安倍首相演説 重要課題がそっけない

朝日新聞 2014年01月25日

施政方針演説 明るさの裏側には?

第2次安倍政権になって2度目の通常国会が召集された。

6月までの会期中に、消費税率が引き上げられる。原発の再稼働や、集団的自衛権の行使容認の是非も議論される。日本の針路にかかわる重いテーマがひかえている。

論戦に臨む安倍首相がきのうの施政方針演説でみせたのは、表向きの明るさだった。

「やれば、できる」。首相はこの言葉を4回繰り返した。

次の東京五輪を、日本が生まれ変わるきっかけとする。東日本大震災の被災者の住まいを一日も早く再建する。こうした文脈の中でのことだ。

衆参のねじれを解消した首相が「やれば、できる」と意を強くするのはわからないでもない。演説を貫いたのは、日本の未来への楽観的なトーンだ。

指導者が明るい未来を語ることに意味はある。だが、どうにも違和感をぬぐえない。

首相が力を入れる経済では「三本の矢によって、長く続いたデフレで失われた自信を取り戻しつつある」として、「景気回復の実感を、全国津々浦々にまで届けようではありませんか」と呼びかけた。

そうなってほしい。ただ、多くの国民には、目の前に迫った消費税アップが気にかかる。

支出をどう切り詰めるか、売り上げへの悪影響をどう防ぐか。多くの家庭や企業が頭を悩ませているのが実情だろう。

一方、増税が医療・介護や子育て支援の充実に本当につながっていくのか。お年寄りや小さな子どもがいる世帯にとって、これもまた切実な問題だ。

首相は消費税対策について、5・5兆円の補正予算などの経済対策で「持続的な経済成長を確保する」という。

その実体は公共事業頼みのバラマキ予算だ。こんな旧態依然の金遣いで、ますます難しくなる社会保障の受益と負担のバランスをとっていけるのか。疑問は尽きない。

首相は教育改革や女性の積極登用を具体的に語る一方で、原発や集団的自衛権については深入りを避けた。

例えば原発では「原子力規制委が定めた厳しい安全規制を満たさない限り、再稼働はない」と、これまでの見解をなぞっただけだ。

東京都知事選の投票日までは「触らぬ神にたたりなし」という姿勢だとしたら、不誠実と言われてもしかたあるまい。

首相が多くを語らなかったことこそ、もっとも議論されるべき課題だ。そこをごまかして、なんのための国会だろう。

毎日新聞 2014年01月25日

安倍首相演説 重要課題がそっけない

「経済優先」をアピールすることが内閣支持率の維持につながると考えているのだろう。24日始まった通常国会冒頭で行われた安倍晋三首相の施政方針演説は経済政策に多くの時間が割かれ、外交・安保や教育分野での安倍色=保守色は抑制された印象だ。だが、それが首相の本心かどうかは分からない。今国会では演説であまり触れられなかったテーマこそ与野党は掘り下げて、議論をしていく必要があるだろう。

一連のアベノミクスについて首相が「この道しかない」と重ねて胸を張ったのは、株価をはじめ経済指標が堅調に推移している自信の表れと思われる。

そのうえで首相は3月中に具体的な地域を指定する国家戦略特区や、4月からの復興特別法人税廃止、海外市場に飛び込む事業者を官民一体で支援するインフラ輸出機構の創設など諸施策を列挙した。演説に盛り込んだ難病対策の強化やあらゆる分野での女性の活用などはより積極的に取り組んでほしいとも考える。

ただし、真価が問われるのはまさにこれからだ。首相の狙い通り賃金は上がるか。4月からの消費増税の影響はどうか。景気次第で内閣支持率は一転して下落する可能性があることを改めて指摘しておきたい。

経済分野以外はそっけなかった。

例えばエネルギー政策では従来通り「責任あるエネルギー政策を構築する」「原子力規制委員会が定めた安全水準を満たさない限り、原発の再稼働はない」などと語る程度だった。もはや、もっと具体的に語るべき時期である。原発問題が争点になっている東京都知事選に配慮したのかと疑われても仕方がない。

今年の大きな政治テーマとなる集団的自衛権の行使を認めるかどうかの問題は有識者懇談会での報告を踏まえて対応を検討すると語った。しかし、行使容認に首相が前向きなのは既に多くの国民も知っている。少なくともどんな日程で検討を進めるのかは早く表明すべきである。

昨年末の首相の靖国参拝や、南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)で、陸上自衛隊が武器輸出三原則の例外扱いとして韓国軍に弾薬を無償譲渡した問題に至っては一切触れずじまいだった。これは疑問だ。

首相は今国会を経済の「好循環実現国会」と位置づけた。だが、私たちは昨秋の臨時国会を「成長戦略実行国会」と首相が命名する一方で、冒頭演説で触れなかった特定秘密保護法を会期途中で提出し、強行採決を重ねたことを忘れていない。

与党が丁寧な国会運営をすると同時に、重要なテーマほど早くからきちんと国民に説明していくのが首相の責務のはずである。

読売新聞 2014年01月25日

施政方針演説 不屈の精神で懸案解決に挑め

「何事も、達成するまでは、不可能に思えるものである」

安倍首相が施政方針演説の冒頭、南アフリカのネルソン・マンデラ元大統領の言葉を引用した。日本が直面する多くの難題に、不屈の精神で挑む決意を示したものだ。いかに結果を出すかが問われよう。

通常国会が開幕した。

首相が「好循環実現国会」と銘打ったように、経済政策「アベノミクス」によるデフレ脱却に最優先で取り組む必要がある。4月の消費税率引き上げによる悪影響を最小限に抑えねばならない。

一方で、「地球儀を俯瞰(ふかん)する視点で戦略的なトップ外交」を進める意向を示した。「いかなる課題があっても首脳同士が対話することで物事が動く」と強調した。

ただ、中国、韓国との関係は冷え切ったままだ。北朝鮮の拉致、核・ミサイル問題の進展には、中韓両国の協力が欠かせない。関係改善に取り組まねばなるまい。

中国の急速な軍事力増強を踏まえれば、外交・安全保障政策をより能動的に展開すべきだ。

首相は、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」を演説の一つの柱とした。米国と手を携え、世界の平和と安定に積極的役割を果たす。それが日本の安全を守る道だという考え方を支持したい。

昨年末に創設した国家安全保障会議を十分機能させるには、米国などと機密情報を共有できるよう制定した特定秘密保護法の施行へ準備を急ぐことが肝要である。

次の課題は集団的自衛権の行使を禁じた憲法解釈の見直しだ。

首相は、今春に有識者会議の報告を受けて政府の対応を検討する考えを示している。内閣法制局などの抵抗で長年困難とされてきた集団的自衛権の問題に、首相主導で終止符を打ってもらいたい。

日米同盟を強化するには、日本を守っている米軍が攻撃を受けても日本は何もできない、という片務的な関係をできる限り是正していくべきだろう。

米軍普天間飛行場移設問題は沖縄県知事が辺野古移設に伴う公有水面埋め立てを承認し、ようやく動き始めた。政府には、返還が確かなものになるよう地元の説得を含め一層の努力が求められる。

首相は、政策実現を目指す「責任野党」とは真摯(しんし)に協議すると語った。野党の一部にも、政府に反対一辺倒ではなく、是々非々で対応する機運が高まっている。

与野党には、国会改革や選挙制度改革、憲法改正などで建設的な議論を期待したい。

産経新聞 2014年01月25日

施政方針演説 「強い国」再生へ決意貫け 集団的自衛権容認は今国会で

その信念や善しである。「この道しかない」との指導者の決意は伝わる施政方針演説だった。

金融緩和と財政出動というアベノミクス第1と第2の矢が一定の効果を挙げ、いよいよ最難関の第3の矢である成長戦略の成否がかかる年である。

日本を誇りある強い国に立て直すには、何としてもその大本となる経済力を取り戻さなければならない。安倍晋三首相には自らの経済政策を貫徹してもらいたい。

4月には17年ぶりの消費税増税が実施される。経済成長と財政健全化の両立という難題をやり遂げなければ先の展望は開けない。

≪消費増税への備え急務≫

外交・安全保障の懸案にも着手しなければならない。今国会で実現すべき最大の課題は、集団的自衛権の行使容認である。

首相は通常国会を「経済の好循環を実現するための国会」と位置付けた。輸出企業などの収益増を賃上げにつなげて消費を拡大すれば、景気回復を促進できる。

そのための課題として企業の投資を喚起する成長戦略の改定を挙げ、農業や福祉などを成長産業にするとし、ビルの容積率などを緩和する国家戦略特区について3月中に地域を指定するとした。

方向性は妥当だ。金融緩和と財政出動による下支え効果があるうちに、民間主導の成長を生み出すことがデフレ脱却に必要だ。

問われるのは、具体化への実行力だ。民間企業の活躍の場を広げるため、新たな市場の開拓につながる実効性ある規制緩和も進めなければならない。

企業の国際競争力を高めるためには、法人税の実効税率の引き下げも欠かせない。演説では直接、言及しなかったが、首相が議長を務める経済財政諮問会議などで詳細を詰めてほしい。

安倍政権は3月末で復興特別法人税を1年前倒しで廃止する。それでも、日本の実効税率は35%程度と主要国と比べて高水準だ。

減税すれば1%あたり4千億円超の減収が見込まれるため、財務省などは反対している。法人税減税と同時に、役割を終えた企業向けの租税特別措置などの減税の見直しに踏み込むべきだ。

当面の減収が避けられないとしても、企業活動が活発化すればより多くの税収が期待できる。首相はダボス会議で対外的にも公約した。日本企業を後押しし海外の投資を呼び込むため、果断に取り組んでもらいたい。

5・5兆円の消費税増税対策などを盛り込んだ補正予算案や来年度予算案の早期成立を図ることも、景気回復を持続させていくために極めて重要である。

注目したいのは、東シナ海上空への防空識別圏の一方的設定や、尖閣諸島付近での日本領海侵入を繰り返す中国に対し、「力による現状変更の試みは、決して受け入れることはできない」と名指しで批判したことである。

≪尖閣守る法整備も必要≫

歴代首相は中国に配慮して口にしなかったが、安倍首相は事態が深刻化しているとの認識に立ったのだろう。日本の空や海、国境の島々が脅かされている状況を踏まえて、「防衛態勢を強化」すると明言した。当然である。

「積極的平和主義」の道を歩んでいくとして、米国と連携しながら世界の平和と安定に「一層積極的な役割」を果たすと述べた。

日米同盟の絆を強め、共同の対処能力を高めるためには、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更が不可欠となる。

首相は集団的自衛権と集団安全保障についても、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」の報告を踏まえて対応を検討すると語った。国会演説で初めて言及した意義は大きい。

日本周辺の安保環境は厳しさを増し、集団的自衛権をめぐる憲法解釈の変更は待ったなしだ。演説でなぜ行使容認が必要か十分な説明がなかったのは物足りない。国会論戦を通じ、その重要性を説き続けるべきだ。行使容認に慎重な公明党との調整も急務である。

集団安全保障への関わりの検討は国際平和協力での自衛隊の役割を拡大するもので、歓迎する。

中国の特殊部隊が漁民に偽装して尖閣に上陸し、占拠する事態に自衛隊がどう対処するかなど、尖閣防衛の具体策は触れられなかった。国家安全保障会議で対応策をまとめ、必要な法整備なども急がなければならない。

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