毎日新聞 2014年01月28日
農薬混入事件 防止策示し懸念を拭え
冷凍食品に農薬を混入させたとして、群馬県警が契約社員の男(49)を偽計業務妨害容疑で逮捕した。
マルハニチロホールディングス(HD)の子会社「アクリフーズ」群馬工場で製造された冷凍食品から、農薬「マラチオン」が検出された事件だ。容疑者は2005年10月から同工場の契約社員としてピザの製造ラインで働いていた。容疑が事実ならば、食を扱う企業の管理責任が強く問われる。
大量生産の食品が広く流通する今日、安全な食品を消費者に届ける企業の責任は極めて重い。事件の教訓をくみとり、他の企業も含め、製造や流通などにおける安全管理体制を改めてチェックすべきだ。
容疑者は県警に事情聴取された後の今月14日に失踪し、24日に埼玉県内で保護された。マラチオンを保有していたとされ、農薬が検出された製品の製造日に勤務していたことも確認されたという。
また、普段から給料が安いことなど待遇への不満を口にしていたと同僚が証言する。容疑が事実とすれば、その動機や背景は何か。また、容疑者はどこで農薬を入手したのか。県警は客観的な証拠を集めて丁寧に立証し、真相の解明を図るべきだ。
それにしても、会社側の対応は後手に回ったと言わざるを得ない。
マルハHDが、製品からマラチオンが検出されたと発表したのは先月29日だ。消費者から異臭の指摘があってから1カ月半たっていた。その間、苦情の訴えは各地に広がっていた。農薬が混入した商品を食べた場合の被害の危険性も当初、過小に公表した。商品回収にも手間取った。
扱うのが食品である以上、消費者の健康に直結する。マイナス情報は一刻も早く公表するのが鉄則のはずだ。公表後に被害申告が急増し、年の瀬の食卓を不安が直撃した格好になったのは残念だ。マルハHDとアクリフーズの両社長が3月末での引責辞任を発表した。けじめは当然として、一連の対処のどこに問題があったのかしっかり検証してほしい。
一方、製造過程での混入だとすれば、どう防ぎ、安全を確保するのかが、重い課題として残る。アクリフーズでも、製造ラインへの立ち入りは担当者に制限したり、ポケットのない作業着を着用させたりしていた。ただし、施錠が不十分な部屋があったとの従業員の証言も出ている。
アクリフーズは、製品回収で35億円の損失を見込む。企業として二重三重のチェックで安全管理を徹底する。その際、予断や油断は排し速やかに対処する。そうした地道な積み重ねが、食に携わる企業の信頼を高め業績につながるはずだ。業界で同種事案の防止に取り組んでほしい。
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読売新聞 2014年01月27日
農薬混入事件 「食の安全」揺るがす内部犯行
日本の「食の安全」を揺るがし、食品メーカーへの不信を増大させた。捜査当局は真相解明を急ぐべきである。
食品大手「マルハニチロホールディングス」の子会社「アクリフーズ」群馬工場で製造された冷凍食品に農薬マラチオンが混入された事件で、群馬県警が工場の契約社員の男(49)を偽計業務妨害容疑で逮捕した。
男は昨年10月、工場で製造する冷凍食品に4回にわたり、マラチオンを混入した疑いがある。
工場で製造されたピザなどを食べ、体調不良を訴えた人は全国で約2800人に上る。
男は調べに対し、「覚えていない」と話しているという。まだ動機も判然としない。 群馬県警は、農薬の混入方法、事件の背景などを徹底的に究明してもらいたい。
マルハニチロの久代敏男社長とアクリフーズ社長は、3月末で引責辞任することを表明した。
昨年11月、工場で製造されたピザを食べた消費者から異臭の苦情があってから自主回収まで1か月半も要し、対応が遅れた。信頼を失墜した以上、辞任は当然だ。
10月以降に群馬工場で製造した冷凍食品の回収率は約85%にとどまる。マルハは引き続き、返品を呼びかける必要がある。
食品業界では2008年に発覚した中国製冷凍ギョーザ中毒事件後、意図的な異物混入を防ぐ「フードディフェンス(食品防御)」の考え方が広がっている。
この群馬工場でも、従業員にポケットのない作業着の着用を義務づけ、製造ラインに監視役の従業員も配置していた。
しかし、工場に入る際の持ち物検査などはなく、「袖口に忍び込ませれば、農薬を持ち込むことはできる」と話す従業員もいる。
グループ全体の食品安全管理体制を含めた品質管理のあり方や、従業員教育などに問題がなかったか。検証が必要だろう。
今回の事件は、業界全体にも警鐘を鳴らしている。
性悪説に立つことは難しいかもしれないが、悪意を持つ従業員の不正を防ぐことが何よりも重要だ。そうした行為を難しくするための監視強化など、社内体制の整備が各社に求められる。
マルハニチロは2014年3月期決算の業績予想を下方修正した。群馬工場の製造を中止し、販売不振に陥ったのが主因だ。
いったん失った消費者の信頼回復の道が険しいことを、業界各社は肝に銘じなければならない。
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産経新聞 2014年01月27日
「農薬混入」逮捕 被害拡大防ぐ危機管理を
冷凍食品の農薬混入事件で製造工場従業員の49歳の男が逮捕され、製造会社と親会社の社長が引責辞任を表明した。
健康被害のほか、商品回収が続き、公表の遅れによって食の不安を増した事件の影響は甚大だ。
食品安全管理の隙をつかれた混入経緯などの解明はもちろんだが、企業には問題を過小評価せず速やかに公表することなど、被害を広げない危機管理を改めて求めたい。
事件があったのは、食品大手マルハニチロホールディングスの子会社アクリフーズの群馬工場で、製造したピザやコロッケなどの冷凍食品から農薬マラチオンが検出された。
昨年11月13日に冷凍食品に「石油のようなにおいがする」と苦情があったが、自主回収などを発表したのは同12月29日だ。下痢や嘔吐(おうと)など健康被害の相談は、現在までに2800件を超えた。同工場で製造された冷凍食品640万個のうち約15%が未回収だ。
容疑者の男は契約社員として同工場に約8年間勤務しているという。昨年10月に前後4回、冷凍食品に農薬を混入して工場業務を妨害したとして、偽計業務妨害容疑で逮捕された。「覚えていない」などと否認しているという。
食品会社では毒物でなくても、髪の毛や異物が混入すれば、商品回収が求められ、商品の信頼を大きく損なう。このため衛生管理はもちろん、製造ラインに従業員の私物など仕事と関係のないものを持ち込まないよう管理を徹底している。同工場も対策をとっていたというが防げなかった。動機とともに、農薬の混入方法など徹底究明が再発防止に欠かせない。
今年度末で辞任するとしたマルハニチロとアクリ社の社長は、外部専門家を入れ検証することを明らかにした。当然であり早急に態勢づくりを進めてほしい。
今回の事件では、消費者の情報を生かせず公表まで1カ月以上かかった。森雅子消費者行政担当相もアクリ社の社長を呼び、「行政に情報をあげてもらわないと対応できない」と社内で情報が止まっていたことを批判している。
悪意を持って食品に毒を入れる犯罪行為は、社内対応だけでは解決できない。警察への連絡が遅れれば初動捜査にも影響し、深刻な被害が広がりかねない。多くの企業に消費者の安全を守る責任を改めて強く認識してもらいたい。
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