タイ政治の混迷は一層深まっている。局面打開の糸口を探るのは容易ではない。
反政府デモが続くタイで総選挙が行われた。懸念された大規模な衝突はなかったものの、デモ隊の妨害により、全体の約2割にあたる選挙区で、投票が中止された。
このままでは、国会を開会するのに必要な議員数を選出できない。投票中止になった選挙区では、再投票の見通しも不透明だ。
デモ隊は依然インラック首相の辞任を求め、バンコク市内で座り込みを続けている。混乱拡大を引き続き警戒する必要がある。
今回の選挙は、首相が、兄のタクシン元首相から受け継いだ農民や貧困層における圧倒的支持を背景に、議会を解散し、国民に信を問うたものだ。
これに対して、富裕層や都市中間層などからなる反タクシン派は、支持者数ではタクシン派に遠く及ばないこともあり、選挙を経ない暫定統治を要求してきた。
反タクシン派の最大野党・民主党は、デモ隊の選挙妨害に合わせて、選挙をボイコットした。
多くの選挙区が投票中止になったことを巡り、今回の選挙は、「全国で同じ日に行う」とする憲法の規定に違反したとして、憲法裁判所に無効を申し立てる構えも見せている。
反タクシン派が目指しているのは、このような選挙以外の合法的手段による政権打倒だろう。
というのも、2007年制定の憲法では、憲法裁や国家汚職防止委員会などが、国会や行政に対し強い権限を有しているからだ。
いずれの組織も反タクシン派が多数を占め、なかでも憲法裁は、違憲判決などでタクシン派政権を崩壊に追い込んだ例もある。
統治方法を巡り、多数決で決着を図るべきだとするタクシン派と憲法裁などによる「法の支配」を重視する反タクシン派が対立する状況が当面続くとみられる。
過去の政情不安で調停役を果たしてきたプミポン国王も86歳となり、療養生活を送っている。影響力行使には限界があろう。
経済への悪影響が目立ち始めたことも懸念される。主要産業の観光業は大打撃を受け、タイ中央銀行は今年の成長率見通しを4・8%から3%に引き下げた。
選挙管理内閣のインラック現政権下では、予算編成や、新規の大型投資認可は行えない。
日系企業などが投資を控える動きも予想され、タイ当局にとっては、厳しい試練が続くだろう。
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