中台会談 台湾の民意を尊重せよ

朝日新聞 2014年02月12日

中台会談 台湾の民意を尊重せよ

台湾海峡は、冷戦後の世界で最も危うい発火点の一つとされてきた。だが、それは次第に過去のものになりつつある。

中国と台湾の分断から65年。中台関係を担当する双方の閣僚がきのう、初めて正式に会談した。舞台となったのは、中国の近代を切り開いた孫文の陵墓がある古都・南京だった。

対話をめざす国民党の馬英九(マーインチウ)氏が台湾の総統に就いた08年以来、融和ムードが続いている。穏健路線の結実は、日本にとっても歓迎すべきことだ。

中台双方の政権は、この機運を大切にしつつ慎重に対話を深めてほしい。特に、台湾住民の意思を尊重しながら歩を進めるよう留意すべきだ。

中国の共産党と台湾の国民党とは、大陸で激しい内戦を繰り広げた歴史を背負っている。

共産党政権は台湾統一を中華民族の悲願とし、対する国民党政権は今も中国全土の主権を持つ建前を捨てていない。

だから、90年代に始まった実務交渉は「民間窓口機関」同士という体裁をとった。その成果で今は直行便が行き交い、貿易、投資も盛んになった。

今回は「民間」レベルから大きく踏み出した。互いに中台関係を担う閣僚同士が直接対面したことに意味がある。

中国側は、統一に向けた重要な一歩と位置づけるだろう。台湾側は、深まる経済の結びつきを重んじ、対中関係の安定は欠かせないとの判断があろう。

中台の首脳会談の実現もそう遠くない。そんな声も出始め、台湾の政権内では前向きな発言も出ている。

だが忘れてはならないのは、台湾の人びとは性急な接近も緊張も望んでいないことだ。

世論調査では8割が「現状維持」を支持している。中国との統一を望む意見も、逆に台湾が国として直ちに独立すべきだとの意見も、どちらも少ない。

中国の民主化の遅れに違和感を抱き、台湾人としての意識は高まる傾向にある。一方で中国との経済関係は大事にしたい。「現状維持」は、台湾の平衡感覚の表れであろう。

中国は統一を叫ぶ前に、圧力をゆるめるのが先決だ。

中国は千数百発のミサイルを台湾に向け、武力行使の構えを崩さない。台湾が世界保健機関(WHO)などの国際機構に正式加盟することも阻んできた。そうした行動が続く限り、台湾の警戒感は消えない。

馬総統の任期はあと2年を残すばかりだ。功を焦らず、台湾とアジアの未来を冷静に見据えた取り組みを期待したい。

毎日新聞 2014年02月14日

中台公式会談 まずは信頼関係を築け

中国と台湾の初の閣僚級会談が南京市で開かれた。中台は互いの主権を認めておらず、これまでは民間の窓口機関を通した対話にとどまっていた。双方は1949年の分断後、長らく敵対してきたが、交流を積み重ねることで、政府間の直接対話を実現させた。今回の公式会談で中台関係は新たな段階に入ったといえ、対話が台湾の立場を尊重するものであるなら歓迎したい。

11日の会談では、主管官庁同士の恒常的な連絡体制など直接対話メカニズムを構築することで合意し、出先事務所の相互設置や経済協力などについても意見交換した。

中台は90年代に入って経済交流が盛んになり、実務的な問題を協議する必要が生じ、双方が民間団体をつくって対応してきた。だが、台湾で2000年に独立志向の強い民進党が政権をとってからは対話が途絶えた。08年に国民党の馬英九政権が誕生して経済関係は緊密化し、中国への依存度が高まっている。台湾は環太平洋パートナーシップ協定(TPP)などへの加盟を目指しており、それには中国の協力が必要という事情もある。

そうした流れの中で実現した今回の会談だが、中国が将来の中台統一を目指す政治対話の始まりと位置付けようとしていることに対し、台湾には警戒感が広がっている。台湾としては中国のペースで対話が進むのを避けたいのが本音だ。

台湾でも今年秋、北京で行われるアジア太平洋経済協力会議(APEC)で中台トップ会談が実現するかどうかが話題になるなど、中台対話への関心は高まっている。だが、各種世論調査で80%以上が現状維持を望んでおり、今回の会談に対して、立法院(国会)が政治的な議題について交渉や声明発表をしないよう求める決議を採択するなど、中国との政治対話への拒否感は強い。

民主化が定着した台湾では、民意を無視して政策を進めることはできない。馬総統の支持率は低迷しており、住民の意向を尊重しなければ、選挙で手痛い目に遭うだろう。中国が政治対話を急ぎ、台湾が望まないやり方を押し付けようとすれば、台湾の人々の心が離れていくだけだ。まずは中国が台湾に武力行使をしないと明言したうえで、経済分野を軸にさらに交流と対話を深め、時間をかけて信頼関係を築いていくべきである。

台湾海峡の緊張が収まりつつある一方で、東シナ海や南シナ海では尖閣諸島や南沙諸島を巡り、中国と日本やフィリピンなどとの摩擦が絶えない。中台対話の進展を地域の平和と安定につなげるには、周辺国との関係改善にも取り組む姿勢が中国に求められる。

読売新聞 2014年02月14日

中台閣僚級会談 歴史的な一歩にはなったが

中国と台湾の関係は、当局同士が直接交流する新たな段階に入った。これが、台湾海峡の緊張緩和を促し、東アジアの安定に寄与するのかを注視したい。

中台関係の主管官庁トップである、中国の張志軍・国務院台湾事務弁公室主任と、台湾の王郁●・大陸委員会主任委員が、南京で会談し、恒常的な相互連絡ルートを設けることで合意した。(●は王ヘンに奇)

1949年の中台分断後、中台政策担当の閣僚級会談が行われたのは初めてだ。

互いに相手の主権を認めていない中台間には、これまで当局同士の対話の枠組みはなく、経済協力などの話し合いは、「民間」の窓口機関を通じて行われてきた。

今後、当局間では、出先事務所の相互設置をはじめ、様々な形の直接交流が模索される。

ただ、歴史的な閣僚級会談を実現させた中台首脳の思惑には大きな食い違いがあると見てよい。

台湾の馬英九総統の狙いは、対中ビジネス拡大につながる規制緩和を中国当局から引き出したり、国際的な経済協定の当事者としての地位を中国に認めさせたりすることだろう。

そうした成果を上げられれば、支持回復につながるとの読みがあるのではないか。年末の統一地方選を控えて、経済成長の鈍化や所得格差、側近の汚職、与党・国民党の内紛などにより、馬政権の支持率は低迷したままである。

これに対して、中国の習近平国家主席は、今回の会談を中台統一に向けた政治協議への足がかりとみなしているに違いない。

だが、台湾側は政治協議には消極的だ。台湾住民の大多数は、現状維持を望んでおり、中国との統一は拒んでいる。

当面の焦点は、北京で今秋開かれるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際に、馬氏と習氏による会談が実現するかどうかだ。実益重視の台湾と、統一協議につなげたい中国との駆け引きが続くことになろう。

中台当局間の交流が本格化しても、台湾周辺の安全保障の構図には、依然変化がない。中国は武力統一の選択肢を放棄していない。台湾は、武器購入などで米国からの支援に依存している。

日本にとって、台湾は、尖閣諸島周辺を含む東シナ海などでの中国の覇権的行動をけん制する上でも重要な隣人である。中台接近が地域情勢に及ぼす影響を見極めながら、台湾との関係を密にしていくべきだ。

産経新聞 2014年02月13日

中台会談 台湾は民意映した戦略を

中国と台湾が1949年の分断後初めて、中台関係を担当する閣僚による直接会談を行った。

朝鮮半島とともに「東アジアの火薬庫」ともいわれてきた台湾海峡で、対話による緊張緩和が進むことは歓迎したい。

しかし対話が、強大化した中国に台湾が取り込まれていくプロセスになってはならない。台湾の馬英九政権には、現状維持を志向する民意を映した対中戦略を求めたい。

国共内戦で血を流した双方は、相手の支配地域を含む「中国全土の正統政権」という建前の下、相互の主権を認めず、建前を棚上げして「民間」の窓口機関を介し、対話・交流をしてきた。今回の会談は、その「間接話法」から閣僚級の「直接話法」に切り替えたところに従来との違いがある。

11日の南京会談では、実質的な領事機能を持つ連絡事務所の相互開設などが協議された。しかし、会談を中台統一への政治対話の入り口とみる中国側に対し、台湾側は実務的な経済関係の円滑化と信頼醸成に重きを置いたといえる。閣僚協議の継続に当たり、その基本線を崩すべきではない。

台湾・行政院大陸委員会が昨年末に公表した住民の世論調査では中台の協議制度を「支持する」との回答が68・7%に達している。経済を中心にした対中依存の強まりを考えれば、当然だろう。

だが、同じ調査で、84・6%が中台関係の「現状維持」を望むとし、台湾のケーブルテレビが昨秋に「独立か統一か」の二者択一で回答を求めたら、71%が統一を拒否する姿勢を示している。台湾の民意の所在は明らかだ。

台湾の安全の守護者である米国も歴史的に関係が深い日本も、力による台湾海峡の現状変更を懸念し、対話による関係改善を促してきた。日米の国益は、台湾の民意と同じ中台関係の「現状維持」にある、といっていい。

台湾海峡をめぐっては、世界第2の経済力を蓄え軍備拡張に走る中国がいつまでも現状に甘んじてはいない危険性がある。日米台とも警戒を怠ってはならない。

会談に際し、「民主」「人権」への言及は中国側の要請で封印されたという台湾報道もある。台湾が中国とは際立って異なる価値観を放棄したのなら、残念だ。

中国の思惑に引きずられないためにも、民意に根ざした対話指針を内外に説明してほしい。

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