◆舛添氏は謙虚に政策を推進せよ
非現実的な「原発即時ゼロ」の主張に、多くの都民が拒否反応を示したと言えるだろう。
東京都知事選で、元厚生労働相の舛添要一氏が圧勝した。「東京を世界一の街にする」と述べ、福祉や防災、五輪に全力を尽くすと強調した。
原発の再稼働を認めず、即時ゼロを掲げた元首相の細川護熙氏や、前日本弁護士連合会長の宇都宮健児氏は及ばなかった。
国政に関わる原発・エネルギー問題を首長選で争うのは、無理があったのではないか。
◆「単一争点」は奏功せず
都知事選の性格を一変させたのは、告示直前になって細川氏が出馬表明し、人気の高い小泉元首相と二人三脚で、原発ゼロか否かと訴えたことである。
単一の争点を掲げる選挙では、小泉氏が首相時代、衆院選で郵政民営化を訴え、自民党を大勝させた例がある。だが、今回、そうした戦術は奏功しなかった。
読売新聞の出口調査では、有権者の重視した政策として「原発などエネルギー問題」は「医療や福祉」や「景気や雇用」を下回った。
細川氏は「原発以外の政策は、誰が知事でもそんなに変わらない」として原発を主要争点に位置づけながら、代替電源の柱とする再生可能エネルギーの確保策について具体的に語らなかった。無責任に過ぎる。
原発を代替している火力発電の燃料費がかさみ、電気料金の上昇が続く。二酸化炭素の排出増による環境への影響も心配だ。こうした点を考慮せず、観念的に原発ゼロを唱えても説得力はない。
これに対し、舛添氏は、エネルギーは国の政策との認識を示しつつ、都の再生可能エネルギーの割合を高めると主張した。同時に、子育て支援など身近な課題に力点を置いた選挙戦を展開した。
現実的な姿勢に、都民は期待を寄せたのではないか。
◆小泉VS安倍の代理戦争
自民党には当初、党を批判して除名された舛添氏を支援することへの慎重論もあった。だが、細川、小泉両氏の動向を受け、全面支援に乗り出した。
安倍首相や石破幹事長らも応援演説に立った。細川氏の得票が伸びれば、原発の再稼働、ひいては成長戦略に影響しかねないとの判断も働いたのだろう。
影の主役ともいえる小泉氏は、安倍首相の「政治の師」であり、昨年来、首相に原発ゼロへの政治決断を促してきた。だが、首相は受け入れず、両氏の間に溝ができていた。都知事選が、両氏の代理戦争となったことも否めない。
安倍首相は、国会で「『原発はもうやめる』というわけにはいかない」と述べ、国民生活や経済活動への悪影響を指摘した。近く決定するエネルギー基本計画で原発を重要電源と位置づけ、再稼働に正面から取り組むべきである。
疑問なのは民主党の姿勢だ。舛添氏を推す構えを見せていたが、細川氏に乗り換えた。民主党は、2030年代の原発稼働ゼロを主張しており、細川氏の「即時ゼロ」とは、本来は相いれない。場当たり的な対応と言うほかない。
細川氏の大敗で、民主党の一部にあった脱原発を軸とする野党再編構想も失速しよう。
都政の課題は山積している。舛添氏が演説で時間を割いた少子高齢化対策はその一つだ。
6年後には東京の人口の4人に1人を高齢者が占めるようになる。用地確保の難しさから、特別養護老人ホームなど高齢者施設の不足は一層深刻化するだろう。
舛添氏は都の所有する遊休地の活用を約束した。具体策を示す必要がある。4年で待機児童を解消する公約も実現してほしい。
20年東京五輪・パラリンピックの準備にも都知事は重い責任を負う。舛添氏は「史上最高の五輪」を目指すと繰り返してきた。
都は、五輪準備のために4000億円の基金を保有している。競技場建設などを遅滞なく進めることはもちろん、無駄を排し、使途の透明性を確保すべきである。
◆都議会と信頼関係築け
30年以内の発生確率が70%と予測される首都直下地震への備えも重要だ。立ち遅れている木造住宅密集地域の不燃化や老朽化したインフラの再整備が急務である。
猪瀬直樹前知事には独断専行が目立った。舛添氏は、得票結果に傲らず、謙虚な都政運営を心がけてもらいたい。
着実に公約を具体化していくには、都庁という巨大組織を率いるリーダーシップに加え、都議会との信頼関係をしっかり構築することが肝要である。
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