五輪は世界の多彩なアスリートたちが夢を胸に集う祭典だ。その運営の主役には、やはりスポーツ界の人材が似合う。
2020年東京五輪・パラリンピックの組織委員会が発足した。その印象は残念ながら、五輪の躍動感や多様性からは開きがあると感じざるを得ない。
会長に選ばれたのは、76歳の森喜朗元首相。実務を担う事務総長には、70歳の武藤敏郎・元財務次官が就いた。
組織委の運営費だけでも3千億円。大会時は職員3千人とボランティア8万人を束ねる大所帯だ。政官のOBらにも一役買ってもらいたいのはわかる。
だが、国政を動かした政治家らが五輪の顔というのでは、政官主導でものごとを仕切る古臭い日本社会の縮図のようだ。
国内をまとめる内向きの発想に閉じこもらず、スポーツを介して世界との接点を広げる開放的な人材登用が望ましい。
国際的な潮流は、アスリート主導の運営である。
12年ロンドン五輪の組織委会長は、陸上金メダリストのセバスチャン・コー氏だった。16年リオデジャネイロ五輪は、バレー五輪代表だったカルロス・ヌズマン氏が指揮を執る。
五輪はできるだけ政治から切り離し、主役はスポーツとする。五輪憲章を貫く基本理念を、組織運営の礎としたい。
今回、日本オリンピック委員会(JOC)をはじめスポーツ界は、人選の過程で、ほぼ蚊帳の外に置かれた。
ビジネス感覚と国際性を兼ね備え、知名度も高い人材がスポーツ界になかなか見当たらない現実も直視せねばなるまい。
五輪までの6年余りは、国際オリンピック委員会(IOC)や国際競技連盟など世界のスポーツ界と関係を深める好機だ。
まずは、世代間バランスを考えて、組織委の中核に大胆に若手を登用してはどうか。
IOC総会でのプレゼンテーションで活躍したフェンシングの太田雄貴選手や、パラリンピアンの佐藤真海選手ら、才能豊かな若い世代はいる。
また、今回の組織委の役員12人が全員男性というのは時流にあわない。森会長は「オールジャパン体制を作りたい」と語るのだから、その第一歩として女性を積極的に登用すべきだ。
安倍首相は昨秋のIOC総会で、100カ国・地域の1千万人が恩恵を受ける発展途上国へのスポーツ支援も打ち出した。
平和の祭典を機に、日本と世界との交流の窓を広げ、次世代の人材を育てる。それは組織委の大きな役割であろう。
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