「拉致」国連報告 各国が協力して圧力を 北は被害者を即時帰国させよ

毎日新聞 2014年02月19日

北朝鮮の拉致 国際的圧力を強めたい

北朝鮮の非道な行いを国際社会に広く知らせ、正しく認識してもらう機会がようやく訪れた。

北朝鮮の人権状況を調べていた国連調査委員会が、日本人などの拉致事件について、国際法上の「人道に対する罪」にあたると認定し、北朝鮮を厳しく非難する最終報告書を公表した。異例のことである。

報告書は故金日成(キムイルソン)主席、故金正日(キムジョンイル)総書記が「すべての外国人拉致を認識していた」と明言した。拉致に直接関与していない当局者についても被害者の自由剥奪などに関する責任に言及した。現在の最高指導者である金正恩(キムジョンウン)第1書記の責任も問われる可能性がある文言といえよう。

日本人拉致被害者だけでなく、韓国やその他の国の被害者の一刻も早い救出が望まれる。しかし、これまでは北朝鮮の人権問題に対する国際的関心が特に高いとは言えなかった。これを機会に北朝鮮に関する正確な認識を世界に広めるべきだ。

報告書は、拷問や市民の迫害、公開処刑、極めて残酷な強制収容所などの例を挙げ、「これほどの規模で人道に対する罪を働いている国は他にない」と断言している。

そして国連安全保障理事会に対し国際刑事裁判所(ICC)への付託など北朝鮮に対する国際的な司法手続きを進めるべきだと勧告した。

実は国連調査委員会の動きは早いとは言えなかった。その代わり、外国人拉致に関与した脱北者をはじめ200人以上の聞き取り調査を行うなど国際社会への説得力を期待できる手法を取った。聞き取り調査には日本の拉致被害者家族も協力した。

しかし現実には、北朝鮮指導部が現在の残虐な路線を直ちに改めることは考えにくい。ジュネーブ駐在の北朝鮮国連代表部は既に「調査委員会による報告書のすべてを完全に拒否する」との声明を発表した。

国際的な司法手続きを目指しても、安保理で拒否権を持つ中国が北朝鮮をかばい、事実上空振りに終わる可能性が高いだろう。

だが、国際社会に正確な認識が広まれば、北朝鮮指導部もこれまでの路線をそのまま維持することに負担を感じる可能性はある。国連調査委員会が中国などに求めた「脱北者を北朝鮮に強制送還しない」「北朝鮮の工作員による中国内での拉致行為を防ぐ措置をとる」といった具体的要求も効果がないとは言えまい。

北朝鮮は金第1書記の叔父を処刑したことでますます残虐なイメージを強めた。中国との関係も良好ではないようだ。このままでは体制の危機を招く可能性が高いという見方も強まっている。最高指導者のまともな決断を引き出すために国際的圧力を強めたい。

読売新聞 2014年02月19日

国連人権委報告 認定された北朝鮮「国家犯罪」

日本人拉致などの北朝鮮の国家犯罪に対する国連の厳しい告発である。北朝鮮には、強い国際的圧力となろう。

その圧力をテコに、拉致問題の解決につなげていくことが肝要だ。

北朝鮮の人権に関する国連調査委員会が報告書を公表した。

報告書は、北朝鮮による「組織的で広範かつ深刻な人権侵害」の存在を認め、「国家政策に基づくもの」と断定した。これらが「人道に対する罪」にあたるとして、国際刑事裁判所に付託するよう国連安全保障理事会に勧告した。

昨年3月に国連人権理事会が全会一致で設置した専門家による調査委が、北朝鮮の国家ぐるみの犯罪を糾弾した意味は大きい。国際社会は、今なお続く北朝鮮の人権侵害を座視してはならない。

報告書は、多数の被害者や目撃者、各国政府関係者らによる膨大な証言に基づいており、人権侵害の全体像を包括的に立証した。

強制収容所、恣意(しい)的な拘束や拷問、公開処刑、政策に起因する飢餓、自由の抑圧や差別など人権侵害のおぞましい実態を詳述している。「これほどの人権侵害がまかり通る国は、現代では類を見ない」との指摘には説得力がある。

特に、日本人を含む外国人拉致は「金日成―金正日―金正恩」の3代世襲の体制下、「最高指導者の承認」で実行されたと明記した。調査委員長は金正恩第1書記の責任を問う可能性にも言及した。

北朝鮮は調査委に一切、協力せず、今回の報告書にも「全面的に拒否する」と強く反発した。だが、人権状況を改めない限り、経済再建に不可欠な国際社会との関係改善は望むべくもあるまい。

北朝鮮は、拉致被害者に関するすべての情報提供や、生存者の速やかな帰国などを求めた報告書の勧告を重く受け止めるべきだ。

報告書は、拉致が日本だけの問題ではなく、国際社会の重大な懸念事項であることを示した。調査委設置に積極的に関わってきた安倍首相の外交成果でもある。

政府は、国際的懸念の高まりを背景に政府間協議の再開を北朝鮮に促し、拉致被害者全員の即時帰国、真相究明、犯人引き渡しの実現に全力を挙げてもらいたい。

中国に入国後、強制送還される脱北者も後を絶たない。中国に居住する脱北者を北朝鮮の工作員が拉致する事件も起きている。

北朝鮮に影響力を持つ大国として、中国には、拉致問題の解決を含めた北朝鮮の人権状況の改善に協力する責任がある。

産経新聞 2014年02月19日

「拉致」国連報告 各国が協力して圧力を 北は被害者を即時帰国させよ

日本人を含む外国人拉致から政治犯の拷問や公開処刑まで、北朝鮮の残虐行為が国際社会で改めて明らかになった。

国連人権理事会の調査委が、これらを国家による組織的な人権侵害と認定し、「人道に対する罪」と断じた報告書を公表した。

拉致は「最高指導者の承認の下、実行された」とし、金日成主席、金正日総書記が認識していたと指摘している。

後継の金正恩政権は重く受け止め、誠意ある対応を直ちに取らなければならない。日本政府は拉致問題解決に向け、各国への働き掛けを一層強めるべきだ。

《乗員を漁船ごと沈めた》

調査委の報告書が、拉致被害者家族や脱北者らの数多くの証言から、北朝鮮の国家犯罪を立証した努力を評価したい。

調査委メンバーは、ソウル、東京、ロンドン、ワシントンで公聴会を開いたほか、240人以上の脱北者らに匿名でインタビューを行った。

報告書は本体とは別に証言を中心とした資料が添えられ、約400ページに及ぶものになった。被害者らのナマの声が、北指導部を指弾している。

「海上での日本人拉致は深夜から午前3時にかけて行われ、日本船を装って日本漁船に接近し、若く有能な乗組員を拘束し、他の乗組員は漁船ごと沈めた」

日本人拉致を実行した軍当局者の具体的な証言は、拉致の非人道性を象徴的に示した。

また収容施設で出産した女性が子供をたらいの水に逆さまに入れるよう命じられ、許しを乞うと殴られ、窒息死させたとの信じがたい目撃談も紹介された。

こんな非道なことがなぜ行われたのか。

調査委のマイケル・カービー委員長は会見で「金正恩第1書記自身も人道に対する罪の責任がある可能性がある」と指摘した。

外国人拉致は1950年代から「国家政策」として、日本や韓国、欧州などで行われ、行方不明者は20万人以上に上るという。金正恩政権はこうした不明者の全員について明確な説明をする重い責任がある。

北の人権侵害は外国人拉致にとどまらない。思想・表現・信教の自由、居住・移動の自由がなく、任意の拘束、処刑、拷問が行われ住民は飢餓にさいなまれている。「現代世界で比類ない」と報告書が批判するほどの残忍さだ。

北朝鮮は調査委の入国を認めなかった。ジュネーブの北朝鮮代表部は報告書の内容を「拒否する」と表明したが、非人道的行為はないというのなら、調査委を受け入れるべきだ。

《家族会の期待に応えよ》

調査委は昨年3月の人権理事会決議を受けて設置された。報告書は来月、理事会に示される。理事会では北朝鮮指導部の個人責任を追及する厳しい決議の採択を目指してほしい。

調査委はまた、責任追及のため、国連安保理に対し、国際刑事裁判所(ICC)に付託するよう勧告した。

調査委にはICCに案件を直接付託する権限がなく、協定に基づき、安保理を通じて行う仕組みとなっている。北朝鮮に圧力をかけるため、安保理の各国が足並みをそろえる必要がある。

気がかりなのは、中国が調査委に必ずしも協力的でなかったことだ。これによって、中国の北朝鮮との国境付近での聞き取り調査ができなかったという。

ICC付託をめぐって、中国による安保理での北朝鮮擁護や妨害があってはならない。

菅義偉官房長官は「報告書を歓迎する。関係国と連携し具体的な役割を果たす」と述べた。古屋圭司拉致問題担当相は「拉致問題を人道に対する罪と断定し、北朝鮮を名指しで批判した厳しい内容だ」と評価した。

昨年8月の東京での公聴会では拉致被害者の横田めぐみさん=拉致当時(13)=の両親らが証言した。被害者家族会代表の飯塚繁雄さんは「報告書だけで終わらせてはならない。各国が関心を持って対応してもらうよう、日本政府から具体的に働き掛けてほしい」と語っている。

日本政府はこうした家族の願いを受け、あらゆる機会をとらえて、拉致問題解決をアピールするなどし、各国の協力を引き出してもらいたい。

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