名護市長選 移設反対の民意生かせ

朝日新聞 2014年01月20日

名護市長選 辺野古移設は再考せよ

名護市辺野古への基地移設に、地元が出した答えは明確な「ノー」だった。

米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先とされる名護市の市長に、受け入れを拒否している稲嶺進氏が再選された。

沖縄県の仲井真弘多(ひろかず)知事は辺野古沖の埋め立てを承認したが、市長選の結果は移設計画や政府の手法への反発がいかに強いかを物語る。強引に事を進めれば大きな混乱を生む。政府は計画を再考すべきだ。

名護市長選で基地移設が争点となるのは5回目だ。

昨年末の知事の承認によって、日米両政府の合意から18年間進まなかった移設計画は一つのハードルを越えた。今回の市長選ではこれまで以上に「基地」が問われた。

移設反対派は地元の民意を示す最後の機会ととらえた。一方、推進派の末松文信氏側には連日、大臣や知事、自民党国会議員が応援に入り、国や県とのパイプを強調。基地受け入れの見返りに国から交付される米軍再編交付金などを使った地域振興策を訴え続けた。

しかし、振興策と基地問題を結びつけて賛否を迫るやり方には、名護市だけでなく、沖縄県内全体から強い反発がある。当然だろう。

知事が承認にあたり安倍首相と振興予算の確保などを約束したことに対しても、「カネ目当てに移設を引き受けた、という誤ったメッセージを本土に発信した」と批判が上がった。知事は県議会から辞職要求決議を突きつけられる事態となった。

極めつきは自民党の石破幹事長の発言だろう。市長選の応援で「500億円の名護振興基金を検討している」と演説し、その利益誘導ぶりは有権者を驚かせた。稲嶺氏は「すべてカネ、権力。そういうことがまかり通るのが日本の民主主義なのか」と痛烈に批判した。

この選挙をへてなお、政府は辺野古移設を計画どおり推進する方針だ。

稲嶺市長は、作業に使う海浜使用許可を拒むなど、市長の権限で埋め立て工事の阻止をめざす考えだ。政府が立法措置や強行策を用いて着工することなど、あってはならない。

「普天間の5年以内の運用停止」という知事の求めを、国が約束したわけではない。普天間の危険性を考えたとき、辺野古移設が最善の道なのかどうか。政府は県外移設も含め、もう一度真剣に検討し直すべきだ。同時に、オスプレイ配備の見直しや米軍の訓練移転など基地負担軽減を急ぐ必要がある。

毎日新聞 2014年01月20日

名護市長選 移設反対の民意生かせ

沖縄県名護市長選で、米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)の名護市辺野古への移設に反対する現職の稲嶺進氏が、移設推進を掲げた新人の末松文信氏を破り、再選を果たした。

政府は昨年末、仲井真弘多(ひろかず)・県知事から辺野古沿岸部の埋め立て承認が得られたため、選挙結果にかかわらず、予定通り移設を進める方針だ。しかし、基地受け入れの是非が真正面から問われた地元の市長選で、反対派が勝利した意味は極めて重い。

地元の民意に背いて移設を強行すれば、反対運動が高まるのは確実で、日米同盟の足元は揺らぎ、同盟はかえって弱体化しかねないだろう。

安全保障上の必要性を踏まえつつ、本土が広く基地負担を分かち合うことを含めて、地元の民意をいかす道はないのか。政府はもちろん、日米安全保障体制の受益者である私たち国民の一人一人が自分の問題としてとらえ、解決策を模索すべきだ。

日米両政府が1996年に普天間飛行場の返還に合意して以来、名護市長選で辺野古移設の是非が問われたのは5回目だ。最初の3回は、政府の手厚い経済振興策もあって、容認派が勝ったが、鳩山政権下で行われた2010年の前回市長選で反対派が初めて勝利した。

今回は、知事が埋め立てを承認してから初の市長選だった。保守系候補が「容認」でなく「推進」を掲げたのも初めてだ。移設の是非がこれまで以上に明確な争点となった市長選を反対派が制したことに対し、政府は真摯(しんし)に耳を傾ける責任がある。

選挙戦で末松氏は、再編交付金を活用した経済振興や住民サービスの向上を強調した。再編交付金とは、米軍再編で新たな基地負担を受け入れる自治体に対し、政府が進み具合に応じて交付金を出す制度だ。名護市は稲嶺市政の4年間で計約40億円分の交付を凍結されている。

稲嶺氏は、再編交付金は政府が新基地を受け入れさせるために一時的に支払うカネだと批判し、子どもたちの未来のために辺野古の海にも陸にも新基地は造らせないと訴えた。

選挙戦では、県外移設の公約に矛盾する辺野古移設を承認した仲井真知事への批判も多く聞かれた。知事は昨年末、政府が21年度まで毎年3000億円台の沖縄振興予算を確保する方針や基地負担軽減策を示したことを評価して辺野古埋め立てを承認した。県議会は「米軍基地と振興策を進んで取引するような姿が全国に発信されたことは屈辱的」との知事辞任要求決議を可決した。

政府が振興予算を大盤振る舞いしたにもかかわらず、反対派が勝利したことは、振興策と引き換えに基地受け入れを迫る手法がもはや通用しなくなったことを示している。

読売新聞 2014年01月20日

名護市長再選 普天間移設は着実に進めたい

選挙結果にとらわれずに、政府は、米軍普天間飛行場の辺野古移設を着実に進めるべきだ。

沖縄県名護市長選で、辺野古移設に反対する現職の稲嶺進市長が、移設の推進を訴えた新人の末松文信・前県議を破って、再選された。

1998年以降の5回の市長選で、最初の3回は容認派が勝利し、前回以降は反対派が当選した。民主党政権が無責任に「県外移設」を掲げ、地元の期待をあおった結果、保守層にも辺野古移設の反対論が増えたことが要因だろう。

公明党は、党本部が移設を支持しているのに、県本部は「県外移設」を崩さず、市長選を自主投票にした。党本部がこの方針を“黙認”したのは、移設を推進する与党として問題だった。

末松氏は、政府や沖縄県との連携を強化し、名護市の地域振興に力を入れる方針を前面に掲げた。だが、同じ容認派の前市長との候補一本化に時間を要するなど、出遅れが響き、及ばなかった。

昨年末に仲井真弘多知事が公有水面埋め立てを承認したことにより、辺野古移設を進める方向性は既に、定まっている。

そもそも、在沖縄海兵隊の輸送任務を担う普天間飛行場の重要な機能を維持することは、日米同盟や日本全体の安全保障にかかわる問題だ。一地方選の結果で左右されるべきものではない。

仲井真知事が市長選前に承認を決断したことは、そうした事態を避けるうえで、適切だった。

名護市長には、代替施設の建設工事に伴う資材置き場の設置などの許可権限があり、工事をある程度遅らせることは可能だろう。ただ、権限は限定的で、辺野古移設の中止にまでは及ばない。

稲嶺市長は、末松氏が集めた票の重みも踏まえて、市長の権限を乱用し、工事を妨害する行為は自制してもらいたい。

政府は今後、在日米軍の抑止力の維持と沖縄の基地負担の軽減を両立させるため、沖縄県と緊密に協力し、建設工事を加速させることが肝要である。

工事が遅れれば、市街地の中央に位置する普天間飛行場の危険な状況が、より長く続く。在沖縄海兵隊のグアム移転や県南部の米軍基地の返還といった基地負担の軽減策も遅れるだろう。

仲井真知事らが求める工事の期間短縮や、円滑な実施には、地元関係者の協力が欠かせない。政府は、辺野古移設の意義を粘り強く関係者に説明し、理解を広げる努力を続ける必要がある。

産経新聞 2014年01月20日

名護市長選 辺野古移設ひるまず進め

米軍普天間飛行場の移設問題を争点とした沖縄県名護市長選で、移設に反対する現職の稲嶺進市長が再選された。

稲嶺氏は市長の権限を盾にとって名護市の辺野古沿岸部への移設工事を阻止する考えを示している。だが、移設が滞り、日米同盟の抑止力に深刻な影響を与える事態を招くことは許されない。

仲井真弘多(なかいま・ひろかず)知事は昨年末、辺野古沿岸部の埋め立て申請を苦渋の判断の末に承認した。この流れを止めてはならない。市長選は移設にとって厳しい結果となったが、政府は名護市にいっそうの理解を求める努力を重ね、移設進展に全力を挙げるべきだ。

政府は知事の承認を受け、今年は埋め立てのための測量調査や普天間の代替施設の設計を進める予定だ。移設実現までには、基地の燃料タンク設置や河川切り替えの許可や協議など、名護市長がかかわる権限が約10項目ある。

稲嶺氏はこれを移設阻止に利用しようとしているのだろうが、これらは安全性確保が問題であって、政治目的のためにその趣旨を逸脱することは容認できない。

沖縄は国の守りの最前線に位置する。在日米軍の基地の再配置が円滑に進むかどうかは、抑止力のありようや同盟の安定性に重大なかかわりをもつ。辺野古移設は政府の責任で決定する問題であることを理解してもらいたい。

敗れた末松文信氏は、「国との対決構図を終わらせる」と移設推進の立場をとった。同じく推進派の元市長との候補一本化を経ての出馬でもあった。選挙結果は出たが、名護市民がけっして移設反対一辺倒ではなく、移設を町づくりに生かすべきだとの意見があることも稲嶺氏は考慮すべきだ。

移設が難航すれば、住宅密集地の上を米軍機が飛行する普天間の危険な状態の固定化を招くことも考えなければならないだろう。

もとより基地が集中する沖縄の負担軽減は政府の重大な責務だ。平成26年度予算案で沖縄振興費を充実させ、新型輸送機オスプレイ訓練の本土分散も進めている。

国は県と協力して、あくまでも名護市、市民に移設への理解と協力を働きかけ、一日も早く工事を開始してほしい。その際、妨害など違法行為には厳正に対処しなければならない。

混乱回避に市の責任が大きいことも忘れてはならない。

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