東京都知事選がきょう告示される。猪瀬直樹前知事が金銭問題で辞職する事態を受けた選挙だ。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、主催都市の責任者としてどう準備を進めていくか。首都直下地震に備える防災都市づくりも問われる。
「脱原発」の是非も争点となっている。電力の大消費地として、都民の生活や経済に必要なエネルギーをいかに確保するかという観点の議論が極めて重要だ。
候補者らは、魅力ある首都の将来を実現するため、より具体的に政策を競い合ってほしい。
≪残念な討論会見送り≫
すでに元厚生労働相の舛添要一氏、元日弁連会長の宇都宮健児氏、元航空幕僚長の田母神俊雄氏が正式に出馬を表明していたのに対し、「脱原発」で小泉純一郎元首相と連携する細川護煕元首相は22日にようやく出馬会見した。
14日に小泉氏との連携を確認して出馬の意思を示した後、出馬会見を繰り返し延期するなどの対応はフェアなものとはいえない。
政策のとりまとめなどに時間がかかったと説明したが、細川氏の対応のために、日本記者クラブが計画していた立候補予定者による討論会は見送られた。
今後も候補者を集めた討論会への出席には消極的なようだ。直接、政策をぶつけ合う機会に積極的に参加してほしい。
「ポスト猪瀬」の選挙だけに「政治とカネ」の透明性に関心が集まるのは当然だ。会見で細川氏は、首相辞任に追い込まれた自らの東京佐川急便からの1億円借り入れ問題について、「多くの人の失望を招いた。あらためておわびしたい」と謝罪した。
細川氏は「全額返済した」などと強調したが、多額の金を金融機関を通さず、なぜ現金でやりとりしたのかなど、当時から指摘された疑問には答えなかった。有権者の疑念を解消できただろうか。
原発問題について、細川氏が最優先課題と位置付けたのに対し、舛添氏は「自由な議論はいいが、その問題だけではない」と、原発依存からの脱却には時間を要することを強調した。
宇都宮氏は再稼働を認めない考えを示す一方、細川氏側からの一本化要請について「原発だけで一本化はあり得ない」と他の政策の重要性を指摘した。田母神氏は「原発は十分な安全性を確保しながら使っていける」と語った。
細川氏は当選すれば東京電力に働きかける考えを示したが、東電の株式の過半数は国が保有して都の持ち株比率は1%余に下がっている。影響力は限られる。
東電の電力供給地域は1都7県に及び、7割は神奈川、千葉、埼玉の首都圏や北関東3県が占めている。都の意向だけで脱原発を進められるわけでもない。
≪五輪成功へ現実公約を≫
東京五輪について細川氏は「もろ手を挙げて賛成する気にはならなかったが、決まったからには歓迎する気持ちに変わった。『東京・東北五輪』を目指したい」と開催計画見直しを示唆した。
細川氏は昨年、ジャーナリストの池上彰氏の著書「池上彰が読む小泉元首相の『原発ゼロ』宣言」の中で、「安倍(晋三首相)さんが『オリンピックは原発問題があるから辞退する』と言ったら、日本に対する世界の評価は格段に違っていた」と五輪の返上を主張していた。
知事選出馬が取り沙汰されてからは、「被災地でマラソン競技を行う」等の腹案も伝えられたが、実現性はないに等しい。
宇都宮氏も「環境に配慮し、すべての国民や海外からも歓迎される五輪にしたい」として計画見直しの可能性に触れた。舛添、田母神両氏は「史上最高の五輪」「五輪の成功」を政策に挙げた。
五輪の開催計画は都がスポーツ界や国とともに、16年大会招致から積み上げられた国際公約といえる。東京開催は国際オリンピック委員会がこれを吟味して決めたものであり、知事一人の思惑で安易に変更できるものではない。
首都をも例外なく襲う少子高齢化も喫緊の課題である。東京都の人口は五輪が開かれる2020年の1336万人をピークに減少に転じると予測されている。
各氏とも社会保障や福祉政策の充実を口にするが、待機児童解消など子育て支援を含め、現実的な解決策を競ってもらいたい。
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