診療報酬改定 「病院依存」から転換できるか

朝日新聞 2014年02月13日

診療報酬改定 主治医を選ぶためには

病気の治療だけでなく、予防から介護サービスの使い方まで何でも相談できる。

そうした「かかりつけ医」を誰もが持つ時代に向け、医療界が自己改革し、患者も意識を変える出発点にすべきだ。

医療の公定価格である診療報酬の改定内容が決まった。40兆円近い医療費の配分を見直す2年に一度の改定で、医療の質に大きく影響する。

目玉の一つが、「主治医」の普及を促す新料金だ。診察や検査などの報酬をひとまとめにして、生活習慣病や認知症の患者1人あたり月約1万5千円が医師側に支払われる。患者がかかる他の病院や処方薬をすべて把握するのが条件だ。

今回、消費増税への対応として初診や再診の料金を一律に引き上げたのは疑問だが、患者の生活全体に目配りする主治医に厚く配分する方向性は正しい。

診療所から動こうとせず、患者と目も合わさず、薬を処方するだけ。時間外は一切、対応しない。そんな開業医にまでお金は回せない。

ただ新制度の定着には、個々の医師がバラバラにがんばっても限界がある。地域の医療機関同士で情報を共有する仕組みが必要になろう。

参考になるのが、大阪市浪速区の医師会が4年前から取り組むネットワークづくりだ。

かかりつけ医が、患者の病気や薬、アレルギー歴などを記入した「ブルーカード」と呼ばれる書類を作成し、緊急時に対応を依頼する地域の病院に送るとともに、地区の医師会がデータベース化している。

登録した患者はのべ約700人。病気が悪化して救急車を呼んだ場合、登録先の病院がスムーズに受け入れる。そこでの状況は、医師会とかかりつけ医に報告される。

入院患者が退院する際、医師会がかかりつけ医を紹介する事業も手がける。

集めたデータを病気の予知に役立てることも視野に入れる。医師と患者の一対一の関係を超え、地域全体が有機的につながって安心を生むだろう。

誰を自分の主治医にするか、選ぶのは患者だ。その際、医師の診療科以外でも相談に乗ってくれるか、適切な病院を紹介してくれるか、などが重要な判断基準になる。

最初から大病院に行くのではなく、いざという時に地域の医療と介護のネットワークが頼れるよう、日頃から医師と信頼関係を結んでおく。そんな心構えが求められる。それは結果的に医療費の節約につながる。

毎日新聞 2014年02月14日

診療報酬改定 入院から地域医療へ

とりあえず何かあった時のために入院していた方が安心だと思う患者は多いだろう。病床が患者で埋まっていれば病院も安定した収入が得られる。だが、それでは医療費は膨張するばかりだ。2014年度診療報酬改定では患者7人に看護師1人と最も看護師の配置が厚く、報酬単価も高い病床を削減することが盛り込まれた。ただ、「とりあえずの安心」を求める患者を入院から解放するためには、本当に安心できる地域医療や介護が不可欠だ。

高齢化に伴い複数の慢性疾患を持つ患者は増えている。一つ一つの疾患ごとに専門医療が対処するのではコストがかかり、患者の生活にもよくない。医師や看護師の配置が厚い病院は役割を限定し、その分の財源や医療スタッフを慢性期や回復期の患者に回し、さらには患者が地域に戻れるようにしないと医療財政は破綻する。

今回の診療報酬改定では、生活習慣病や認知症の患者への診察や検査をまとめて引き受ける「主治医」の報酬を新設する。報酬を出来高払いではなく包括払いにすることで、過剰診療をなくし医療費の節約も図ろうというのである。在宅患者が急変時に入院できる24時間対応の病院への報酬を増額、訪問診療などを行う有床診療所の入院基本料の増額も行う。こうした方向性は評価できるが、はたして目的通りの医療体制を実現することができるだろうか。

同じ疾病でも患者の症状や治療効果は個人差が大きく、入院医療の必要性は医師の判断に負うところが大きい。行政の指導や管理に対する医師側の抵抗は強く、病院経営の立場で考えると、現実の必要性よりも報酬単価の高い医療を優先しようとするのは自然な流れだ。

それを行政は調整し制御することができず、過去の制度改革時に駆け込みで病床数は増えてきたのである。家族や地域の支え合いが希薄化し介護施設も不足している現状では、医療的ケアがそれほど必要ない患者の「社会的入院」の潜在的需要は高まるばかりだ。

政府は「地域医療・介護確保法案」を今国会に提出する。消費増税を財源に904億円を投じて各都道府県に基金を設置し、病院や診療所の統合や再編を促し、かかりつけ医と訪問看護・介護が連携する「地域包括ケアシステム」を拡充する。

医療と介護の一体改革が実効性を上げるには、都道府県の責任と権限を強化することが必要で、医療計画に反して病床を増やそうとする病院名の公表、補助金の停止ができるようにすることも必要だ。「主治医」を担う地域医師会の協力が何より必要なのは言うまでもない。

読売新聞 2014年02月13日

診療報酬改定 「病院依存」から転換できるか

病院偏重の医療から、在宅ケア重視に転換する契機となるだろうか。

医療機関の収入となる診療報酬の改定内容が、中央社会保険医療協議会(中医協)で決まった。

重症者を受け入れる急性期病床の要件を厳しくする一方で、早期退院のためにリハビリを重点的に行う病床の報酬を手厚くする。

日本の病院は、患者の平均入院日数が欧米に比べて長い。それが医療費の膨張も招いている。

高齢化はさらに加速する。高齢者の多くが、在宅医療で対応できる慢性病を患っている現状を考えれば、急性期病床を減らし、早期退院を促す狙いは理解できる。

問題は、いかに病床の再編を効率的に進めるかだ。

厚生労働省のこれまでの診療報酬改定は、少なからず医療現場に混乱をもたらしてきた。

急性期病床についても、2006年の診療報酬改定を機に過剰になった。報酬を高く設定したため、多くの病院が必要以上に急性期病床を設けた結果だ。

看護師を多く配置する必要があるため、医療機関の間で奪い合いが生じた。都会に看護師が偏在する傾向も強まった。

急性期病床なのに、入院しているのは病状の落ち着いた高齢者が大半という病院も少なくない。

厚労省は、制度設計が甘かったことを反省すべきである。

今回の改定でも、同様の懸念は拭えない。リハビリ用病床の報酬を高くすれば、これに転換を図る病院が急増するだろう。リハビリ用病床が多過ぎると、本来は在宅ケアで済む患者が、病院にとどまることにつながらないか。

リハビリ用病床が過剰にならないよう、厚労省はしっかりとした対策を講じることが肝要だ。

今回の改定では、在宅ケアの患者の主治医となる開業医への報酬も新設される。在宅療養する高齢者の病状を安定させることが目的だが、大病院志向が強いとされる患者が、開業医をかかりつけ医とするかどうかは不透明だ。

病床再編には、診療報酬改定だけでなく、地域ごとに必要な急性期病床やリハビリ用病床数を正確に算出することが大切である。

政府は、現在の地域医療計画を充実させるために、必要なリハビリ用病床数を盛り込んだ「地域医療ビジョン」を15年度以降、都道府県に策定させる方針だ。関連法案の今国会成立を目指す。

医療機関への指導権限を持つ都道府県が、均衡の取れた病床再編に果たすべき役割は大きい。

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