その信念や善しである。「この道しかない」との指導者の決意は伝わる施政方針演説だった。
金融緩和と財政出動というアベノミクス第1と第2の矢が一定の効果を挙げ、いよいよ最難関の第3の矢である成長戦略の成否がかかる年である。
日本を誇りある強い国に立て直すには、何としてもその大本となる経済力を取り戻さなければならない。安倍晋三首相には自らの経済政策を貫徹してもらいたい。
4月には17年ぶりの消費税増税が実施される。経済成長と財政健全化の両立という難題をやり遂げなければ先の展望は開けない。
≪消費増税への備え急務≫
外交・安全保障の懸案にも着手しなければならない。今国会で実現すべき最大の課題は、集団的自衛権の行使容認である。
首相は通常国会を「経済の好循環を実現するための国会」と位置付けた。輸出企業などの収益増を賃上げにつなげて消費を拡大すれば、景気回復を促進できる。
そのための課題として企業の投資を喚起する成長戦略の改定を挙げ、農業や福祉などを成長産業にするとし、ビルの容積率などを緩和する国家戦略特区について3月中に地域を指定するとした。
方向性は妥当だ。金融緩和と財政出動による下支え効果があるうちに、民間主導の成長を生み出すことがデフレ脱却に必要だ。
問われるのは、具体化への実行力だ。民間企業の活躍の場を広げるため、新たな市場の開拓につながる実効性ある規制緩和も進めなければならない。
企業の国際競争力を高めるためには、法人税の実効税率の引き下げも欠かせない。演説では直接、言及しなかったが、首相が議長を務める経済財政諮問会議などで詳細を詰めてほしい。
安倍政権は3月末で復興特別法人税を1年前倒しで廃止する。それでも、日本の実効税率は35%程度と主要国と比べて高水準だ。
減税すれば1%あたり4千億円超の減収が見込まれるため、財務省などは反対している。法人税減税と同時に、役割を終えた企業向けの租税特別措置などの減税の見直しに踏み込むべきだ。
当面の減収が避けられないとしても、企業活動が活発化すればより多くの税収が期待できる。首相はダボス会議で対外的にも公約した。日本企業を後押しし海外の投資を呼び込むため、果断に取り組んでもらいたい。
5・5兆円の消費税増税対策などを盛り込んだ補正予算案や来年度予算案の早期成立を図ることも、景気回復を持続させていくために極めて重要である。
注目したいのは、東シナ海上空への防空識別圏の一方的設定や、尖閣諸島付近での日本領海侵入を繰り返す中国に対し、「力による現状変更の試みは、決して受け入れることはできない」と名指しで批判したことである。
≪尖閣守る法整備も必要≫
歴代首相は中国に配慮して口にしなかったが、安倍首相は事態が深刻化しているとの認識に立ったのだろう。日本の空や海、国境の島々が脅かされている状況を踏まえて、「防衛態勢を強化」すると明言した。当然である。
「積極的平和主義」の道を歩んでいくとして、米国と連携しながら世界の平和と安定に「一層積極的な役割」を果たすと述べた。
日米同盟の絆を強め、共同の対処能力を高めるためには、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更が不可欠となる。
首相は集団的自衛権と集団安全保障についても、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の報告を踏まえて対応を検討すると語った。国会演説で初めて言及した意義は大きい。
日本周辺の安保環境は厳しさを増し、集団的自衛権をめぐる憲法解釈の変更は待ったなしだ。演説でなぜ行使容認が必要か十分な説明がなかったのは物足りない。国会論戦を通じ、その重要性を説き続けるべきだ。行使容認に慎重な公明党との調整も急務である。
集団安全保障への関わりの検討は国際平和協力での自衛隊の役割を拡大するもので、歓迎する。
中国の特殊部隊が漁民に偽装して尖閣に上陸し、占拠する事態に自衛隊がどう対処するかなど、尖閣防衛の具体策は触れられなかった。国家安全保障会議で対応策をまとめ、必要な法整備なども急がなければならない。
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