浜岡原発審査 再稼働より廃炉検討を

朝日新聞 2014年02月15日

浜岡原発 動かしてはならない

中部電力が浜岡原発4号機(静岡県)の再稼働を、原子力規制委員会に申請した。

浜岡を動かしてはならない。その再稼働の可否は、規制委の審査の次元を超えている。国全体のリスク管理の一環として、政府が主導して廃炉にしていくべきだ。

理由ははっきりしている。

浜岡原発が、南海トラフ巨大地震の想定震源域に立地しているからだ。複合災害を含め、どんな被害が生じるかはまさに未知数である。

必ず「想定外」のことが起きる。そこを出発点に、あらためて原発の必要性を問い直し、できるだけ危険性を小さくすることが、福島での過酷事故を経験した私たちの義務だ。

福島第一原発の事故で避難指示の対象となった被災者は8万人以上にのぼる。浜岡原発から30キロ圏内の防災重点区域の人口は約86万人。事実上、避難は不可能と考えるべきだ。

近くには東名高速、新東名高速、東海道新幹線が通り、人やモノが日々、大量に行き交う交通の要所である。放射能漏れが起きれば、東西を結ぶ大動脈が断たれ、日本全体がまひしかねない。自動車産業を中心に製造業が集積する拠点でもある。経済活動への世界的な影響ははかりしれないだろう。

「そもそも建てるべきではなかった場所にある原発」といわれるゆえんである。

再稼働には地元の合意が必要だが、静岡県知事は慎重な姿勢を崩していない。中部電力が安全協定を結んできた4市でも、例えば牧之原市議会は「確実な安全・安心が担保されない限り永久停止」を決議している。

原発の潜在リスクが企業の立地回避や、お茶など農産品の風評被害につながりかねないという懸念がある。

浜岡原発が廃炉となれば、中部電力の経営には打撃になる。廃炉に向けて、政府はさまざまな支援を講じる必要もあろう。

ただ、中部電力は発電設備に占める原発の比率が10・6%と、他の大手電力より低い。このため原発停止後の燃料費増を受けた電気料金の値上げ幅も小幅にとどまっている。

原発に依存しないぶん、大阪ガスとパイプラインを構築したり、東京電力管内での電力販売に名乗りを上げたりと、経営に独自性をみせる電力会社だ。今後の電力システム改革の中で、いち早く競争力をつける可能性がある。

浜岡の再稼働にこだわらず、負荷をチャンスへと転じる好機ととらえてはどうか。

毎日新聞 2014年02月15日

浜岡原発審査 再稼働より廃炉検討を

中部電力が、運転停止中の浜岡原発4号機(静岡県御前崎市)の再稼働に向けた安全審査を原子力規制委員会に申請した。同3号機についても申請の準備を進めている。だが、浜岡原発は南海トラフ巨大地震の震源域の真上という極めて危険な場所に立地している。検討すべきは再稼働ではなく廃炉の方である。

中部電は東日本大震災直後の2011年5月、菅直人首相(当時)の要請で浜岡3~5号機(1、2号機は廃炉手続き中)を全面停止した。浜岡で福島第1原発のような事故が起きれば日本列島が分断され、周辺被害はもちろん、国民全体の生活や経済活動にも大きな影響が出る。要請にはそうした判断があった。

中部電は原発新規制基準に対応するため、安全対策の前提となる地震の揺れや津波の高さの想定を見直し、海抜22メートルの防波壁などを建設中だ。安全対策工事費は総額3000億円規模で、4号機は15年9月、3号機は16年9月の完了を目指している。規制委の審査ではこうした対策の妥当性評価が焦点となる。

だが、どれだけ対策を強化したとしても事故のリスクはゼロにはならない。だからこそ、事故に備えた住民の避難計画作成が不可欠となる。

計画の対象となる原発周辺の11市町には約96万人の住民が暮らす。県と各市町は避難計画をいまだに作成できていない。避難計画は巨大地震と原発事故が重なった複合災害への対応が前提となるものの、避難先や移動経路の確保が難しいのだ。実効性ある計画を作成できるか大いに疑問で、地元自治体には再稼働への根強い反対もある。

それでも中部電が再稼働を目指すのは、経営改善のためだ。原発停止に伴う火力発電の追加燃料費は年間3000億円を超し、今年4月からの電気料金値上げを予定している。

これは停止中の原発を抱える電力各社に共通する論理だ。安全審査を申請した原発は浜岡4号機を含め電力8社の10原発17基になる。

安倍政権は規制委の審査を経た原発を再稼働させる方針だ。しかし、審査合格をお墨付きに再稼働をなし崩しに進めるだけでは、「可能な限り原発の依存度を低減する」(安倍晋三首相)ことはできない。審査に合格しても、地震の確率や老朽化度合いなどにより各原発の事故リスクには差がある。政府は再稼働を必要最小限にとどめ、リスクの高い原発から順次廃炉にしていくべきだ。

現状では、廃炉の判断は営利企業である電力会社に任されている。政府主導で廃炉を促す制度づくりが必要で、国民の負担についても議論が要るだろう。浜岡原発の廃炉はそのモデルとなり得る。

産経新聞 2014年02月16日

規制委の安全審査 「後出し」ルールは問題だ

政府の原子力規制委員会が進める原発の安全審査で、最終的な結論を出す前に国民からの意見募集や公聴会などの実施が計画されている。

一部原発の審査作業が大詰めを迎えた中で突然「後出し」の新ルールを追加するのは問題だ。

原発再稼働に必要な安全審査は大幅に遅れている。予定になかったハードルが加われば、審査がさらに長引くことになる。規制委には再稼働を遅らせたい意図があるのではないかとの疑念すら持たれかねない。

規制委の役割は、科学的な知見に基づいて原発施設に関する安全性を高めることにある。規制委は、あくまで迅速で専門的な審査に徹すべきである。

田中俊一委員長は会見で「最終的な決定を出す前に、いろいろなご意見を聞くべきではないかと考えている」と話し、審査終了前にパブリックコメントの募集や公聴会を検討する考えを示した。方法によっては、審査そのものに影響を与えかねない。

福島第1原発事故を受け、過酷事故対策なども盛り込んだ現在の安全基準は、国民からの意見募集などを経たうえで、昨年7月に施行された。

その基準に基づいて実施した審査について、改めて公聴会を開くのは、屋上屋を架すことになり、合理的とはいえない。

規制委に対しては、その独善ぶりを批判する声がある。委員個人の意見が全体の判断に色濃く反映される傾向が強いからだ。自民党チームから「合議制での検討ができていない」と組織運営の改善を促す意見書が出たほどだ。

意見書は、規制委設置法で定める「原子炉安全専門審査会」などの早期設置も求めた。審査会は規制委の「お目付け役」の機能も期待される。田中委員長は審査会の権限強化に消極的だが、規制委の活動監視は必要だ。

国内すべての原発が稼働を停止する中で、電力会社は10原発17基の安全審査を規制委に申請中だ。だが、田中委員長は「年度内には終わらない」と公言している。審査の停滞は深刻な問題だ。

原発停止に伴う電気代の上昇は、家計や企業に重い負担を強いている。電力の安定供給にも支障が生じつつある。原発の早期再稼働に向け、規制委は遅滞なく審査を進める義務があることを忘れてはならない。

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