中立で公正な報道や番組制作を続けることで、視聴者との信頼関係を築き、公共放送トップの責任を果たすべきだ。
NHKの籾井勝人会長の就任記者会見での発言が物議を醸している。
籾井氏は、いわゆる従軍慰安婦問題への見解を聞かれ、「今のモラルでは悪い」としつつ、ドイツやフランスを例示し、「戦争している所にはつきものだった」と指摘した。オランダになぜ今、売春街があるのか、と反問もした。
具体的な国名を挙げ、現在の公娼や売春にまで言及したのは、適切さを欠いているだろう。
籾井氏は、執拗な質問に「個人的見解」を示したというが、軽率だったと言われても仕方ない。会長会見で、個人的見解を披瀝したことが混乱を招いた。
ただ、発言には、必ずしも強い非難に値しないものもある。
「韓国が、日本だけが強制連行したと言っているからややこしい。(補償問題は)日韓基本条約ですべて解決している、国際的には。なぜ蒸し返されるのか」と疑問を呈したくだりなどだ。
元慰安婦への補償問題は、1965年の日韓請求権協定で法的には解決している。日本側は「アジア女性基金」による「償い金」の救済事業という対応もとった。それでも、韓国側は一部を除いて受け取りを拒んだ経緯がある。
籾井氏は、海外向けに発信している国際放送について、「政府が右と言っていることを左と言うわけにはいかない」と語った。この発言も、政府の意向におもねるのか、という批判を招いている。
だが、税金も投入されている国際放送で政府見解を伝え、理解を求めるのは、むしろ当然だ。
菅官房長官は、籾井氏の一連の発言について「個人としてのものだ」と述べ、政府としては不問に付す考えを示した。
NHKの経営委員会も、「公共放送トップの立場を軽んじたと言わざるを得ない」として厳重注意にとどめ、進退は問わないことにした。なお信頼回復の余地があると判断したのだろう。
NHKは最近、原子力発電所の再稼働や米軍輸送機オスプレイの配備、特定秘密保護法などの報道をめぐって、政財界から偏向しているとの指摘を受けている。
籾井氏は「放送法に沿ってやれば、政府の言いなりになることはない」と語っている。
NHKは、視聴者の期待に応える番組作りを進め、放送の不偏不党を貫いてもらいたい。
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