毎日新聞 2014年02月05日
都知事選と防災 危機感もって減災語れ
東京都では、今後30年の間に70%の確率で直下地震が発生すると想定されている。死者は最大2万3000人、経済損失は95兆円に上る。被災によるダメージは全国に及ぶ。被害の最小化に向けた首都のかじ取り役の責任は重い。
防災は都知事選の重要争点の一つだが、ややかすみがちである。これだけの被害想定を前に、候補者の危機感が伝わってこないのも一因だ。都が進めてきた施策をどう評価し、足りない部分をいかに変えていくのか。何より、人命をどう救うのか。その具体策を聞きたい。総花的な政策の羅列ではなく、実のある減災策をもっと語ってほしい。
中央防災会議が昨年12月に示した最新の被害想定によれば、木造住宅を中心に多くの建物が損壊し、同時に火災が多発する。全壊・焼失家屋は最大61万棟に上る。がれきで道路の不通区間が大量発生し、救助や消火を妨げる。5割の地域で停電となり、鉄道も長期間運転再開できない。膨大な数の被災者も生まれる。
震災当初に火災をどう食い止めるのかが、「減災」のかぎとなる。
木造家屋の耐震化、不燃化の推進が急がれる。都心部から放射状に延びる幹線道路の多くが「木造住宅密集(木密)地域」を通っていることも対策の緊急性を物語る。
都は一昨年、整備の重点対象地域を定めた。10年間かけて、木密地域での延焼による焼失ゼロを目指すという。特別の支援を行う不燃化特区の制度も始めた。だが、対策の進捗(しんちょく)は芳しくない。対象の下町は高齢世帯が多く、都や区の現行の補助だけでは資金不足で、耐震化や建て替えが進まないのだ。補助以外の方策も含め、早急な対応が必要だ。
中央防災会議は、電気出火の防止対策による効果も強調した。感震ブレーカーの全戸設置と初期消火で、焼失棟数を9割以上減らせる。
家内の電気を自動遮断する感震ブレーカーは、数万円で備えられる。初期消火に役立つ消火器は設置が進むが、使い方を知らない人が多い。自治会単位で設置や訓練実施を進めれば、減災効果は高い。地味な対策だが、目を向けてもらいたい。
主な候補者の主張を比較すると、防災名目でのインフラの新規整備については、肯定的か否定的かで意見が分かれる。ただし、それ以外は大きく主張が隔たっているわけではない。民間との協力の重要性については各候補者ともほぼ一致する。
首都直下地震が起きた場合の帰宅困難者は500万人を超えると予想されている。民間施設の受け入れ拡大や、水や食料など備蓄品の確保が不可欠だ。民間の協力を取り付ける手腕が問われると心すべきだ。
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産経新聞 2014年02月05日
都知事選 静かな関心一票で示そう
首都の顔を選ぶ東京都知事選挙の投開票が4日後に迫った。単一の選挙区から当選者1人を選ぶ点では、有権者数が1千万人を超える他に例のない巨大選挙である。
過去50年をみると、最少得票数で石原慎太郎候補が当選した平成11年の選挙でも、166万票余を集めている。
寒風の首都を駆ける候補者には夢のような話かもしれないが、仮に握手をした相手がすべて自分に投票してくれるとして計算してみよう。
1人の候補者が2秒に1人のペースで握手をした場合、1分間で30人、1時間で1800人。選挙期間の17日間、毎日20時間をひたすら握手に費やしても61万2000人で、当選は到底望めない。
街頭演説に遭遇する有権者も限られている。候補者の人柄で誰に投票するかを判断しようにも、直接、確かめる機会は少ない。
当然、判断はマスメディアなどを通じて複製された情報に負うところが大きい。インターネットの活用で、複製情報の発信と入手の選択肢は一段と広がった。
選挙になると、実務的な手腕よりも、マスメディアで名前や顔が知られていることの方が重視されがちなのもこのためだ。
だが、人気投票的であったり、「風」が吹いたりする選挙を何度か経験するうちに、有権者の間には「これでいいのか」という疑問も広がっている。投票後に期待を裏切られることも少なくない。
にぎやかな顔ぶれのわりに、今回の知事選が盛り上がりに欠ける印象があるとすれば、そうした事情も理由の一つではないか。
各種世論調査では、主要な争点に「景気と雇用」「少子高齢化や福祉」が挙がり、「原発・エネルギー問題」「災害対策」などを大きく引き離している。「五輪の準備」も合わせ、いずれも重要課題に違いないが、まず安定した生活基盤を確保したいという意識が伝わってくる。
有権者が都知事や都政の役割、課題を正しく認識し、現実的な政策をどう進めていくかに関心が集まっていることを歓迎したい。候補者は最後まで、その問いへの答えを示すよう努めてほしい。
選挙に関心があると答える人は9割を超えている。盛り上がらないようでいて、注目度は高い。その静かな関心が、投票につながることを期待したい。
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