NHK会長発言 公共放送の信頼失った

朝日新聞 2014年01月28日

NHK新会長 あまりに不安な船出

公共放送のトップを任せられるのか。強い不安を感じる。

NHK新会長の籾井勝人(もみいかつと)氏が就任会見で、政府の立場に寄り添うような発言を繰り返した。

尖閣諸島・竹島などの領土問題で、一部経費を国が負担する海外向け放送による政府見解の発信強化に意欲を見せ、「政府が右ということを左というわけにはいかない」と述べた。

安倍政権が世論の反対を押し切って成立させた特定秘密保護法も、「必要だとの政府の説明だから、とりあえず受けて様子を見るしかない」と語った。

籾井氏は、「政府からふきこまれたわけではない」とし、自身の見解を番組に反映させる意図がないことも強調した。

だが一方で、議論を呼ぶような問題をとりあげる番組では「了解をとってもらわないと困る」と、会長としての方針も示した。現場を萎縮させる恐れはないのだろうか。

公共放送の先駆けである英BBCは、フォークランド紛争やイラク戦争で必ずしも英政府を支持せず、客観的な報道に努めた。時の政権からは非難されたが、国際的な評価は高まった。

NHKが向くべきは政府ではなく、受信料を納める国民の方である。放送内容が政府の宣伝ととられれば、海外での信頼もかえって損なわれよう。

籾井氏は「放送法順守」を何度も口にした。大事なのは「健全な民主主義の発達」と明記された法の目的に照らし、社会の諸問題について、視聴者に多角的な視点や情報を提供することだ。その使命を果たす覚悟がなければ、会長は務まらない。

籾井氏は個人的見解と念押ししたうえで、従軍慰安婦についても持論を展開した。「今のモラルでは悪いが、戦争をしているどこの国にもあった」とし、補償を求める韓国側の動きには「日韓条約で解決している。なぜ蒸し返すのか」と述べた。

これには与野党から批判が相次ぎ、韓国でも反発を招いた。大手商社での国際経験を買われての人選だったはずが、いったいどうしたことか。

昨年末の経営委員会では会長任命に先立ち、「言葉の選び方には留意して」と注文されていた。籾井氏は昨日、「私的な考えを発言したのは間違いだった」と釈明したが、早くも懸念が的中した形だ。

NHKが自主自律を守るには不断の努力が必要だ。予算承認権を握る国会では、政治が干渉してくるリスクは常にある。会長はそれを率先して防ぐべき立場だ。自らの発言が審議対象になるようでは困る。

毎日新聞 2014年02月01日

NHKと政治 委縮せず果敢な放送を

NHKの籾井勝人(もみい・かつと)会長の就任記者会見以来、公共放送と政治の距離が深刻な問題になっている。1月31日には衆院予算委員会に籾井会長が参考人として出席し、会見での発言をただされた。籾井氏は「私的なコメント」「(放送に)個人的な意見を反映させることはない」との答弁を繰り返した。

放送法第1条に明記されている通り、NHKは「健全な民主主義の発達に資する」放送をめざし続けなければならない。籾井氏の態度は、それにふさわしいものだろうか。

籾井氏は就任会見で従軍慰安婦問題や特定秘密保護法、安倍晋三首相の靖国参拝問題などについて、その資質を疑わせる発言を繰り返した。

これに対して、内外から多くの批判が寄せられた。NHKの報道や番組制作が萎縮し、政権寄りの放送に偏ってしまわないかという心配もあった。会長の任免権を持つNHK経営委員会は「公共放送トップの立場を軽んじた」ことを厳重注意し、籾井氏は反省を語った。

しかし、それが問題の本質だろうか。放送法の第4条には、意見が対立する問題についてはできるだけ多角的に論点を明らかにすべきことが記されている。NHK会長が「個人的見解」であれ、さまざまな議論がある問題に、固定した先入観しか持てていないことが問題なのだ。

30日には原発問題を取り上げようとした東洋大の教授が、NHKのラジオ番組への出演を取りやめるという問題がわかった。東京都知事選を理由にテーマ変更を求められたためだ。この教授は20年以上前からこの番組に出演し、30日は「原発再稼働のコストと事故リスク」がテーマの予定だった。NHKから「投票に影響を与える可能性があるのでやめてほしい」と言われ、「特定の人を応援しているわけではない」と反論したが、受け入れられなかった。

これはNHKの過剰反応だろう。もちろん、「放送の不偏不党」は放送法に明記されている。特定の候補や政党を応援してはならない。しかしそれは、重要問題について、選挙期間中は放送してはならないということとは全く違う。

時間がなくて原発賛成派の人に同時に出演してもらうことができなかったと、NHKは説明するが、NHK側が反対の考え方を詳しく紹介するなど、番組内でバランスをとる工夫はいろいろとできる。こんなことを続けていたら、重要な問題を放送できなくなりはしないだろうか。

不偏不党とは、社会が抱える問題から目をそむけることではないはずだ。逆にそういう問題に萎縮することなく、果敢に切り込んでこそ、民主主義の発展に貢献できるはずだ。

読売新聞 2014年01月30日

NHK会長発言 中立・公正な報道で信頼築け

中立で公正な報道や番組制作を続けることで、視聴者との信頼関係を築き、公共放送トップの責任を果たすべきだ。

NHKの籾井勝人会長の就任記者会見での発言が物議を醸している。

籾井氏は、いわゆる従軍慰安婦問題への見解を聞かれ、「今のモラルでは悪い」としつつ、ドイツやフランスを例示し、「戦争している所にはつきものだった」と指摘した。オランダになぜ今、売春街があるのか、と反問もした。

具体的な国名を挙げ、現在の公娼(こうしょう)や売春にまで言及したのは、適切さを欠いているだろう。

籾井氏は、執拗(しつよう)な質問に「個人的見解」を示したというが、軽率だったと言われても仕方ない。会長会見で、個人的見解を披瀝(ひれき)したことが混乱を招いた。

ただ、発言には、必ずしも強い非難に値しないものもある。

「韓国が、日本だけが強制連行したと言っているからややこしい。(補償問題は)日韓基本条約ですべて解決している、国際的には。なぜ蒸し返されるのか」と疑問を呈したくだりなどだ。

元慰安婦への補償問題は、1965年の日韓請求権協定で法的には解決している。日本側は「アジア女性基金」による「償い金」の救済事業という対応もとった。それでも、韓国側は一部を除いて受け取りを拒んだ経緯がある。

籾井氏は、海外向けに発信している国際放送について、「政府が右と言っていることを左と言うわけにはいかない」と語った。この発言も、政府の意向におもねるのか、という批判を招いている。

だが、税金も投入されている国際放送で政府見解を伝え、理解を求めるのは、むしろ当然だ。

菅官房長官は、籾井氏の一連の発言について「個人としてのものだ」と述べ、政府としては不問に付す考えを示した。

NHKの経営委員会も、「公共放送トップの立場を軽んじたと言わざるを得ない」として厳重注意にとどめ、進退は問わないことにした。なお信頼回復の余地があると判断したのだろう。

NHKは最近、原子力発電所の再稼働や米軍輸送機オスプレイの配備、特定秘密保護法などの報道をめぐって、政財界から偏向しているとの指摘を受けている。

籾井氏は「放送法に沿ってやれば、政府の言いなりになることはない」と語っている。

NHKは、視聴者の期待に応える番組作りを進め、放送の不偏不党を貫いてもらいたい。

毎日新聞 2014年01月28日

NHK会長発言 公共放送の信頼失った

NHK新会長の籾井(もみい)勝人氏が就任記者会見で従軍慰安婦問題などについて、不見識な発言を繰り返した。公共放送のトップとしての自覚のなさ、国際感覚の欠如に驚くばかりだ。その資質が大いに疑問視され、進退が問われてもおかしくない。そして、彼を選んだ経営委員会も、任命責任を免れない。

籾井氏は25日に会長に就任した。任期は3年。NHKは受信料で成り立つ公共放送であり、政府から独立して、健全な民主主義の発展に貢献する役割を担っている。そんな自覚が感じられない会見だった。

まず、籾井氏は従軍慰安婦について「戦争地域にはどこにもあった」「なぜオランダに今も(売春街を示す)飾り窓があるのか」と発言した。慰安婦問題には、さまざまな議論がある。しかし、女性の人権に対する深刻な侵害だ。他国を引き合いに出して正当化するつもりではないかと海外から思われかねない。

一方、慰安婦問題について語る中で、売春一般について言及すること自体に違和感がある。そのうえ、オランダ人女性が慰安婦問題の当事者でもあることを考えれば、著しく配慮に欠けた乱暴な発言だ。

また、日本と韓国は目の前の摩擦をどう和らげるべきか、取り組まなければならない。それなのに、NHK会長がこんな発言をすれば、溝は深まるばかりだ。

不十分な審議のまま強行採決された特定秘密保護法については、「一応(法案が)通ったので、もう言ってもしょうがないんじゃないか」「政府が必要だという説明だから、様子を見るしかない。あまりカッカする必要はない」と発言した。

秘密指定が適切なのかチェックする仕組みが整っておらず、将来的な原則公開も担保されていない。条文の解釈をめぐって人権と衝突しかねないなど、さまざまな問題が挙げられている。取り組むべき課題が山積する法律であり、それを指摘するのはメディアの仕事だ。

安倍晋三首相の靖国参拝問題については「総理の信念で行ったので、いい、悪いと言う立場にない」と発言した。これは国際的な議論を招いている問題だ。その背景を報道し、いろいろな意見を紹介して、問題を多角的に整理したうえで、議論を深めるのが放送機関の役割だろう。

籾井氏は「個人的な意見」と言うが、そんな言い訳が通用するだろうか。公人として、抱負を述べる場での発言だ。また、たとえ個人的な意見であっても、NHKの報道や制作の現場がトップの意向をそんたくし、萎縮してしまう懸念が否定できない。そんな公共放送が内外の信頼を保てるだろうか。

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