ロシアとの領土問題は重要な課題である。だが、その解決に向けては、北東アジア全体を見渡す視座が欠かせない。
冬季五輪が始まったロシア南部ソチで日ロの首脳会談があった。プーチン大統領による秋の日本公式訪問が決まった。
安倍首相の就任後、5回目の会談だ。プーチン氏は、多忙な開会式翌日ながら、昼食会まで用意して迎えた。やはりソチを訪れた中国の習近平(シーチンピン)国家主席にもなかった歓待ぶりだ。
ロシアの人権状況を懸念する米欧首脳の多くが五輪の開会式を欠席した。期せずして主要先進国の代表となった安倍氏を厚遇したということだろう。
記者会見で安倍氏は、「強固なものとなった個人的信頼関係をもとに」プーチン氏と領土問題を解決し、平和条約を結ぶことに強い意欲を示した。
領土問題をめぐる日ロ外務次官級協議は、ロシア側が「(北方領土)四島は第2次大戦の結果、ソ連領となった」との立場を繰り返し、停滞感が漂う。首脳間の信頼強化が打開へ向けて効果を持つのは確かだろう。
会談ではほかに、昨年から外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)が始まった安全保障や、エネルギー、経済など広く話し合われた。領土問題の解決には国民の交流も含む重層的な関係の底上げが必要だからだ。
だが、日本と中国、韓国との関係が悪化の一途をたどる北東アジア情勢には、ほとんど触れなかったのは疑問が残る。
ロシアは、極東とシベリアの開発にアジア太平洋諸国から投資や技術を引き入れようとしている。米国のシェールガス革命で輸出が減った天然ガスを、この地域に売り込む必要もある。
それには、大経済圏をつくる日中韓各国と等しく協力関係を保ちたい。また、北朝鮮の核開発問題など安保上の懸案でも、ロシアは日中韓との連携をめざしている。
その思惑の中で、領土や歴史をめぐり日本と中韓が緊張する状況は、ロシアにもマイナスとなる。地域の不安定化は外交の予測と計算を難しくする。
もし安倍氏が対ロ関係の強化を中韓への牽制(けんせい)に使うようになれば、プーチン氏は安倍氏と交渉する動機を弱めるだろう。
日ロ間の領土問題の解決も結局は、北東アジア全体の安定が前提となる。その現実を見失ってはならない。
日本はロシアとの関係と並行して、どうやって中韓との関係改善を実現するのか。プーチン氏訪日に向け、安倍首相はきちんと構想を描く必要がある。
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