北方領土の日 日露交流深める機会に

朝日新聞 2014年02月10日

日ロ領土問題 地域の安定が前提だ

ロシアとの領土問題は重要な課題である。だが、その解決に向けては、北東アジア全体を見渡す視座が欠かせない。

冬季五輪が始まったロシア南部ソチで日ロの首脳会談があった。プーチン大統領による秋の日本公式訪問が決まった。

安倍首相の就任後、5回目の会談だ。プーチン氏は、多忙な開会式翌日ながら、昼食会まで用意して迎えた。やはりソチを訪れた中国の習近平(シーチンピン)国家主席にもなかった歓待ぶりだ。

ロシアの人権状況を懸念する米欧首脳の多くが五輪の開会式を欠席した。期せずして主要先進国の代表となった安倍氏を厚遇したということだろう。

記者会見で安倍氏は、「強固なものとなった個人的信頼関係をもとに」プーチン氏と領土問題を解決し、平和条約を結ぶことに強い意欲を示した。

領土問題をめぐる日ロ外務次官級協議は、ロシア側が「(北方領土)四島は第2次大戦の結果、ソ連領となった」との立場を繰り返し、停滞感が漂う。首脳間の信頼強化が打開へ向けて効果を持つのは確かだろう。

会談ではほかに、昨年から外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)が始まった安全保障や、エネルギー、経済など広く話し合われた。領土問題の解決には国民の交流も含む重層的な関係の底上げが必要だからだ。

だが、日本と中国、韓国との関係が悪化の一途をたどる北東アジア情勢には、ほとんど触れなかったのは疑問が残る。

ロシアは、極東とシベリアの開発にアジア太平洋諸国から投資や技術を引き入れようとしている。米国のシェールガス革命で輸出が減った天然ガスを、この地域に売り込む必要もある。

それには、大経済圏をつくる日中韓各国と等しく協力関係を保ちたい。また、北朝鮮の核開発問題など安保上の懸案でも、ロシアは日中韓との連携をめざしている。

その思惑の中で、領土や歴史をめぐり日本と中韓が緊張する状況は、ロシアにもマイナスとなる。地域の不安定化は外交の予測と計算を難しくする。

もし安倍氏が対ロ関係の強化を中韓への牽制(けんせい)に使うようになれば、プーチン氏は安倍氏と交渉する動機を弱めるだろう。

日ロ間の領土問題の解決も結局は、北東アジア全体の安定が前提となる。その現実を見失ってはならない。

日本はロシアとの関係と並行して、どうやって中韓との関係改善を実現するのか。プーチン氏訪日に向け、安倍首相はきちんと構想を描く必要がある。

毎日新聞 2014年02月06日

北方領土の日 日露交流深める機会に

政府が2月7日を「北方領土の日」と定めてから33年が経過した。第二次世界大戦終了後、ソ連(現ロシア)が実効支配を続ける北方領土(歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島)の返還を求める声の高まりから1981年に制定された。以後、元島民や2世らも参加して毎年この日、東京都内で官民合同の「北方領土返還要求全国大会」が開かれてきた。

首相もほぼ毎年、参加している。今年は安倍晋三首相が大会に出席後、その足でロシアを訪れる。ソチ冬季五輪の開会式に出席し、プーチン大統領と会談する予定だ。首相には、故郷を追われた元島民らの思いをプーチン氏にしっかり届け、領土問題の解決に向けた取り組みを加速するための会談にしてほしい。

北方四島を「日本固有の領土」と考える日本に対し、ロシア側は「第二次大戦の結果、ロシア領になった」と主張している。歩み寄りは簡単ではないが、プーチン氏が「引き分け」による解決を訴えたことで打開への期待が高まっている。

安倍首相はプーチン氏との頻繁な首脳会談を通じて信頼関係の構築を目指しており、8日に予定される会談は5回目となる。実務交渉を委ねられた日露外務次官級の2回目の協議が1月末に開かれたが、首脳同士の腹を割った話し合いで、交渉の進展を後押ししてもらいたい。

2月7日は1855年、開国間もない当時の江戸幕府と帝政ロシアの間で、日露通好条約が結ばれた日である。択捉島の北を国境とし、両国間で最初の国境取り決めとなった一方、日露の国家同士の交流が始まった記念日でもある。決して「反露」の日ではない。このことをもう一度、前向きにとらえ直し、相互交流の促進に弾みをつける機会としてはどうだろうか。

安倍政権発足以降、日本は中国や韓国と首脳会談も開けない状態が続いているが、国民同士の交流の太さが決定的な対立を和らげる緩衝材になってきた面もある。日中、日韓間ではいずれも年に約500万人の往来があるが、日露間の往来は約13万人に過ぎない(2012年、日本政府観光局)。交流のパイプをさらに太くしていく努力が必要だろう。

その一つとして、日本側の提案で今年は「日露武道交流年」と定められ、外務省が具体的なアイデアを募っている。プーチン氏が柔道家で、武道に関心が高いことも考慮したものだが、こうした民間交流の促進策はもっとあっても良い。国民同士の相互理解は、互いに受け入れ可能な領土問題の解決には不可欠だ。交流をさらに深めることが、課題克服への歩み寄りを後押しすることを期待したい。

読売新聞 2014年02月11日

日露首脳会談 信頼醸成を「領土」につなげよ

首脳間の信頼関係の深まりを、どう成果につなげるかが問われよう。

ソチ五輪の開会式に出席した安倍首相が、ロシアのプーチン大統領と会談した。第2次安倍内閣の発足後、首脳会談は5回目だ。

ロシアの人権状況を問題視する欧米の主要国の首脳が開会式を欠席する中、安倍首相はあえて1泊3日の強行日程で訪露した。

プーチン大統領は、首相に「五輪への配慮に心からお礼したい」と述べ、昼食会を催して厚遇した。互いにファーストネームで呼び合うなど、首脳間の信頼醸成に効果があったと言える。

会談では、大統領の今秋の来日が決まった。大統領は、最近の日露間の貿易拡大を歓迎し、農業や鉄道、エネルギーを担当する閣僚と関連企業のトップを日本に派遣する意向を示した。

大統領は、極東・東シベリア開発を「21世紀のロシアの国家的な優先課題」としている。天然ガス開発などの協力は、資源の乏しい日本にとってもプラスだろう。

問題は、肝心の北方領土交渉が実質的に進まないことだ。

首相が「交渉を具体的に進めたい」と切り出したのに対し、大統領は「解決に向けてしっかりと努力したい」と応じ、双方の意欲は確認された。だが、政治決断への環境は整っていない。

先月末、東京で行われた日露の外務次官級協議では、双方の主張が平行線のままだった。ロシアは第2次大戦の結果、北方4島は自国の領土になったとする従来通りの主張を繰り返している。

日本は、それが歴史的事実に基づかないと強く訴えるべきだ。

旧ソ連は大戦末期に日ソ中立条約を無視して宣戦布告し、日本のポツダム宣言受諾後、千島列島に侵攻して4島を占領、一方的に自国に編入した。サンフランシスコ講和条約で日本が放棄した千島列島に、北方4島は含まれない。

ロシアの内政も懸念材料だ。大統領は、国民の不満をかわすため、大衆迎合的な政策を打ち出している。領土問題で譲歩できる政治状況ではないのではないか。

日露首脳会談に先立ち、大統領は、中国の習近平国家主席と会談し、第2次大戦終結70年の2015年に戦勝祝賀記念行事を共催することを確認した。中露が日本を巡る歴史問題で歩調を合わせている点は警戒すべきだ。

領土問題を進展させるには、日露関係を幅広く強化する一方、プーチン政権の内政・外交の内実も見極めていかねばなるまい。

産経新聞 2014年02月11日

日露首脳会談 親密さで領土に突破口を

安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領との会談で、北方領土問題の解決と日露平和条約締結へ向けて交渉を加速させる方針を確認し、プーチン氏が今秋に訪日することでも合意した。

安倍首相は会談後の記者会見で、「(北方領土問題を)次の世代に先送りしてはならない」との決意を示した。その覚悟で領土返還交渉の先頭に立ってほしい。

第2次安倍政権下での日露首脳会談は5回目だ。今回、首相は、ロシアの同性愛者差別などを理由に欧米主要国首脳がソチ五輪開会式に背を向ける中、あえて開会式出席を決断した。国家間の交渉ごとでは、首脳同士の個人的信頼関係の構築が重要で、相手に恩を売ることも必要だ。

安倍首相はプーチン氏を「ウラジーミル」とファーストネームで呼ぶ親密さをアピールし、氏も首相の出席に謝意を表した。プーチン氏の訪日決定も成果の1つとはいえるだろう。だが、それにしては、領土問題で目に見える進展があったようには感じられない。

1月31日に行われた日露次官級協議で、ロシア側は領有権主張の歴史的根拠について従来の立場を繰り返した。プーチン氏は次官級協議の報告は受けているというが、そもそも交渉促進の指示を出しているのか疑問だ。領土問題で具体的な結果を求めるため、プーチン氏訪日へ閣僚・事務レベルでの周到な準備が必要だ。

むろん、日本が対露関係を強化する裏には、台頭する中国を牽制(けんせい)するためロシアとの良好な関係を誇示する戦略的な狙いもある。

そのロシアは首相の靖国参拝に懸念を表明し、中露は来年、第二次大戦戦勝70年を共同で祝うことで合意している。今開会式には中国の習近平国家主席も出席した。ロシア取り込みをめぐる中国との綱引きは続けざるを得ない。

しかし、日露間最大の懸案は何といっても北方領土問題だ。これに向き合わず経済関係の実利だけを追求するのでは真の友好は訪れない。そう、ロシア側に強く説いていかなければならない。

「安倍-プーチン関係」を最大限に生かし、何とか領土問題を動かさなくてはならない。面積等分や3島返還など、日本政府内部でさまざまな議論がある。

今後の交渉を進めるうえで、「四島返還」の方針を改めて確認すべきだ。

産経新聞 2014年02月08日

北方領土の日 意義踏まえた返還交渉を

「北方領土の日」の7日、東京で「北方領土返還要求全国大会」が開かれ、安倍晋三首相が「日露関係全体の発展を図りつつ、領土問題を最終的に解決すべく、交渉に粘り強く取り組みたい」との決意を表明した。

この日の歴史的意義を改めてかみしめ、一致団結して北方四島返還を求める国民的意思を確認したい。

2月7日は、1855年に日魯(にちろ)通好条約が調印された日だ。条約は、両国国境を択捉(えとろふ)島とウルップ島の間とうたい、北方領土を日本固有の領土と初めて位置づけた。1981年にこの日を北方領土の日と制定したのは、日付に領土返還への希求を込めてのことだ。

今年の2月7日は特別である。安倍首相は返還要求大会で演説した同じ日、冬季五輪開幕式典に出席し、8日、開催地ソチでロシアのプーチン大統領と会談する。大会での決意表明通り、四島返還を強く説いてもらいたい。

そもそもソ連は先の大戦の終戦直前、まだ有効だった日ソ中立条約を破って対日参戦し、日本のポツダム宣言受諾後に択捉、国後(くなしり)、色丹(しこたん)、歯舞(はぼまい)の四島を武力で不法占拠した。国際法違反である。

以来来年で70年になる。元居住者の約1万人が死去し、残る約7160人の平均年齢も79歳を超えた。返還を急がねばならない。

プーチン大統領は平和条約締結後に色丹、歯舞の2島を引き渡すとした「日ソ共同宣言」(56年)で幕引きを図る姿勢を譲らず、2年前には「引き分け」という柔道用語を使って双方が受け入れ可能な妥協をすべきだと唱えた。

だが、歴史的経緯を見れば、北方領土問題の解決に引き分けはあり得ない。日本の政界でも面積折半、3島返還論が折々に浮上するが、足並みの乱れはロシア側に付け入る隙を与えるだけだ。

世論の喚起には領土への理解を深める教育も欠かせない。小中学校の教科書で学習指導要領や解説書に沿って北方領土をわが国固有の領土と取り上げているが、実際の授業で歴史的経過などを含めて教えられているかは疑問だ。

日本青年会議所の調査で、全国の高校生400人に北方四島などの地図を見せて国境線を引かせたところ、正答は59人だった。

尖閣、竹島も含めて領土に関する正しい知識を次世代に引き継ぐことは、長期的な国家戦略の根幹を成す。肝に銘じたい。

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