貿易赤字最大 「もの作り」で反転攻勢に

朝日新聞 2014年02月02日

貿易赤字拡大 構造変化に向き合おう

日本の貿易赤字が昨年、11・4兆円と過去最大になった。

対外収支の全体像を示す経常収支は、海外投資に伴う利子・配当収益が大きいため黒字を維持しそうだが、「貿易赤字はしばらく続く」とみる専門家が増えてきた。

貿易収支は東日本大震災後、赤字に転じた。直接の原因は国内の原発が止まり、火力発電の燃料である天然ガスや原油の輸入が増えたことだ。

赤字拡大は円安による金額増が大きく、原発停止そのものの影響をことさら強調するのはおかしい。ただ、負の要素であるのは間違いなく、省エネを進めつつ、北米で採掘が本格化するシェールガスの調達などで支払いを抑える努力が不可欠だ。

輸出については、製造業の競争力を再点検しながら、構造的な変化にも向き合いたい。

昨年は対ドルで前年から20%強も円安になったが、輸出は数量ベースでは減り、円換算の金額の伸びも10%にとどかなかった。その象徴が、自動車業界とともに「貿易立国」を支えてきた電機業界である。

テレビや録画再生機の「映像機器」の輸出は、前年より数量で3割近く、金額でも2割減った。電子部品や通信機などを加えた「電気機器」でも金額の伸びは6%足らず。逆に、輸入額は2割強も増えた。その中心はスマートフォンだ。

円安になれば輸出が後押しされ、輸入は抑えられて、いずれ貿易収支が改善する――。そんな「常識」も、企業の海外展開が進み、揺らぎ始めている。

かつて日本の家電メーカーが米国勢を追い落としたように、産業の新陳代謝は不可避でもある。産業全体として「稼ぐ力」を高めるには、製造業かサービス業か、空洞化防止か海外展開か、という単純な発想から卒業することが必要だ。

内需型産業の代表である小売業が海外で店舗網を広げているのは、一例だろう。世界的に有望分野とされる環境・エネルギー、医療・介護、農業では、機器とサービスを組み合わせた取り組みがカギを握る。

政府は何をすべきか。

国内に残る時代遅れの規制をなくし、起業や対日投資の促進で国内の厚みを増す。海外と経済連携協定の締結を進め、モノの関税の引き下げだけでなく、出資や事業にかかわる規制の撤廃を求めていく。日本企業が海外での稼ぎを国内に戻すよう、税制を工夫する。

貿易赤字にあわてて補助金をばらまいても、何のプラスにもならない。

産経新聞 2014年01月29日

貿易赤字最大 「もの作り」で反転攻勢に

昨年の貿易収支が過去最大の赤字を記録した。原発の稼働停止に伴う燃料の輸入増が大きく響いているばかりか、アベノミクスによる円安効果を生かし切れず輸出も期待ほど伸びていない。極めて懸念すべき状況だ。

日本の輸出力の力強い回復には、企業がイノベーション(技術革新)を高め、付加価値の高い商品開発に積極的に取り組むことが必要だ。政府も状況認識を厳しくし、民間の努力を後押しする成長戦略の具体化を急いでもらいたい。

新興国市場の混乱などで、円相場も当面は乱高下が予想される。日本としては、目先の為替動向に一喜一憂することなく、世界に冠たる「ものづくり」の地力を発揮し、貿易立国としての足元をしっかりと固め直してほしい。

モノの輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は11兆4745億円の赤字となった。3年連続の赤字で規模も毎年増えている。貿易赤字が定着すれば、海外とのモノやサービスなどの取引状況を示す経常収支も赤字になりかねない。その危機が忍び寄っている。

貿易赤字の拡大は、燃料輸入の増加が大きな要因だ。原発に代わって火力発電がフル稼働中で、原油や液化天然ガス(LNG)などの燃料輸入が急増し、約3兆円分の収支悪化につながった。

まずは安全性が確認された原発を早期に再稼働させ、燃料輸入を減らすことが不可欠だ。

問題は輸出だ。昨年は金融緩和により円高が是正されたのに、輸出が思ったように増えていない。輸出金額が伸び悩み、輸出数量に至っては微減となった。

円高下で生産拠点の海外移転が進んだのに加え、中国や韓国との競争も相変わらず熾烈(しれつ)だ。

かつて世界市場を席巻した日本の家電製品の存在感は大きく低下した。半導体や薄型テレビは撤退が相次ぎ、スマートフォンは中国などからの入超に転じている。輸出構造が激変したのである。

日本からの輸出を再び増やすには、独創性が高い商品やサービスの開発を進め、国際競争力を強める不断の努力が求められる。電機業界には特に奮起を促したい。

昨年10、11月は経常収支も赤字に転落した。経常赤字は国内の資金不足と海外資金依存を招く。国債の消化にも不安が生じてくる。そうした事態を防ぐためにも「輸出力」の強化が急務だ。

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