しかかっている。皮肉かつ不幸な事態である。

北朝鮮の核・ミサイルの脅威や中国の急速な軍備増強――。日本の置かれた安全保障環境は相変わらず厳しい。地球温暖化やエネルギー、軍縮など、地球規模の課題の重要性も増している。

一連の課題に効果的に対処し、アジアと世界の平和と繁栄を確保する。そして、日本の国益を守る。そのためには、やはり強固な日米関係が欠かせない。

◆「普天間」解決が急務だ◆

鳩山政権は、重大な覚悟で、日米間の不信を解消し、同盟関係を再構築しなければなるまい。

当面の急務は無論、米軍普天間飛行場の移設問題の解決だ。

鳩山首相は、沖縄県名護市に移設する現行計画を見直し、別の移設先を模索する意向を示した。

だが、その作業と並行して、1996年の普天間飛行場返還合意以降の経緯を冷静に再検証すべきだ。そうすれば、米側の主張通り、現行計画が「唯一、実現可能な選択肢」であることが分かるはずだ。

今月24日には名護市長選が予定される。仮に現行計画を容認する現職が敗れれば、計画の実現がより困難になろう。

首相が、日米同盟と地元負担軽減の両立を本気で考えるなら、新たな移設先が見つからない場合に備えて、現行計画を進める選択肢を確保しておく必要がある。

鳩山外交の最大の問題点は「日米同盟が基軸」と言いながら、何ら行動が伴っていないことだ。その根本的な原因は、同盟の根幹である米軍の日本駐留の意義を、首相や関係閣僚が十分に理解し、共有していないことにある。

首相はかつて、米軍が平時は自国にとどまり、有事にだけ日本に前方展開するという「常時駐留なき安保」構想を掲げていた。

だが、米軍は常に日本に駐留してこそ、有事への抑止力や即応能力を発揮できる。仮に在日米軍を大幅に削減する場合、その「力の空白」を誰がどう埋めるのか。

在日米軍の存在は、日本防衛だけでなく、アジア全体の平和と安定に「国際公共財」として貢献している。韓国や東南アジア各国が今の日米同盟の揺らぎを心配しているのは、その証左だ。

11月には、横浜でのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席するため、オバマ大統領が来日する。

安全保障だけでなく、政治、経済、文化の分野にも及ぶ日米同盟全体を深化させる作業を早期に開始し、具体的成果につなげたい。

◆中韓と戦略的連携図れ◆

日米同盟の強化は本来、鳩山首相の掲げる「アジア重視」や、長期的目標である「東アジア共同体」構想と何ら矛盾しない。米国か、アジアか、といった二元論に陥る愚は避けるべきだ。

様々な分野で影響力を増す中国とは、首脳や閣僚間の対話を継続し、戦略的互恵関係をより実質的なものに高める努力が大切だ。

東シナ海のガス田問題は2008年6月に日中共同開発に合意しながら、具体的な進展が一切ない。北朝鮮の核や地球温暖化の問題を含め、中国が大国として責任ある行動を取るよう、粘り強く働きかけることが重要となる。

今年は、日韓併合から100年でもある。歴史問題が再燃しないように、両政府には、注意深い対応が求められる。

李明博政権の発足以来、日韓関係は安定している。その流れをより確かなものにするため、政治や安全保障に関する未来志向の共同文書を作成してはどうか。

「テロとの戦い」の一環としてインド洋で給油活動に従事していた海上自衛隊の艦船は、今月15日の特別措置法期限切れに伴って活動を終了し、撤収する。

◆自衛隊の恒久法制定を◆

政府は、アフガニスタンに対する資金支援に重点を移すという。だが、日本の人的貢献がなくなることは、国際協調行動からの離脱と解されかねない。国際社会における日本の存在感も弱まろう。

日本の国連平和維持活動(PKO)派遣人員は昨年10月末時点で39人、世界84位にすぎない。主要8か国(G8)で最も少ない。

世界の平和と安全の確保は、通商国家・日本の存立基盤だ。

年末に予定される「防衛計画の大綱」の改定では、より積極的に国際平和協力活動に参加する方針と、それに応じた部隊編成や装備導入を打ち出す必要がある。

より迅速な部隊派遣を可能にするには、自衛隊の海外派遣に関する恒久法の制定が欠かせない。民主党は野党時代から恒久法に前向きだった。野党の自民党とも連携し、超党派で実現すべきだ。

産経新聞 2010年01月04日

安保改定50年 自らリスク担う国家を 日米同盟の空洞化を避けよ

今年は日米安保条約改定50周年だ。昨年は冷戦終結20年だった。2つの歴史の節目を通して改めて認識させられるのは、幾星霜を経て日米安保体制(日米同盟)が日本と東アジアの平和と安全に果たしてきた役割の大きさである。

端的にいえば、世界秩序のパワーシフトが進む中で、米国の「頼れる同盟国」としての日本の役割は必然的に高まり、同盟や国際社会に一層の貢献を求められるようになった。そのためには、日本も自らリスクを担う覚悟が欠かせない。安保改定半世紀の節目を迎えて、日本が真っ先に心しなければならないのはこのことだ。

先の大戦終戦からこのかた、冷戦時代もその後も日本は戦争に巻き込まれることなく、「奇跡」と呼ばれた経済復興を経て世界第2位の経済大国に成長した。アジア太平洋の安定と繁栄についても、日米同盟はその要に位置する地域の公共財の機能を担ってきた。

だが21世紀のアジアの安全保障環境は大きく変貌(へんぼう)した。国際テロや犯罪組織、破綻(はたん)国家と大量破壊兵器の拡散に加え、核・ミサイル開発にひた走る北朝鮮、異常なペースで軍拡を続ける中国など新旧の脅威が増大した。中国、インドが台頭する一方、イラク戦争や世界金融危機を経て米国の相対的な力の低下も指摘される。

≪高まる責務と期待≫

にもかかわらず、昨年秋の政権交代で発足した鳩山由紀夫政権の下で、日米同盟の前途にはにわかに暗雲が漂い始めた。

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題はあてもなく迷走を続けた末に、決着は越年してしまった。アフガニスタン・パキスタンのテロとの戦いでは、国際社会に評価され、継続を切望された海上自衛隊のインド洋補給支援活動が15日に打ち切られる。

昨春、核・ミサイル実験を強行した北朝鮮に対する国連制裁履行に不可欠な貨物検査特別措置法案は継続審議となった。ソマリア沖の海賊対策でも、日本は中国海軍に大きく見劣りしたままだ。

昨年1月、日本は国連安全保障理事会で10回目の非常任理事国に就任した。任期はまだ1年あるというのに、世界の平和と安全に貢献する理事国の重い責務をどうやって果たすというのだろうか。

それだけではない。鳩山政権の頭上には「常時駐留なき安保」という十数年前の怪しい亡霊も見え隠れした。米国排除につながりかねない「東アジア共同体」構想や小沢一郎民主党幹事長らが唱える「日米中正三角形」論もあって、オバマ米政権は対日不信を募らせているのが現状だ。

常駐なき安保論は冷戦終結後、「ソ連の脅威は消えた。米軍の駐留も不要になった」とし、危急の時だけ米軍の来援を求めるという虫のよい発想だった。鳩山氏や細川護煕元首相がかつて唱えたが、抑止や即応性など安全保障の基本を無視した非現実的な空理空論といわざるを得ない。

鳩山氏は昨年末、「首相の立場で封印する」と語った。だが、普天間問題迷走の背後でそんな発想を捨てきれないとすれば、「対等な同盟」はもとより、オバマ大統領との間で合意した「同盟深化のための協議」も進展するどころか同盟を劣化させかねない。

≪問われる非核三原則≫

拡大抑止(核の傘)についても懸念がある。非核三原則をめぐる「密約」問題検証のために岡田克也外相が設置した有識者委員会は今月中に結果を報告する。

 密約問題で問われるべきは、過去の経緯よりも、北の核開発や中国の核増強が進む中で同盟の核抑止能力をいかに高めるかの近未来の課題だ。非核三原則の見直しも含めて、鳩山政権には現実的発想への転換を求めたい。

21世紀の要請に応える同盟に深化させるには、前政権の宿題でもある集団的自衛権の行使や自主防衛努力が欠かせない。海賊対策やテロとの戦いで日本も率先してリスクを負うべきだ。イラクやアフガンでの協力を経て「世界の中の日米同盟」へ高める努力を重ねてきた流れを止めてはならない。

豊かな同盟関係の構築には長い時日と努力が必要だが、崩壊は一瞬にやってくる。15年前、米比相互防衛条約が解消され、米軍が在比空・海軍基地から撤退すると、中国軍は即座に南沙諸島に進出して、フィリピンが領有権を主張する島々を奪ってしまった。

日米が同じ道をたどるとはかぎらないものの、普天間などをめぐる混迷が同盟空洞化への第一歩とならない保証はない。

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