日本人を含む外国人拉致から政治犯の拷問や公開処刑まで、北朝鮮の残虐行為が国際社会で改めて明らかになった。
国連人権理事会の調査委が、これらを国家による組織的な人権侵害と認定し、「人道に対する罪」と断じた報告書を公表した。
拉致は「最高指導者の承認の下、実行された」とし、金日成主席、金正日総書記が認識していたと指摘している。
後継の金正恩政権は重く受け止め、誠意ある対応を直ちに取らなければならない。日本政府は拉致問題解決に向け、各国への働き掛けを一層強めるべきだ。
《乗員を漁船ごと沈めた》
調査委の報告書が、拉致被害者家族や脱北者らの数多くの証言から、北朝鮮の国家犯罪を立証した努力を評価したい。
調査委メンバーは、ソウル、東京、ロンドン、ワシントンで公聴会を開いたほか、240人以上の脱北者らに匿名でインタビューを行った。
報告書は本体とは別に証言を中心とした資料が添えられ、約400ページに及ぶものになった。被害者らのナマの声が、北指導部を指弾している。
「海上での日本人拉致は深夜から午前3時にかけて行われ、日本船を装って日本漁船に接近し、若く有能な乗組員を拘束し、他の乗組員は漁船ごと沈めた」
日本人拉致を実行した軍当局者の具体的な証言は、拉致の非人道性を象徴的に示した。
また収容施設で出産した女性が子供をたらいの水に逆さまに入れるよう命じられ、許しを乞うと殴られ、窒息死させたとの信じがたい目撃談も紹介された。
こんな非道なことがなぜ行われたのか。
調査委のマイケル・カービー委員長は会見で「金正恩第1書記自身も人道に対する罪の責任がある可能性がある」と指摘した。
外国人拉致は1950年代から「国家政策」として、日本や韓国、欧州などで行われ、行方不明者は20万人以上に上るという。金正恩政権はこうした不明者の全員について明確な説明をする重い責任がある。
北の人権侵害は外国人拉致にとどまらない。思想・表現・信教の自由、居住・移動の自由がなく、任意の拘束、処刑、拷問が行われ住民は飢餓にさいなまれている。「現代世界で比類ない」と報告書が批判するほどの残忍さだ。
北朝鮮は調査委の入国を認めなかった。ジュネーブの北朝鮮代表部は報告書の内容を「拒否する」と表明したが、非人道的行為はないというのなら、調査委を受け入れるべきだ。
《家族会の期待に応えよ》
調査委は昨年3月の人権理事会決議を受けて設置された。報告書は来月、理事会に示される。理事会では北朝鮮指導部の個人責任を追及する厳しい決議の採択を目指してほしい。
調査委はまた、責任追及のため、国連安保理に対し、国際刑事裁判所(ICC)に付託するよう勧告した。
調査委にはICCに案件を直接付託する権限がなく、協定に基づき、安保理を通じて行う仕組みとなっている。北朝鮮に圧力をかけるため、安保理の各国が足並みをそろえる必要がある。
気がかりなのは、中国が調査委に必ずしも協力的でなかったことだ。これによって、中国の北朝鮮との国境付近での聞き取り調査ができなかったという。
ICC付託をめぐって、中国による安保理での北朝鮮擁護や妨害があってはならない。
菅義偉官房長官は「報告書を歓迎する。関係国と連携し具体的な役割を果たす」と述べた。古屋圭司拉致問題担当相は「拉致問題を人道に対する罪と断定し、北朝鮮を名指しで批判した厳しい内容だ」と評価した。
昨年8月の東京での公聴会では拉致被害者の横田めぐみさん=拉致当時(13)=の両親らが証言した。被害者家族会代表の飯塚繁雄さんは「報告書だけで終わらせてはならない。各国が関心を持って対応してもらうよう、日本政府から具体的に働き掛けてほしい」と語っている。
日本政府はこうした家族の願いを受け、あらゆる機会をとらえて、拉致問題解決をアピールするなどし、各国の協力を引き出してもらいたい。
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