日本の貿易赤字が昨年、11・4兆円と過去最大になった。
対外収支の全体像を示す経常収支は、海外投資に伴う利子・配当収益が大きいため黒字を維持しそうだが、「貿易赤字はしばらく続く」とみる専門家が増えてきた。
貿易収支は東日本大震災後、赤字に転じた。直接の原因は国内の原発が止まり、火力発電の燃料である天然ガスや原油の輸入が増えたことだ。
赤字拡大は円安による金額増が大きく、原発停止そのものの影響をことさら強調するのはおかしい。ただ、負の要素であるのは間違いなく、省エネを進めつつ、北米で採掘が本格化するシェールガスの調達などで支払いを抑える努力が不可欠だ。
輸出については、製造業の競争力を再点検しながら、構造的な変化にも向き合いたい。
昨年は対ドルで前年から20%強も円安になったが、輸出は数量ベースでは減り、円換算の金額の伸びも10%にとどかなかった。その象徴が、自動車業界とともに「貿易立国」を支えてきた電機業界である。
テレビや録画再生機の「映像機器」の輸出は、前年より数量で3割近く、金額でも2割減った。電子部品や通信機などを加えた「電気機器」でも金額の伸びは6%足らず。逆に、輸入額は2割強も増えた。その中心はスマートフォンだ。
円安になれば輸出が後押しされ、輸入は抑えられて、いずれ貿易収支が改善する――。そんな「常識」も、企業の海外展開が進み、揺らぎ始めている。
かつて日本の家電メーカーが米国勢を追い落としたように、産業の新陳代謝は不可避でもある。産業全体として「稼ぐ力」を高めるには、製造業かサービス業か、空洞化防止か海外展開か、という単純な発想から卒業することが必要だ。
内需型産業の代表である小売業が海外で店舗網を広げているのは、一例だろう。世界的に有望分野とされる環境・エネルギー、医療・介護、農業では、機器とサービスを組み合わせた取り組みがカギを握る。
政府は何をすべきか。
国内に残る時代遅れの規制をなくし、起業や対日投資の促進で国内の厚みを増す。海外と経済連携協定の締結を進め、モノの関税の引き下げだけでなく、出資や事業にかかわる規制の撤廃を求めていく。日本企業が海外での稼ぎを国内に戻すよう、税制を工夫する。
貿易赤字にあわてて補助金をばらまいても、何のプラスにもならない。
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