STAP細胞 驚きの成果を育てよう

朝日新聞 2014年01月31日

新万能細胞 常識を突破する若い力

輝かしい新星が現れた。

理化学研究所の小保方(おぼかた)晴子ユニットリーダー(30)らのグループが、まったく新しい万能細胞「STAP(スタップ)細胞」の作製に成功した。

筋肉や神経など、さまざまな細胞に変化できるのが万能細胞だ。万能性があるのは、生命の初期である受精卵など、特殊な細胞に限られるというのが生物学の常識だった。

だが近年、万能細胞を人の手で生み出す研究が進み、すでに、受精卵を壊してつくるES細胞、山中伸弥・京都大教授らが遺伝子を導入する方法で開発したiPS細胞がある。

STAP細胞の大きな特徴は、弱酸性の液体に浸すなど細胞を外から刺激することで、ずっと簡単につくれるところだ。

一昨年英科学誌ネイチャーに論文を投稿した当初は突き返された。だが追加の証拠をそろえ、掲載にこぎ着けた。最初に拒絶した専門家は「何百年にもわたる細胞生物学の歴史を愚弄(ぐろう)している」と激しい意見を付けてきた。これはいまや最大級の賛辞と読まれるべきだろう。

まさに教科書を書き換えるような大発見である。

博士号をとってわずか3年。若い小保方さんの研究過程は、決して順風満帆ではなかった。

「誰も信じてくれない中で、説得できるデータをとるのは難しかった」「泣き明かした夜も数知れないですが、今日一日、明日一日だけ頑張ろうと思ってやっていた」と振り返る。

化学畑の出身で、生物学の既成概念にとらわれず、自らの実験データを信じた。一人また一人と周囲の研究者を味方につけ、数々の壁を乗り越えた。

変わってきたとはいえ女性の働きづらさが指摘される日本で、これほど信念に満ちた研究成果を上げた小保方さん、そして彼女を支えた共同研究者のみなさんはすばらしい。

「21世紀は生命科学の時代」といわれ、日本政府も力を入れる。小保方さんの属する理研の発生・再生科学総合研究センターは00年に神戸市にできた。基礎研究から治療への応用まで、再生医学を総合的に進める態勢づくりが結実したようだ。

特大ホームランを放った小保方さんに限らず、きっと同じように「もう一日だけ」と頑張っている研究者がたくさんいるだろう。そう考えると、日本の科学への希望も膨らむ。

教科書を学ぶ学習を卒業し、教科書を書き換える研究の道に進む。強い信念と柔らかな発想に満ちた若い世代の飛躍を、もっともっと応援したい。

毎日新聞 2014年01月31日

STAP細胞 驚きの成果を育てよう

まさに驚きの発見である。普通の体細胞を弱い酸性の液につけるだけで、受精卵のような性質を持つ「万能細胞」を作ることに日米の研究チームが成功した。細い管に通すといった物理的刺激でも万能細胞になるという。

今はまだ、マウスの細胞での成果だが、ヒトの細胞で同じことが確かめられれば、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を超える利用価値が生まれるかもしれない。生命の仕組みの解明にも大きく貢献する。この成果を大事に大きく育てていきたい。

体細胞を受精卵のような状態に「初期化」する技術には、クローン羊を作った体細胞クローン技術や、遺伝子導入などを利用するiPS細胞がある。どのような細胞にも変化できる性質は受精卵から作る胚性幹細胞(ES細胞)にもある。

今回、「STAP=刺激惹起(じゃっき)性多能性獲得=細胞」と名付けられた新万能細胞の特徴は、作製が「簡単で、早く、効率的」であることだ。しかも、ES細胞やiPS細胞が抱えるがん化のリスクも低いと考えられる。研究がうまく進めば、一人一人の万能細胞が簡単に作れる可能性もある。期待が高まるのは当然だ。

それにしても、なぜ、こんな簡単な方法で体細胞が初期化されるのか。一方でなぜ生体内では簡単に初期化が起きないのか。STAP細胞の初期化メカニズムを解明することで、哺乳類の体にもともと備わった細胞の修復機構や、がん化抑制の機構が解明できるかもしれない。生命現象の謎解きだけでなく、新たな医療につながることも期待される。

今回、米国での研究で発見のきっかけをつかみ、中心となって実験を進めた小保方(おぼかた)晴子さんによると、初めは成果を信じてもらえず、投稿論文は何度も却下された。これが裏付けのある研究に育ったのは、本人の努力に加え、万能性を裏づける実験にその分野の第一人者である日本人研究者が協力するなど周囲の支援があったからだ。再生医療研究の裾野を広げる努力が実ったといってもいいだろう。

小保方さんの米国の指導教官も、誰も信じないような結果を信じて実験に投資した。日本政府は実用化という研究の出口を重視する傾向があるが、iPS細胞もSTAP細胞も、トップダウンの「出口志向」からは生まれないことを忘れないようにしたい。

30歳の女性が研究を主導したことも注目を集めている。日本の研究環境は若手や女性が成果を上げやすいとは言い難い。科学分野に進む女性が少ないという課題もある。小保方さんがひとつのモデルとなり科学者になりたい女性や若手研究者を後押しすることにもつながってほしい。

読売新聞 2014年02月01日

STAP細胞 理系女子の発想が常識覆した

生物学の常識を覆す画期的な発見である。

理化学研究所の小保方晴子さんのほか、米ハーバード大などのチームが新たな手法で、様々な組織や臓器の細胞に育つ「万能細胞」を作り出すことに成功した。

マウスの細胞(リンパ球)を弱い酸性の液に漬けた。毒素を加えたり、細いガラス管に通したりと別の刺激でも作製できた。

ヒトの細胞でも成功すれば、傷んだ組織や臓器を(よみがえ)らせる再生医療に応用できる。幅広い可能性を開く成果を(たた)えたい。

研究チームは、こうして作り出した万能細胞を「STAP細胞」と呼んでいる。STAPとは、「刺激によって引き起こされた多能性の獲得」という意味だ。

生物は、受精卵から始まり、組織や臓器に分化していく。分化後は受精卵に逆戻りしないとされてきただけに、STAP細胞に世界が注目するのはうなずける。

意外な手法に、研究チームが一昨年、科学誌に論文を初投稿した時は「細胞生物学の歴史を愚弄している」と突き返された。だが、研究リーダーの小保方さんたちは粘り強く実験を重ね、データを補強して発表にこぎ着けた。

万能細胞には、ES細胞(胚性幹細胞)やiPS細胞(人工多能性幹細胞)がある。作製には遺伝子操作など複雑な工程を経る。

これに対し、「第3の万能細胞」であるSTAP細胞は、生物の細胞にもともと備わった能力を生かして作られる。

刺激を加えたことで細胞に何が起きたか。その詳しい仕組みの解明が今後の重要課題だ。生物の成長と老化、病気の仕組みの探求にも貢献するだろう。

今回の成果の背景には、政府が再生医療研究を重点支援してきたことがある。小保方さんが所属している理研発生・再生科学総合研究センター(神戸市)も政府が整備した再生医療の研究拠点だ。

この分野の国際競争は激しい。引き続き支援が必要だ。

小保方さんはまだ30歳の若い研究者だ。発想力に加え、ベテラン研究者と協力関係を築く行動力など若手研究者の模範となろう。

女性研究者や、研究者を目指している理系女子「リケジョ」の励みになるかもしれない。

日本の女性研究者の比率は14%にすぎず、先進国で最低だ。政府の科学技術基本計画は30%を目標に掲げるが、出産などを機に研究現場を去る女性は多い。家族の協力はもちろん、リケジョの活躍を後押しする政策が重要だ。

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