日本経済 「脱デフレ元年」めざせ

読売新聞 2010年01月03日

日本経済再生 デフレ退治に全力投球せよ

日本経済は、金融危機と世界不況の嵐をひとまず乗り切ったが、今度はデフレの冷たい霧に包まれてしまった。中長期的には、少子高齢化や人口減少による経済規模の縮小という難題も控えている。

安定成長の軌道に乗るか、それともデフレの圧力に屈して下り坂に迷い込むか。日本経済は岐路に立っている。政府・日銀は、政策を総動員してデフレを克服し、活路を開かねばならない。

◆格安競争に潜むワナ◆

政府は、2001年3月にデフレを認定した後、脱却宣言を出せないまま、昨年11月に再認定した。実際には、銀行破綻(はたん)が相次いだ金融不況から約10年、慢性デフレに沈んだままと言っていい。

とりわけ最近は、スーパーや量販店に1000円を切るジーンズが並び、飲料や持ち帰り弁当、牛丼チェーンなど食料品にも“格安戦線”が急拡大している。

消費者はできるだけ安く買いたいと考え、企業は売り上げ回復のため値下げする。それぞれにとっては合理的な行動が、デフレを悪化させる要因となる。

値下げ競争が激しくなると、企業は採算が悪化して利益が減る。このため、リストラや給与カットが広がり、さらに消費を冷やす悪循環が起きる。

経済統計を見ると、消費者物価の大幅な下落が続く一方で、労働者の月給はここ1年半、前年より減り続けている。

物価は安くなっても、それ以上に給料が下がり、リストラや倒産で多くの人が職を失う……。そんな「デフレスパイラル」が起き始めていないか、警戒が必要だ。

◆需要は35兆円足りない◆

デフレには、需要不足、金融収縮、通貨高の3大原因があり、今回は日本経済全体で35兆円もある需要不足が主因と見られる。

一昨年からの世界同時不況で海外需要が急減し、輸出企業を中心に、大幅な減産と雇用カットが加速した。輸出はアジア向けを中心に回復してきたが、ショック前のピークの7割ほどしかない。

設備や従業員を追加してまで増産する企業は少数派で、設備投資と雇用は回復が遅れている。新卒者の就職内定率は高校、大学とも記録的に落ち込み、就職氷河期の再来も心配だ。

過度の円高は、輸出産業を追い込み、輸入品の価格下落でデフレを悪化させる。政府は、市場介入をためらうべきではない。

持ち直してきた景気も、今年は景気対策の効果が薄れ、腰折れする懸念がある。当面は景気浮揚に即効性のある公共事業などでテコ入れを続けるべきだろう。

だが鳩山内閣は、「コンクリートから人へ」の政権公約にこだわり、来年度予算の公共事業を大幅に削った。これは、基幹産業が乏しい地方には特に打撃となる。

鳩山内閣は、子ども手当などの家計支援で、内需を刺激するとしている。だが、家計へのばらまきは貯蓄に回り、消費されにくい。景気対策として、効果的な予算の使い方とは言えまい。

財政は危機的だが、景気下支えの緊急措置として一定の国債増発もやむを得ない。増発による長期金利の上昇を防ぐために、日銀も国債買い入れの増額など、量的金融緩和の拡大で協調すべきだ。

財政出動だけで需要不足は穴埋めできない。企業が利益を上げ、それが従業員の給料や設備投資を増やす。そんな自律的成長を回復せねばならない。アジアなど外需の成長を取り込まないと、内需も頭打ちになる。

◆企業と家計を元気に◆

鳩山政権は、家計重視を掲げているが、企業を力づける政策は、あまりに手薄だ。

国際的に高い法人税実効税率の引き下げは、競争力強化のため、いずれ必要だろう。環境や省エネなど成長分野の研究・開発を後押しする施策も引き続き重要だ。

介護など高齢社会で伸びる事業の支援や規制緩和も新たな雇用を生み出す。

企業にも問題はある。いざなぎ景気を超えた長期好況で企業は巨額の利益を得たが、従業員への配分を抑えたため、消費は盛り上がりを欠いた。労働分配率を高め、内需の成長を後押しすれば、企業にもプラスになろう。

家計は、財政危機や医療、年金に対する不安から、過剰な貯蓄を抱えている。これも消費を冷やす要因である。社会保障費などの安定財源は消費税のほかにない。

景気回復後の消費税率引き上げを含め、財政再建計画を定めて将来不安を和らげるのも、広い意味での景気対策と言えよう。

与党内には、利子をゼロにするかわりに相続税を免除する「無利子非課税国債」構想もある。国は利払い負担なしで家計の“眠れる資金”を活用できる。経済立て直しに役立ててはどうか。

産経新聞 2010年01月03日

日本経済 「脱デフレ元年」めざせ

■政府・日銀は政策の連動を

日本経済を取り巻く環境は依然として厳しい。政府・日銀は今年、経済運営で正念場を迎える。年頭に提案したいのは、日本経済に活力を与えて少しでも明るい将来展望を切り開くために今年を「脱デフレ元年」と位置付けることだ。政府が需要創出を図りながら、日銀は追加的な金融緩和を打ち出す。物価が継続して下落するデフレからの脱却を国の目標とし、財政・金融政策を総動員するのである。

◆効果ある公共事業を

そのためにはまず円安誘導が有効だ。円高の進行は企業の輸出競争力をそぐだけでなく、輸入価格の下落を通じてデフレ圧力にもなるからだ。鳩山政権は為替介入に消極的な姿勢だが、日本経済にとってマイナスの影響が大きい円高の進行を押さえ込むため、急激な円高には単独でも為替介入に踏み切る決意を示すべきである。

そして財政政策と金融政策を連動させる。来年度予算案は、子ども手当など民主党の政権公約を実現するため、政策的経費に充てる一般歳出だけで53兆円超にのぼる。政府はこうした家計支援を通じて内需主導で景気回復を図る構えだが、効率的で経済波及効果の高い公共事業などに予算を振り向けるべきだ。羽田空港の国際化に向け、高水準の旅客需要を受け入れる新たな滑走路の建設などが考えられよう。

一方で財政規律にも目を配らなければならない。景気低迷で税収が落ち込む中、歳出を膨らませたことで来年度末の国債発行残高は630兆円を上回る。わが国には1500兆円にのぼる個人金融資産があるため、国債発行の余地はまだ十分あるとの指摘がある。

だが、無秩序な財政運営が続けば、長期金利の上昇につながり、景気の足を引っ張りかねない。消費税増税を含めた中長期的な財政再建目標を早期に策定しなければならない。

日銀も「脱デフレ」に向けた金融政策を展開する。リーマン・ショックで主要各国の中央銀行が資金を大量に供給する中で、日銀は追加供給をためらってきた。

このため、日銀は長期国債の買い入れ増額などに取り組み、市中に資金を大量に供給するなどの対策を講じなければならない。そして必要に応じて量的緩和を再び実施するなど、思い切った姿勢を示してほしい。

日本経済の未来に向けた成長戦略も問われる。政府は昨年末、成長戦略の概要をまとめたが、デフレからの脱却目標は盛り込まれなかった。

まずは目前の経済課題であるデフレ脱却を果たし、その上で産業界が新規事業を開拓できるような規制改革などの環境整備が必要だ。トラック運送規制の緩和で宅配便産業が誕生したことを思いだしてほしい。福祉・医療、子育て、介護などの規制を見直し、産業界の創意工夫を促すことで企業活力を引き出さねばならない。

◆明るい展望を見せよ

日本は今年中にも中国に国内総生産(GDP)で抜かれる見通しだ。日本が当時の西ドイツを抜き、米国に次ぐ「世界第2位の経済大国」に躍り出たのは1968年。それから40年あまりを経て、日本経済の代名詞になっていた座から転落する。少子化で人口が減少しつつある日本では今後、高い経済成長は期待できない。

しかし、このまま下り坂を転げ落ちるわけにはいかないのだ。急成長する中国を含め、アジア市場に隣接する地理的、経済的な結びつきを生かすような成長戦略を練らなければならない。

日本経済は平成10年から16年にかけて深刻なデフレに悩まされた。この時には世界経済の成長に支えられて輸出の伸びで回復できた。デフレからの脱却は一朝一夕にはいかない。それだけに、政府・日銀が意思疎通を密にして時間をかけて政策連携を図らなければならない。

民間企業の役割も重要だ。単なる安売りに走るのではなく、独自の商品やサービスの開発に努める。それがひいては国内における新産業の育成や雇用の創出にもつながるからだ。ボーナス削減や賃下げ、あるいは雇用不安で正月気分どころではない人も少なくない。今春卒業なのに就職先がまだ決まっていない学生もいる。

こうした厳しい状況にあるからこそ、官民をあげて対策に取り組み、国民が「日本経済はこの先も明るい」と心底から展望できるようになることがデフレからの脱却には不可欠だ。

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