シリア国際会議 和平への道筋は見えてくるか

朝日新聞 2014年01月26日

シリア会議 民衆の救済が最優先だ

中東のシリアの人口は2200万。ちょうど東京都と神奈川県を合わせた数である。

東京・神奈川で4人に1人が自分の家を追われ、200万人が国外へ逃げ出している事態を想像できるだろうか。

3年に及ぶ戦火と処刑などで十数万の命が失われ、それが今も日々増えていたら……。

いま最も優先すべきは、国際政治の打算や民族対立の折り合いをつけることではない。

戦闘の即時停止と、「人道的に恥ずべき規模」(国連)にまでなった難民の救済である。

長らく延期されていたシリアの和平会議が、スイスで開かれている。アサド政権と反政府勢力が初めて同じ席についた。

交渉の前途は、あまりに険しい。戦況で優勢に転じたアサド政権には、独裁体制をゆるめる気配はうかがえない。

反政府勢力は分裂しており、会議にやってきた「シリア国民連合」がどれほどの勢力を代表しているのかもあやふやだ。

とはいえ、たとえ非難の応酬になっても、すべての出発点は対話でしかない。

交渉のカギをにぎるのは当事者たちだけではない。むしろ、彼らを取り巻く主要な国々こそ果たすべき責任は大きい。

シリアの情勢は、複層的な代理戦争の様相を呈して久しい。米欧対ロシア、そしてイラン対アラブ諸国の構図である。

米欧はアサド政権の退陣を前提とするが、ロシアは拒んでいる。会議がめざす「移行政府」の考え方は同床異夢だ。

イランは結局、この会議に招かれなかった。直前に国連事務総長が招待を取り消したのも、イランがアサド退陣を受け入れる考えがないからだ。

だが一部の西欧諸国からは、今は政治体制にこだわらず、停戦地域と人道支援の拡大を急ぐべきだとの声が上がっている。

シリアには、戦火のため国際救援の手が届かず、飢餓や医療不足にあえぐ地域が多くある。国連の報告では、国民の半数が貧困に直面している。

政治論争より、人命を救う措置が先決なのは当然だろう。会議では少なくとも、休戦地域を広げるめどをつけるべきだ。

長期的な和平構想づくりは、イラン抜きにはあり得ない。皮肉にも、長年の懸案であるイラン自身の核問題をめぐっては、昨年の国際合意で制裁も緩められ、雪解けムードにある。

シリアを中東の失敗国家として置き去りにしてはならない。日本政府も支援金の上積みにとどまらず、積極的に停戦実現への貢献策を探るべきだ。

毎日新聞 2014年01月24日

シリア和平会議 米露の歩み寄りこそ

この会議が本当に和平につながるのか、という素朴な疑問を禁じえない。シリアのアサド政権と反体制派の代表や約40カ国が参加する国際会議(ジュネーブ2)が22日、スイスで開かれた。約3年の騒乱と内戦下、初めて当事者が和平会議に同席した意義はわかるが、懸案の移行政府樹立の論議は深まらず、双方の非難合戦に終始したことは残念だ。

24日からは政権側と反体制派の接触が始まる。直接的な交渉は難しく、国連などの仲介役を介した間接交渉方式が有力だという。大きな進展は望みにくいのが実情だろう。

そもそも、反体制派を代表する「シリア国民連合」はひところ、欧米などからシリア国民の唯一正統な代表とも目されたが、傘下の最大組織がジュネーブ2への参加に反対して脱退を表明するなど、急速に求心力を失った。24日からの交渉で仮に部分停戦や人道物資などについて合意しても、国民連合が合意を履行できるかどうか、大いに疑問だ。

22日の会議では、国民連合側が2012年の「ジュネーブ合意」に基づいてアサド大統領の退陣を求めたのに対し、アサド政権側は反体制派を「テロリスト」と呼び、政権側が化学兵器を使ったとの疑惑も「でっち上げ」と退けた。ケリー米国務長官が同大統領の辞任に言及すると、政権側のムアレム外相は、大統領の進退を決められるのはシリア国民だけだと切り返した。内戦で優位を保つアサド政権側の余裕が目立つ。

他方、内戦の死者は13万人に達し、外国や国内の比較的安全な場所へ逃れた人は1000万人近いという。人道危機は深刻だ。支援の構図は、反体制派に同情的な米欧やアラブ諸国と、アサド政権側に立つロシア、中国、イランとに大別されるが、一時は軍事介入を宣言した米オバマ政権も、複雑化する状況を受けて政策転換を視野に入れているようだ。

オバマ政権はこう考えているかもしれない。一口に反体制派といっても、国際テロ組織アルカイダにつながる組織もある。へたにテコ入れはできないし、仮にアサド政権を倒しても、もっと危険な後継政権ができて同盟国イスラエルの大きな脅威となってはまずい。ここはロシア提案に乗ってシリアの化学兵器を全廃する見返りに、アサド政権の存続を許す方が無難ではないか−−。

だが、そうだとしても米国は、より強い指導力を発揮する必要がある。不作為と不決断が目立つオバマ政権の姿勢が中東情勢の悪化を呼んでいる側面は無視できない。他方、ロシアもアサド政権一辺倒では限界があることを知っていよう。当事者は言うに及ばず、米露の歩み寄りこそ事態改善へのカギではないか。

読売新聞 2014年01月24日

シリア国際会議 和平への道筋は見えてくるか

流血を止める道筋は見えてくるのだろうか。

シリア内戦の終結を目指す国際和平会議の閣僚級協議が、スイス・モントルーで行われた。

3年近い内戦を通じてアサド政権と反体制派が話し合いのテーブルにつくのは初めてだ。和平に向けた節目としたい。

国連主催の協議には、日米など40余りの国や国際機関の代表が参加した。2012年にジュネーブで開かれた関係国会合の合意に基づき、反体制派を含む移行政府の樹立を話し合った。

だが、閣僚級協議は、政権と反体制派代表の「国民連合」の主張がかみ合わず、他の出席者も巻き込んだ非難の応酬に終始した。前途の険しさを示したと言える。

シリア外相は、内戦を「テロとの戦い」と位置づけ、強気の姿勢で反体制派を非難した。化学兵器廃棄に協力していることで外交的立場が強まり、戦場でも優勢を保っているからだろう。ロシアも政権の擁護に回った。

これに対し、国民連合議長は、アサド大統領退陣を訴え、その上で移行政府を樹立すべきだと主張した。ただ、国民連合は、傘下組織の離反が相次いで、反体制派をまとめ切れていない。国際社会の信頼も限定的だ。

今回の協議で、米国は国民連合に同調した。英国や日本のように国民連合を含む移行政府樹立を支持しつつも、アサド退陣を明示的には求めない国も多かった。

内戦の死者は12万人を超え、約900万人が、難民や国内避難民となっている。この危機を一刻も早く終わらせるため、関係各国はさらに努力せねばならない。

混乱に乗じ、国際テロ組織アル・カーイダ系のイスラム過激派武装勢力が影響力を増していることも情勢を一層複雑化している。

アサド政権と国民連合は、閣僚級協議に続き、ジュネーブで直接交渉を行う予定だ。

注目されるのは、米露外相が、北部アレッポに限定した停戦を提案していることである。国連は直接交渉で、政権と国民連合双方に、提案受け入れを働きかける。

交渉は難航確実だが、部分停戦でも実現できれば、紛争地の住民に人道支援を届けられる。合意形成に全力を挙げてもらいたい。

閣僚級協議には岸田外相が出席し、難民支援などへの取り組みを強化していると述べた。日本の表明した人道支援額は、合計4億ドル(約420億円)に上る。今後もシリアの安定に向け、日本のできる貢献が問われ続けよう。

産経新聞 2014年01月22日

シリア和平会議 停戦で合意し人道支援を

シリア内戦の収拾を目指す和平会議が、国連や日本など40カ国が参加してスイスで開かれる。

内戦の死者は13万人に達し、1千万人近い難民や国内避難民が飢えと寒さに苦しんでいる。混乱に乗じて国際テロ組織も跋扈(ばっこ)しだした。もはや一刻の猶予もならない。

内戦の当事者も国際社会も、まずは暫定停戦で合意し、人道支援に取り組むことから長く困難な和平の道へ踏み出さねばならない。

22日は各国外相らが意見表明する。内戦終結へ国際社会の断固たる決意を示してもらいたい。

24日からはアサド政権と反体制派が国連の仲介で初交渉する予定だ。国連や米露などによる2012年のジュネーブ合意は、中立的な移行体制を樹立し新憲法下で総選挙を行うなどとうたう。それが交渉の基本的な枠組みとなる。

和平への障害のひとつは、内戦がイスラム教宗派間の代理戦争の様相を深めていることだ。

シーア派の大国イランが自派系のアサド政権を軍や民兵も投入して支援する一方、スンニ派の守護者サウジアラビアなどアラブ湾岸諸国は自派の反体制勢力に武器や資金提供で肩入れしている。もつれきった宗派対立の糸をほぐすのは容易ではない。

反体制派内も一枚岩ではない。国際テロ組織アルカーイダ系の過激勢力などが入り乱れて戦っている。その中でロシアの武器支援を受けるアサド政権側は、戦場での失地を回復してきている。

反体制派は「アサド抜き」の移行体制を唱えるが、立場を強めた政権側が応じる見通しはない。

だが、そのアルカーイダ系はシリア情勢に呼応してイラクで息を吹き返し、レバノンにも活動を広げている。テロとの戦いの観点からも戦闘停止は待ったなしだ。

人口約2200万人のシリアで200万~300万人が近隣諸国に逃れ、650万人が国内避難民になっている。戦闘で避難民に援助物資を届けるのも難しい。救援の手を差し伸べるため、一部地域からでも停戦実現が急がれる。

それには、当事者とイラン、サウジ、ロシアなど双方の当事者を支える国々に対し、国際的な停戦圧力をかけることが不可欠だ。

和平会議には日本から岸田文雄外相も出席する。化学兵器廃棄や難民支援のほか、政治関与も含めて和平に貢献すべきだ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1679/