羽生結弦「金」 あくなき向上心が五輪を制覇

毎日新聞 2014年02月16日

羽生選手金メダル 更なる成長見守りたい

日本スポーツの歴史に新たなページが刻まれた。ソチ冬季オリンピックでフィギュアスケートの羽生結弦選手が金メダルを獲得した。フィギュア種目における日本選手の金メダルは2006年トリノ大会の荒川静香さん以来2人目、男子では初の快挙だ。19歳で世界の頂点に立った彼の成長を静かに見守りたい。

フィギュアに精通していない人たちも、羽生選手の演技には目を見張ったのではないか。高い技術力に裏打ちされたジャンプだけではない。上体を反らして滑走するイナバウアーなど体の柔軟性を生かした表現力への評価も高い。「剛と柔」が融合したスケーターだ。

加えて、身長171センチ、体重52キロというすらりとした体形、あどけなさの一方で意志の強さを感じさせる面構えも見る人を引きつける。

今大会ではショートプログラム(SP)で自己の持つ世界最高得点を塗り替えて首位に立ち、フリーでは珍しくジャンプのミスが重なったものの持ちこたえ、世界選手権3連覇中の優勝候補、パトリック・チャン選手(カナダ)らを抑えた。

優勝が決まった後は、喜びだけでなく、悔しさも口にした。演技の後半は心身のバランスを保つことに苦労したという。震災復興に関する質問には「僕一人が頑張っても復興に直接つながるわけではない。無力感がある」と答えた。歴史的な金メダルにもはしゃがない。抑制のきいた言葉遣いが印象に残った。

日本選手は今大会、羽生選手だけでなく、10代の存在感が目立つ。スノーボードの男子ハーフパイプで銀メダルの平野歩夢選手は15歳、銅メダルの平岡卓選手は18歳、スキー・ジャンプ女子で4位入賞を果たした高梨沙羅選手は17歳だ。

持てる力を発揮して常に安定した成績を残すのは難しい。スノーボードでは第一人者のショーン・ホワイト選手(米国)がメダルに届かず、フィギュアスケートでは世界王者のチャン選手が優勝を逃した。

羽生選手のようにオリンピックやワールドカップ(W杯)で確実にメダルを獲得することが偉業であることは間違いない。だが、シーズンを通して力を発揮し続けることも素晴らしい。そういう意味で、今大会でのメダル獲得はならなかったとはいえ、W杯で今季13戦10勝と圧倒的な成績を残してきた高梨選手の評価が揺らぐことは決してない。

羽生選手が「オリンピックの金メダリストになれたからこそスタートなんじゃないか」と話したように、オリンピックはゴールではなく、メダルのあるなしにかかわらず、人生は続いていく。10代選手らの人間としての成長にも期待したい。

読売新聞 2014年02月16日

羽生結弦「金」 あくなき向上心が五輪を制覇

日本のスポーツ史に残る金字塔である。栄誉を祝福したい。

ソチ五輪のフィギュアスケート男子で、19歳の羽生結弦選手が、金メダルを獲得した。

フィギュア男子の金メダルは、日本の五輪史上、初めてだ。

ショートプログラムで世界歴代最高得点をたたき出した。フリーでも世界選手権3連覇中のパトリック・チャン選手(カナダ)を抑えた。堂々の世界一である。

五輪ならではの緊張感からだろうか、フリーの演技ではジャンプの失敗があった。それでもあきらめず、長い手足を生かした見事な表現力で観衆を魅了した。

コーチと抱き合って、快挙達成を喜んだ。その一方で、「悔しい。自分の演技に満足していないので」とも語った。完璧な演技を追い求める向上心が、羽生選手を金メダルへと導いたのだろう。

仙台市の出身。4歳でスケートを始めた。2011年3月の東日本大震災発生時には、市内のリンクで練習中だった。スケート靴を履いたまま逃げた。

その後、全国のアイスショーに出場しながら練習を積み、12~13年シーズンからカナダ・トロントに拠点を移した。

羽生選手は、本来ならずっと仙台で練習を続けたかったという。五輪の大舞台では、仙台の人たちへの思いを胸に滑ったに違いない。金メダルは、復興が思うように進まない被災地に向けたこの上ないエールとなっただろう。

06年のトリノ五輪で、荒川静香さんが金メダルに輝いた。今回、男子でも五輪を制したことで、日本のフィギュア界は大きな目標を達成したことになる。

日本スケート連盟は1992年から毎年、「全国有望新人発掘合宿」を開いている。「野辺山合宿」と呼ばれるこの取り組みで、才能豊かな小中学生を見いだし、早いうちから国際大会に派遣して、経験を積ませている。

羽生選手、荒川さんも、かつてこの合宿に参加した。

伝統的な強さを持つ欧米勢に、日本が割って入れたのは、戦略的な強化策の成果と言える。

ただ、今大会から正式種目となったフィギュア団体で、日本は5位にとどまった。層が薄いペアとアイスダンスの選手育成が今後の課題である。

大会終盤には、女子の競技が控えている。羽生選手の金メダルは、浅田真央選手ら日本選手にとって、大きな励みとなったはずだ。力を存分に発揮してほしい。

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