高齢者詐欺被害 周囲の気遣いが必要だ

毎日新聞 2014年02月08日

高齢者詐欺被害 周囲の気遣いが必要だ

電話をかけてでたらめな話を信じ込ませ、現金をだまし取る「特殊詐欺」の被害総額が昨年、約486億円で過去最高となった。子供や孫を装うオレオレ詐欺以外に、金融商品の取引を装う詐欺も急増している。

警察の摘発も増えているが、追いついていない。被害者の約85%が60歳以上だ。社会の高齢化が進む中で、高齢者の金融資産を付け狙う社会犯罪の様相を呈している。

警察の対応強化は当然だが、家族や地域で高齢者を見守り、被害を生まない環境を作ることが必要だ。

オレオレ詐欺が被害件数全体の4割以上を占め、被害総額は前年比5割増しの170億円に上った。株や社債などの購入代金名目で金をだまし取る金融商品取引詐欺の被害額も大きく、177億円に達した。

オレオレ詐欺は従来、銀行の現金自動受払機(ATM)から振り込ませる手口が中心だった。だが、金融機関がATMの1日利用限度額を引き下げた影響で、直接受け取りにくる手渡し型や、宅配便や日本郵便のレターパックで送らせる送付型が増えているのが特徴だ。手渡しの場合、1件当たりの被害額が膨らみ、400万円以上になるケースが多い。

なぜ、だまされるのか。電話の声や、話の内容で詐欺と気づくはずだと思うかもしれない。だが、話術は巧みだ。手口も手が込んでいる。パンフレットを送りつけた後、別の会社を名乗って電話し、「その会社は有望」と言って信じ込ませる。また、「特定の人しか買えない。名義を貸してほしい」と持ちかけ、その後、「名義貸しは違法」などと言って、トラブルの解決名目で金をだまし取る手口もある。

手渡し型が増加した影響か、交通の便のいい首都圏に被害が集中する傾向にある。各警察本部は情報共有を進め、一層の摘発を進めねばならない。だましの手口を積極的に広報し、地域の防犯教室などを通じて被害の予防にも努めるべきだ。

高齢者一人一人が常識を働かせ、自衛の意識を持つことも大切だ。たとえば、通常の郵便物や宅配で現金を送ることは禁止されている。そうした手段を指示されたら詐欺だと思うべきだ。怪しいと思ったら家族など周りの人に相談してほしい。

とはいえ、手口が巧妙化する中で被害を防ぐには、周囲の協力が欠かせない。犯罪の手段として大抵、電話が利用される。別居や1人暮らしの親の電話機に留守番機能を付けるだけでも効果は大きい。知らない番号の電話には出ないことだ。また、子供の名をかたった電話があったら、折り返しかけ直すことを習慣化させたい。意思の疎通と気配りが、被害を減らすことにつながる。

産経新聞 2014年02月09日

特殊詐欺 官民挙げて撲滅を目指せ

振り込め詐欺など「特殊詐欺」の昨年1年間の被害額は、過去最悪の約487億円となった。一方、銀行などの金融機関で職員らが高齢者に「声掛け」をして、被害を水際で阻止した総額は約193億円に上る。

被害の増加傾向に歯止めがかからないなかで、「声掛け」は大きな成果を上げたといえる。特殊詐欺の多くは、高齢者ら弱者を標的とする卑劣な犯罪だ。被害者は官民を挙げ皆で守る、という好ましい事例として参考にしたい。

特殊詐欺には、オレオレ詐欺、母さん助けて詐欺、架空請求詐欺などの振り込め詐欺に加え、架空の未公開株などの金融商品取引やギャンブル必勝法の情報提供を名目とした詐欺などが含まれる。

手口の主流は銀行口座への振り込め型だったが、最近は現金を直接受け取る方法が横行しており、暴力団組員や少年の摘発が増加傾向にある。暴力団の指揮下で少年が受け子(受け取り役)を務める構図が統計からもみえる。

警察にも、詐欺事件を捜査する刑事部に、暴力団対策や少年担当部門を加えた一層の連携強化が求められる。

「声掛け」も、警察と金融機関が連携して訓練を重ねてきた。昨年2月の全国一斉訓練は、金融機関や防犯ボランティアの約2万人が参加し、全国1275店舗で実施された。

警察官が被害者役を務め、行員が声掛け用のチェックリストを用いて被害者を見つけ、説得し、警察に通報する一連の対応を確認するなどの訓練が行われる。

昨年の警察白書では、山梨県の金融機関で80歳代の女性が高額の引き出しを申し込み、振り込め詐欺を疑った職員が、引き出しに応じた上で女性宅に同行し、孫の名をかたった株取引の損失補填(ほてん)詐欺を水際で食い止めた事例が紹介されていた。

難しい話ではない。

おじいさん、おばあさんを見守る、優しい目の数を増やそうということだ。

警察庁の意識調査によれば、振り込め詐欺の被害に遭った高齢者の8割以上が、自身が被害に遭う可能性について「全くない」「ほとんどない」と答えていた。

手を替え品を替え、悪質な特殊詐欺を仕掛ける犯罪者は後を絶たない。無防備な被害者は社会全体で守るしかない。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1703/