病院偏重の医療から、在宅ケア重視に転換する契機となるだろうか。
医療機関の収入となる診療報酬の改定内容が、中央社会保険医療協議会(中医協)で決まった。
重症者を受け入れる急性期病床の要件を厳しくする一方で、早期退院のためにリハビリを重点的に行う病床の報酬を手厚くする。
日本の病院は、患者の平均入院日数が欧米に比べて長い。それが医療費の膨張も招いている。
高齢化はさらに加速する。高齢者の多くが、在宅医療で対応できる慢性病を患っている現状を考えれば、急性期病床を減らし、早期退院を促す狙いは理解できる。
問題は、いかに病床の再編を効率的に進めるかだ。
厚生労働省のこれまでの診療報酬改定は、少なからず医療現場に混乱をもたらしてきた。
急性期病床についても、2006年の診療報酬改定を機に過剰になった。報酬を高く設定したため、多くの病院が必要以上に急性期病床を設けた結果だ。
看護師を多く配置する必要があるため、医療機関の間で奪い合いが生じた。都会に看護師が偏在する傾向も強まった。
急性期病床なのに、入院しているのは病状の落ち着いた高齢者が大半という病院も少なくない。
厚労省は、制度設計が甘かったことを反省すべきである。
今回の改定でも、同様の懸念は拭えない。リハビリ用病床の報酬を高くすれば、これに転換を図る病院が急増するだろう。リハビリ用病床が多過ぎると、本来は在宅ケアで済む患者が、病院にとどまることにつながらないか。
リハビリ用病床が過剰にならないよう、厚労省はしっかりとした対策を講じることが肝要だ。
今回の改定では、在宅ケアの患者の主治医となる開業医への報酬も新設される。在宅療養する高齢者の病状を安定させることが目的だが、大病院志向が強いとされる患者が、開業医をかかりつけ医とするかどうかは不透明だ。
病床再編には、診療報酬改定だけでなく、地域ごとに必要な急性期病床やリハビリ用病床数を正確に算出することが大切である。
政府は、現在の地域医療計画を充実させるために、必要なリハビリ用病床数を盛り込んだ「地域医療ビジョン」を15年度以降、都道府県に策定させる方針だ。関連法案の今国会成立を目指す。
医療機関への指導権限を持つ都道府県が、均衡の取れた病床再編に果たすべき役割は大きい。
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