ビットコイン 協調して規制・監視を

朝日新聞 2014年02月13日

ビットコイン 「お金の未来」に備えを

通貨危機に放漫財政、超金融緩和と、近年の世界経済は騒々しい。普通のお金の信頼が揺らぐなか、それを追い風に新種の仮想通貨が広がっている。

「ビットコイン」と呼ばれるネット上の「お金」だ。

投機の的になったり、犯罪に使われたりと問題も浮上した。一方で、各国政府の関与が及ばない「ネット通貨圏」としての潜在力も示している。

似たような仮想通貨は今後も現れるだろう。その利点と弊害は何かを見きわめ、各国が協調して法整備や監視へ向けた知恵を絞る時代が来たようだ。

電子マネーとも呼ばれる従来の仮想通貨は、銀行や会社が各国の法に従って発行してきた。お金としての価値を裏づける円やドルなどを保有し、その分を電子データ化したものだ。

一方、ビットコインも電子データだが、特定の発行者はいない。法的根拠も裏づけ資産もない。ネット上で多くの利用者に分散管理されている。

暗号技術を駆使して発行量を制限する仕組みが、「お金」としての信用状態を作り出している。利用者からすれば、送金の手数料がほとんどないなどの利点があり、匿名性も高い。

開発されたのは09年だった。昨年春に起きたキプロスの金融危機の際にロシアマネーの逃避先となって脚光を浴びた。

その後、アルゼンチン、イラン、中国など、各地で利用が増えた。投機にも拍車がかかり、対ドル相場は1年足らずで100倍超の急騰ぶり。全体の時価は総額1兆円程度ある。

一方で、問題も顕在化した。中国政府などが投機性を理由に禁止や規制に動き、相場は動揺している。売買の集中で取引所が止まるなどシステムの未熟さも露呈した。米国では麻薬取引での悪用が摘発された。

このビットコイン自体は、最近の通貨不安が生んだ、あだ花で終わるかもしれない。だが、同じような匿名有志の分散管理による仮想通貨の開発は、これからも進化を続けるだろう。

国ごとの財政不安や政治的な思惑とは無縁の通貨として存在感を増す可能性がある。国境のないネット上の潮流には、各国の協調対応が必要だ。

まず匿名性への歯止めなど、犯罪防止は最優先だろう。既存の金融制度や税制とも整合する規制や監視を工夫したい。

投機なら金融商品として扱うべきだし、送金サービスとして監視下に組み込むことも可能だろう。銀行や証券会社との公平さも保ちつつ、どんな国際対応が可能か検討を急ぐべきだ。

毎日新聞 2014年02月13日

ビットコイン 協調して規制・監視を

インターネット上で流通する世界共通の仮想通貨「ビットコイン」の“負”の側面にスポットが当たり始めた。価値の乱高下に加え、先月末には米国で、ビットコイン界の大物と目されてきた人物が違法薬物などのネット取引を助けたとして逮捕された。東京に拠点を置くビットコイン専門の大手取引所が一部取引を停止するなど、混乱も広がっている。

こうした中、各国はそれぞれ対応に乗り出した。だが、国境や既存の規制の網目をぬって流通する無国籍通貨だ。規制当局による対処が国単位では限界がある。日本政府や日銀は海外の当局と協調し、実態の把握やルールの整備を急ぐべきだ。

ビットコインは、円やドルのような「国家」の後ろ盾がない、単なる暗号データである。「中本哲史」なる人物の論文が元となり、2009年に流通し始めた。それが、銀行やクレジットカードよりはるかに安い手数料で地球上のどこへでも送金や支払いができる便利さから人気を集め、円換算の値打ちは登場当初の100円未満から昨年11月末には一時12万円まで高騰した。最近はネット通販だけでなく、街中でも受け取る店舗が増え、流通量は円換算で昨年1兆円を突破したとされる。

しかし、ここへきてマイナス面に注目が集まっている。その一つが相場の振れ幅の大きさだ。昨年12月に、中国の金融当局が国内銀行にビットコインがらみの取引を禁じると、対ドルの価値は半減した。より深刻な問題は、匿名で取引できる仕組みのため、麻薬密売や犯罪資金の洗浄(マネーロンダリング)などに悪用される余地があることである。

各国の対応はさまざまだ。ロシア政府は仮想通貨を一切禁止すると発表したが、米国ではビットコイン自体は非合法とせず、犯罪利用を防ぐために取引所を免許制にする案が検討され始めた。日本では、日銀が研究を進めているというが、「既存の法律の対象外」(金融庁)と、政府が積極的に動く気配はまだない。

先進7カ国(G7)や主要20カ国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議なども活用し、犯罪への悪用を防ぐ共通の対策作りを急ぐべきだ。ビットコインのリスクを国民に理解してもらう啓発活動も要る。

一方で、なぜビットコインが支持されたかの背景を見つめることも大切だろう。銀行を介した海外送金の手数料は高すぎないか。既存通貨の後ろ盾であるはずの国家が、財政悪化や中央銀行による量的緩和など、通貨の信用を落とす行為に明け暮れていないか。実体のないバブルだと片付けるのは簡単だが、バーチャル通貨が発したリアルの世界への警鐘と受け止めた方がよさそうだ。

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