安全保障とプライバシー保護をどう両立させるか。米情報監視体制の実効性が問われている。
米国のオバマ大統領が国家安全保障局(NSA)による情報収集活動の改革案を発表した。
改革案は、情報収集活動に対する監視を強化し、活動の透明性を高めることや、同盟国や友好国の首脳への通信監視を原則として行わない方針などを盛り込んだ。
NSAは通信傍受を主任務とするが、元中央情報局(CIA)職員が持ち出した機密文書により、大がかりな盗聴や通信記録の収集の実態が暴露され、国内外から激しい批判を浴びた。
同盟関係を結ぶドイツのメルケル首相ら外国首脳の携帯電話や電子メールを傍受していたとされたことは、外交問題に発展した。
国際社会で米国への信頼を取り戻すために、オバマ氏の打ち出した改革は妥当だろう。
もとより、ドイツなどの首脳にとって、米国が通信監視をやめても、他国からの監視がなくなるわけではない。同盟国にも独自の防諜体制の確立が求められる。
NSAが米国内で収集し、保管している膨大な電話通話記録は、電話番号や通話日時を記したものだ。米国では、政府の市民に対する情報収集は行き過ぎだとして、すでに訴訟も起きている。
政府が記録を乱用するのを防止するために、オバマ氏が通話記録を政府内で保管せずに、外部の機関に保管を委託する方針を示したのはもっともである。
一方、オバマ氏は、NSAの情報収集活動として通信傍受は今後も継続する、と明言した。
2001年の米同時テロ以降、テロやサイバー攻撃阻止のために通信傍受の役割が重要性を増しているのは間違いない。プライバシー保護のために一定のルールを設けて、情報機関の活動を続ける決意を示したのは、評価できる。
米国の収集した情報は、他国の安全保障にも役立っている。
NSAなど米情報機関にとっての今後の課題は、改革の契機ともなった、元CIA職員による機密文書流出のような事件の再発を防ぐことだろう。
米国内には、元職員を犯罪者というより、内部告発者として扱うべきだとの声もある。情報保全体制に不備な点があるかどうか、検証すべきである。
米情報機関と情報交換を行う日本にも、機密保護が求められる。特定秘密保護法による体制作りをその第一歩としたい。
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