藤井財務相辞任 首相主導で態勢を立て直せ

朝日新聞 2010年01月08日

菅財務相 脱借金へ強い指導力を

辞任した藤井裕久財務相の後任に、菅直人副総理が就任した。

旧民主党結党以来の鳩山由紀夫首相の盟友で、副総理として閣内ナンバー2の地位にある。鳩山政権の最初の大仕事となった来年度予算編成にも、国家戦略担当相として深くかかわった。そうした重みと実績、民主党内きっての論客であることからも、財務相として適任だ。

課題は山積している。デフレ脱却に向け、第2次補正予算や来年度予算を早期に成立させねばならない。18日からの国会審議ではその先頭に立つ。デフレや円高対策で日本銀行とのいっそうの連携も求められる。公的資金の投入が想定される日本航空問題も大詰めを迎えている。

導入が先送りされた環境税の制度づくりも急がねばならない。菅氏自身がきのうの記者会見で意欲を見せた「予算執行過程の情報公開」や一般会計と特別会計の全面的見直しをはじめとする改革も大いに進めてほしい。

藤井前財務相の就任直後の発言が円高ドル安につながったことを意識したのか、菅氏は会見で「もう少し円安に進めばいい」と口先介入めいた表現を用いた。2月上旬に控える主要7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)での手腕も試される。

いずれも重要だが、最大のテーマはなんと言っても将来も持続可能な財政をつくることではないだろうか。

経済危機の影響で税収は激減し、来年度予算案は税収で歳出の半分もまかなえない。借金である国債と、特別会計の積立金などのいわゆる「埋蔵金」頼みだ。

しかし、埋蔵金にはあまり多くを当てにできなくなってきた。借金膨張への債券市場の目も次第に厳しくなっている。再来年度以降の予算編成はさらに苦しくなるばかりだろう。

危機とデフレの脱却をにらみつつ、消費税を中心とする増税に取り組むことが不可欠だ。ところが、菅氏はそれに理解を示しつつも、会見で「徹底的に無駄なものが省かれて、これ以上は逆立ちしても無駄は出ないというとこまできた段階で(増税)議論が煮詰まっていく」と述べた。

無駄の削減や埋蔵金の発掘にまず力を注ぐのは当然だ。しかし、政府税調が将来の消費増税を議論すらしなかったことをみても、鳩山政権は参院選対策を優先するあまり、増税の必要という真実を国民に語ることから逃げているとしか見えない。

こういう姿勢では借金の山は膨らむばかりだし、「コンクリートから人へ」という民主党の重要政策の財源すら確保できるかどうか。

財政再建への取り組みは待ったなしだ。その大仕事に強い指導力で取り組む姿こそ、菅財務相にふさわしい。

毎日新聞 2010年01月07日

財務相交代 菅氏の真価が問われる

年始早々、波乱である。鳩山内閣の財政・経済対策の要である藤井裕久財務相が健康問題を理由に辞任、鳩山由紀夫首相は後任に菅直人副総理・国家戦略担当相を横滑りで起用することを表明した。

18日召集予定の通常国会で、藤井氏は10年度当初予算案の答弁を担うはずだっただけに、政権にとって痛手だ。菅氏は景気動向、財政規律双方が不安視される中、その手腕が試される。首相は政権初の閣僚交代に伴う混乱を長引かせず、新布陣を早期に軌道に乗せなければならない。

藤井氏は予算編成を終え、昨年末から検査入院していた。通常国会での答弁など、激務に耐えかねることを、辞任の理由に挙げたという。77歳と閣僚最高齢であり、蔵相経験者でもある藤井氏を起用したことは、経済政策に一定の安定感を与え続けた面がある。政権運営への影響は避けられまい。

一方で、民主党の小沢一郎幹事長との関係悪化を背景に指摘する見方もある。自民党時代から小沢氏と行動を共にした藤井氏だが、昨年春「政治とカネ」をめぐり当時の小沢代表に早期辞任を促すような発言をしたことなどを境に、疎遠になったと言われる。今回の予算編成の過程でも小沢氏が「本当に政治主導なのか」と疑念を示す場面もあった。辞任に政治的憶測がつきまとうこと自体、内閣にとって深刻な事態だ。首相が収拾を急いだのは当然である。

それだけに、引き継ぐ菅氏に課せられた使命は重い。国家戦略担当相としての存在感発揮はもうひとつだっただけに、経済対策と財政規律のバランスをどう取るか、マニフェストを具体化した当初予算案を国会で説明する能力などが試される。鳩山内閣の運営は財務官僚主導、と指摘されている。官僚勢力はもちろん、党の実権を掌握する小沢氏とどう距離を保ち財政、経済政策をこなしていくかが問われよう。

一方で、国家戦略担当相を仙谷由人・行政刷新担当相が新たに兼務する意味合いも大きい。国家戦略室による政策の立案機能と、「事業仕分け」に代表される行政刷新会議の監視機能の双方を統括することになるためだ。鳩山内閣が掲げる「脱・官僚依存」の政治主導の成否のカギを握るだけに、責任は重大だ。

首相元秘書の政治献金虚偽記載事件、小沢氏の資金管理団体の会計処理疑惑、米軍普天間飛行場移設問題の先送りに伴う対米関係など、鳩山内閣は多くの不安要因を抱える。その中で年明けから財政の司令塔が国会論戦を控え交代するようでは、政権への信用が揺らぐ。首相は経済への影響を最小限に抑えるよう、指導力を発揮すべきである。

読売新聞 2010年01月09日

菅財務相 埋蔵金にはもう頼れない

鳩山内閣ナンバー2の菅副総理が、経済運営と税財政政策の全般を担う財務相に就任した。

二番底が懸念される景気をどう支えていくか。危機的な状況にある財政を立て直すには、どのような手だてがあるか。菅財務相に課せられた責務は極めて重い。

新財務相の当面の課題は、来年度予算案の国会審議をいかに乗り切るかとされているが、まず、予算の内容への反省から始めてもらわなければ困る。

来年度予算案の編成に、菅氏は国家戦略相として深く(かか)わった。迷走を続けた編成の過程や、膨大な国債発行と「埋蔵金」頼みを招いた責任があるはずだ。

来年度予算は、一般会計の歳出規模が92兆円余りに膨らんだ。子ども手当や高校授業料の無償化など、民主党の政権公約(マニフェスト)を実現するための経費を盛り込んだためだ。

一方で、景気底上げに即効性のある公共事業費は2割近く削減した。これでは、地方経済はさらに疲弊しかねない。景気が一段と落ち込むようなことがあれば、新たなテコ入れ策を検討すべきだ。

鳩山内閣は公約重視の傍ら、肝心の歳入確保はおろそかだった。無駄の洗い出しで財源を捻出(ねんしゅつ)するとし、事業仕分けなどに取り組んだが期待はずれに終わった。

それなのに菅氏は、なお無駄減らしにこだわっている。特別会計などをいくら見直しても、そうあてに出来ないことは、今回の予算編成で明らかだ。埋蔵金もほぼ枯渇してしまった。

そうであるなら、菅氏が取るべき手法は二つだ。子ども手当を再来年度から倍増させるなど、公約に掲げた政策の修正・撤回と、将来的な税収の確保である。

増え続ける社会保障費などを賄うには安定財源が欠かせず、それには消費税率の引き上げしかないことは明白だ。仙谷行政刷新相は、消費税率の早期引き上げの必要性に触れている。財務相もそれに倣うべきではないか。

就任早々、菅氏は円安が望ましいと発言し、それで相場が動いた。だが、閣僚が為替水準に言及すべきでないのは常識だ。鳩山首相も発言を注意した。今後、気をつけてもらいたい。

菅氏は、「役所の中の役所である財務省」を突破口に、霞が関の中央官庁全体の改革につなげるとしている。しかし、官僚を敵視してはうまく運ぶまい。上手に使いこなすのが政治家の役割であることを忘れてはならない。

産経新聞 2010年01月09日

菅財務相 司令塔の責任を自覚せよ

藤井裕久氏の辞任を受け財務相となった菅直人氏が早々につまずいている。7日の就任記者会見で、為替相場について「円安方向に動くことが望ましい」と言及し鳩山由紀夫首相からたしなめられた。

菅氏は「1ドル=90円台半ばが適切」と具体的な水準にも触れ、為替市場では一時1ドル=93円台半ばまで円安が進んだ。市場への介入権限を持つ財務相として軽率な発言と言わざるを得ない。

菅氏は自らの職責の重さを自覚しなければならない。経済政策の司令塔として予算案審議のほか、日本航空の再建や経済成長戦略をめぐる内閣の議論をリードする覚悟と責任が求められている。

為替や株式などの市場は思惑で大きく振れる。とくに財務相の発言は影響が大きく、投機的な取引の材料にされやすい。

鳩山内閣では昨年9月、財務相に就任した藤井氏が円高を容認する姿勢を示し、市場が円高に動くなどの混乱を招いた。鳩山首相も今回の菅氏発言に「政府としては基本的に為替に言及すべきではない」と苦言を呈したわけだ。ほかの閣僚からも批判が相次いだ。

にもかかわらず菅氏は8日、「(円安容認発言で)経済界に大きなマイナスを与えたとは思わない」と反論した。こうした閣内の足並みの乱れそのものが市場に悪影響を与える恐れがある。

デフレ脱却が必要な日本経済にとって、円安への誘導は輸出促進や輸入価格の下落防止など景気浮揚に向けて有効な手段といえる。菅氏も「経済界の希望は勘案しなければならない」と指摘し、円安を望む輸出産業に配慮する姿勢を示している。

だが、そうした手法は閣僚の思いつきの発言ではなく、あくまでも政府・日銀が一体となってデフレ対策を進める中で実施されるべきものだ。

昨年12月の日銀短観によると、現在の大手輸出企業の想定為替レートは1ドル=約91円となっている。現行の為替水準は企業の想定レートで推移しており、菅氏が「口先介入」しなければならないような水準ではなかった。

来月初旬にはカナダで先進7カ国中央銀行総裁・財務相会議(G7)が開かれる。各国との協調関係を構築することも重要だが、一方で急激に円高が進行した場合など、単独でも市場介入を辞さない覚悟も問われる。

朝日新聞 2010年01月07日

財務相交代 鳩菅内閣の真価示せるか

藤井裕久財務相が、健康上の理由で辞任する。鳩山由紀夫首相が後任として白羽の矢を立てたのは、菅直人副総理だ。

菅氏は昨年暮れの予算編成で、子ども手当やガソリン税の暫定税率などをめぐって閣僚間の調整に動き、予算案の事情に通じている。もともと政策通としても知られる。あと2週間足らずに迫った通常国会に向けて、「即戦力」としての起用である。

この内閣の財務相が背負う責任は極めて大きい。政権公約には巨額の財源を要する数々の野心的な政策が盛り込まれている。そのどれを、どの程度、予算案に盛り込むか、財源をどう手当てするか、不急の政策にどう待ったをかけ、あるいは削り込むか。景気をにらみつつ、難しい政府内の調整を引き受けなければならないからだ。

旧大蔵省出身で、細川内閣と羽田内閣で蔵相を務めた経験もあるベテラン、藤井氏にして容易にはこなせなかった。これまでの官僚主導に代わって、何から何まで政治家が取り仕切るのだから、「相当疲れた」と語ったのも分かる。

藤井氏の辞任は、政治主導の重圧、難しさを示す出来事とも言えよう。

それが、これからは菅氏の肩にのしかかる。副総理兼国家戦略相として内閣の要所にいたとはいえ、政策の方向付けや政府内調整にはなかなか乗り出さなかった。鳩山首相や小沢一郎民主党幹事長との微妙な人間関係や、「鳩山後」への思惑が絡み合ったためだったのかもしれない。

だが、これからはそうはいかない。

財務相として来年度予算案の国会での成立、また不況からの脱却やもしもの場合の補正予算編成など経済・財政政策を切り回す以上、名実ともに政権ナンバー2の責任を負うことになる。

鳩山政権は、普天間問題の迷走をはじめ、外交でも内政でもなかなか決断できない場面が続いてきた。連立相手の国民新党や社民党に振り回されているという批判にもさらされている。

理由は首相の指導力不足と、首相を支える「チーム鳩山」の機能不全だ。菅氏は鳩山氏と2人で旧民主党を立ち上げた。その出発点を思い起こし、「鳩菅」の連携で政権立て直しに力を合わせていくしかあるまい。

菅氏に代わって国家戦略相を兼務する仙谷由人行政刷新相も、無駄の削減に加えて経済・財政運営の骨格を決める攻守両方を担い、役割は今まで以上に重くなる。

このチームが機能できなければ、小沢氏頼みの政策決定の二元化が深まることになる。さらに政権の求心力を弱めることにならざるを得ない。

財務相の交代を、政権立て直しのきっかけとできるかどうか。「鳩菅内閣」の真価が試される。

読売新聞 2010年01月07日

藤井財務相辞任 首相主導で態勢を立て直せ

鳩山政権の命運を左右しかねない通常国会開会を前に、内閣の要的な存在だった藤井財務相が辞任した。健康上の理由とされており、辞任はやむを得まい。

それにしても、予算編成を仕切った財務相が予算案審議を目前に辞任するのは異例のことだ。

鳩山首相は、後任に菅副総理を充てることを決めた。首相によれば「ダメージを最小限にするため」であり、予算編成にもかかわった菅氏の起用によって、国会を乗り切ろうという判断だろう。

藤井財務相は、昨年の衆院選前には、政界引退を表明していた。だが、首相がこれを引き止め、急きょ比例選で擁立した。組閣後は藤井財務相に税制改正や予算編成を基本的に委ねてきた。

しかし、藤井氏は、民主党の政権公約(マニフェスト)実施に伴う財政負担増と、財務相として財政規律を維持することとのジレンマに苦しんだようだ。

結局、体調不良から予算案審議は乗り切れないと判断、中途で投げ出すより、現時点での辞任を選んだものとみられる。

これまで国会答弁を無難にこなし、経済財政運営の柱でもあった藤井氏を欠いたことは、首相にとって大きな痛手となろう。

しかし、首相の側にも落ち度はなかったのか。

予算編成は、予想以上の税収の落ち込みと、閣僚らの抵抗もあって極めて難航した。首相は、最後は小沢民主党幹事長の“裁定”を受け入れて決着を図った。

藤井氏が、こうした党側の横やりともいうべき動きに、不快感を募らせたことが辞任の一因、とも指摘されている。

通常国会では、政治とカネの問題が大きな論点になる。

自民党が、首相の母親からの巨額の資金提供をめぐる税務処理の問題を厳しく(ただ)すのは必至だ。

さらに、かつて小沢党首の下、藤井氏が幹事長を務めていた自由党の解散時、政党交付金が、所属議員の政治団体に寄付されるなどして国庫に返されなかった問題でも、追及を強めるだろう。

藤井氏は、国会論戦で野党側の追及に身をさらすことを避けたかった、との見方も出ている。

首相と小沢氏の「二元支配」や首相の指導力不足、不祥事が、財務相の辞任を促した面もある。

菅氏が務めていた国家戦略相は、仙谷行政刷新相が兼務する。この新体制の下、首相は、景気対策などの政策課題に全力で取り組む必要がある。

産経新聞 2010年01月07日

藤井財務相辞任 政権の打撃どうはね返す

鳩山由紀夫首相は体調不良を理由とした藤井裕久財務相の辞任を了承し、後任に菅直人副総理・国家戦略担当相を起用することを決めた。国家戦略担当相のポストは仙谷由人行政刷新担当相が兼務する。

予算審議が主要テーマとなる通常国会を目前に控え、予算案をまとめた担当閣僚が辞任するのは異例の事態である。鳩山政権への打撃になったのは否めない。

藤井氏は昨年末の段階で、通常国会の審議には耐えられない可能性を会見で述べていただけに、手間取った印象は残る。

問題は、この閣僚交代を機会に、公正で責任ある政策判断を行う政府の意思決定システムを確立できるかどうかである。

具体的には、民主党の小沢一郎幹事長の影響力が強まる与党から、政府に対する干渉が目立ちはじめている。予算編成で民主党の参院選対策に沿った要望が多く盛り込まれた経緯もある。

藤井氏が辞任を決意した理由については、「健康不安」だけでなく、予算編成をめぐる「小沢幹事長の横やりへの嫌気」や「菅氏との確執」なども指摘された。

財政規律を重視しようとする藤井氏に対し、小沢氏が公約実現を優先させ、菅氏が政治主導を唱えて積極介入したことなどへの反発があったとの見方だ。

来年度予算は一般会計92・3兆円、国債発行44・3兆円といずれも過去最大規模で、財政規律に欠ける内容となった。その背景にも国家戦略担当相としての菅氏の力量不足が指摘された。

こうした批判や疑念を払拭(ふっしょく)するためにも、菅氏は財政規律の立て直しに積極的に取り組むことが求められている。財務相の役割は予算審議の答弁にとどまらず、デフレ脱却や成長戦略などの山積する重要課題をどう打開していくかである。

消費税率の引き上げ問題について、菅氏は「議論をスタートさせるのはまだ早い」との姿勢を崩していないが、税財政の責任者である財務相として、今後の社会保障のあり方などを見据えた論議を率先して展開してもらいたい。

政権発足以来、菅氏が務めてきた国家戦略担当相の位置付けは不明確だった。国家戦略局も正式に設置されていない。政治主導や政策決定の一元化というスローガンの達成が不十分だっただけに、仙谷氏の責任は重い。

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