タイ総選挙 依然見えない混乱収拾への道

毎日新聞 2014年02月05日

タイ混迷 国際社会は懸念伝えよ

タイの政治危機は混迷の一途をたどっている。総選挙で反政府派のデモ隊が投票を妨害し、選挙が成立する見通しが立たない異常事態だ。

今回の混乱は、政権がインラック首相の兄で海外亡命中のタクシン元首相が帰国できるよう恩赦法案の通過を図ったことがきっかけだ。法案は上院で否決されたが、反タクシン派は「首相は腐敗したタクシン氏の操り人形だ」と政権打倒を唱え、抗議デモを活発化させた。首相は国民の信を問うとして下院を解散し総選挙に臨んだ。

投票日の2日、デモ隊は投票所を包囲するなどして妨害した。投票できなかった選挙区は約2割に上る。選挙を成立させるには投票できなかった選挙区で再選挙が必要だが、妨害が繰り返される恐れが強い。

このままでは政治空白の長期化は避けられない。影響は経済や社会に広がっている。バンコクではホテルのキャンセルが相次ぎ、商業施設も客が激減するなど、観光業への打撃が大きい。デモ隊が占拠する地域には日系企業の事務所も多く、郊外に臨時オフィスを設けるなどの対応を迫られ、タイへの新規投資を控える動きも出ている。

事態打開が困難なのは、反政府派が首相の即時退陣を求め、選挙を拒否しているためだ。反政府派は、暫定政府を設置して政治改革を行ったうえで総選挙を行うべきだと主張しているが、法的正当性がなく、国際社会にも受け入れられないだろう。

タイでは過去に政治危機が行き詰まった際、軍によるクーデターや司法機関による首相解任などの介入がなされてきた。しかし、民主的でない手法が繰り返されれば、今度はタクシン支持派が反発する可能性が高い。4年前にはバンコクでタクシン派デモ隊と治安部隊が衝突して90人以上が死亡し、商業施設などが焼き打ちされる騒乱に発展した。流血事態の再発は避けねばならない。

タイ社会には、国王の威光と議会制民主主義が併存する「タイ式民主主義」という考え方が広く浸透している。王室に近いエリート層が主導する反政府派は、そうした国民意識をよりどころに「タイの民主主義は欧米や日本の民主主義とは異なる」として選挙拒否を正当化している。しかし国王は86歳と高齢で健康問題も抱え、いつまでもその威光にすがることは難しい。民主主義の基本的手段である選挙を受け入れなければ、社会の発展にはつながらない。

現状では政府と反政府派の溝を埋めるのは難しく、混乱収拾の見通しは立たない。日本を含む国際社会はタイ政府と野党側の双方に懸念を伝え、民主的手段で事態打開を図るよう促していくべきだろう。

読売新聞 2014年02月04日

タイ総選挙 依然見えない混乱収拾への道

タイ政治の混迷は一層深まっている。局面打開の糸口を探るのは容易ではない。

反政府デモが続くタイで総選挙が行われた。懸念された大規模な衝突はなかったものの、デモ隊の妨害により、全体の約2割にあたる選挙区で、投票が中止された。

このままでは、国会を開会するのに必要な議員数を選出できない。投票中止になった選挙区では、再投票の見通しも不透明だ。

デモ隊は依然インラック首相の辞任を求め、バンコク市内で座り込みを続けている。混乱拡大を引き続き警戒する必要がある。

今回の選挙は、首相が、兄のタクシン元首相から受け継いだ農民や貧困層における圧倒的支持を背景に、議会を解散し、国民に信を問うたものだ。

これに対して、富裕層や都市中間層などからなる反タクシン派は、支持者数ではタクシン派に遠く及ばないこともあり、選挙を経ない暫定統治を要求してきた。

反タクシン派の最大野党・民主党は、デモ隊の選挙妨害に合わせて、選挙をボイコットした。

多くの選挙区が投票中止になったことを巡り、今回の選挙は、「全国で同じ日に行う」とする憲法の規定に違反したとして、憲法裁判所に無効を申し立てる構えも見せている。

反タクシン派が目指しているのは、このような選挙以外の合法的手段による政権打倒だろう。

というのも、2007年制定の憲法では、憲法裁や国家汚職防止委員会などが、国会や行政に対し強い権限を有しているからだ。

いずれの組織も反タクシン派が多数を占め、なかでも憲法裁は、違憲判決などでタクシン派政権を崩壊に追い込んだ例もある。

統治方法を巡り、多数決で決着を図るべきだとするタクシン派と憲法裁などによる「法の支配」を重視する反タクシン派が対立する状況が当面続くとみられる。

過去の政情不安で調停役を果たしてきたプミポン国王も86歳となり、療養生活を送っている。影響力行使には限界があろう。

経済への悪影響が目立ち始めたことも懸念される。主要産業の観光業は大打撃を受け、タイ中央銀行は今年の成長率見通しを4・8%から3%に引き下げた。

選挙管理内閣のインラック現政権下では、予算編成や、新規の大型投資認可は行えない。

日系企業などが投資を控える動きも予想され、タイ当局にとっては、厳しい試練が続くだろう。

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