自民党の針路 「復古」の加速を危ぶむ

毎日新聞 2014年01月18日

自民党の針路 「復古」の加速を危ぶむ

自民党の定期党大会が19日開かれ、今年の運動方針を決める。憲法改正への全党的な取り組みや安倍晋三首相(党総裁)が掲げる外交路線への支援など「安倍カラー」が前面に出た内容だ。

参院選勝利で国会のねじれ解消を実現した自民党は「l強」状態にある。だが、さきの国会では野党を軽視した運営が目立ち、復古的な価値観が台頭する傾向ものぞく。政権の健全な抑え役としての役割を党が果たせるか、懸念は否めない。

党大会では総裁選のルールも国会議員数にかかわらず国会議員票と党員票を「同数」とするように改定する。国政選挙の結果で比重が左右されないよう、党員票重視をアピールする狙いがある。

運動方針案では衆院選や参院選の圧勝について「わが党への積極的支持があったものではない」と引き締めを図った。堅実な足腰強化を図る方向性は理解できる。

一方で目立つのは首相が目指す路線への傾斜だ。憲法は「時代に即した現実的な改正」に向けた運動を展開、外交は首相が唱える「積極的平和主義」の強力支援を明記した。靖国神社参拝をめぐっては前年の方針にあった「不戦の誓い」との表現を首相自ら参拝後に強調していたにもかかわらず、盛り込まなかった。

選挙勝利のおごりを戒めた方針案だが、さきの特定秘密保護法の成立強行は強引な数まかせだった。かつて長老議員らが担ったような政権のブレーキ役としての「重み」を党が失いつつある印象だ。

家族のあり方など価値観の多様化や変化に慎重な保守色の強まりもこのところ気になる。結婚していない男女間の子(婚外子)の遺産相続をめぐり法律上の夫婦の子(嫡出子)との差別を違憲とする最高裁判断にもかかわらず、民法改正の党内了承手続きは著しく難航した。改憲手続きである国民投票を18歳以上から認めることにも、強い慎重論が出た。

安倍内閣では社会の指導的な立場にある女性の比率を2020年までに3割以上とする「にぃまる・さんまる」運動を推進しており、運動方針案でも強調している。伝統的な家族観や復古的な議論が党内で加速していくと、こうした改革の方向とも衝突しかねないのではないか。

もちろん、ネット選挙運動解禁の主導や待機児童問題の重視など、野党を経た自民党の良い意味での変化を示したケースもある。女性の進出にしても現在、約1割に過ぎない同党国会議員に占める女性の割合を3割に増やすよう候補擁立を真剣に進めれば、本気度が伝わるというものだ。古い体質からの脱却にこそ、持てるエネルギーを注いでほしい。

産経新聞 2014年01月19日

自民党と憲法改正 掛け声倒れは許されない

自民党が平成26年運動方針案に「党是である憲法改正の実現に向けて、党全体として積極的に取り組む」と盛り込んだ。19日の党大会で採択される運びだ。

日本を取り巻く安全保障環境は厳しさを増す一方だ。平和で安全な日本を次世代に引き継ぐため9条をはじめとする憲法の改正は欠かせない。

自民党が憲法改正に積極姿勢をとることは評価できる。運動方針は党員、国民への約束であり、これを掛け声倒れに終わらせてはいけない。改正実現への具体的な道筋を示すことが必要だ。

自民党は昨年3月に採択した25年運動方針にも「党が先頭に立ち、自主憲法制定に向けた取り組みを加速させていく」と盛り込んだ。しかし実際に取り組みを加速させたとは、とてもいえない。

憲法改正の是非を決める国民投票を実施するためには、まず、国民投票法を改正しなくてはならない。だが、「投票権年齢の引き下げ」「公務員の政治的行為の範囲」「国民投票の対象」という3つの宿題は、解決されずに立ちはだかったままだ。

自民党は当初、昨秋の臨時国会での法改正を目指していた。ところが「18歳以上」への投票権年齢引き下げをめぐって党内の調整が難航し、改正案の国会提出も見送られた。

国民は、国民投票の権利を行使できない状態が続いている。

自公両党は昨年12月、改正法の施行後4年間は投票年齢を「20歳以上」とし、その後は「18歳以上」とすることで大筋合意した。野党の改憲勢力とも協議を進め、24日召集予定の通常国会に改正案を提出し、成立を目指してほしい。国会の場で議論を深めることを通じて憲法改正の機運を高める努力も求められる。

また自民党は昨年、「国防軍」創設を盛り込んだ同党の憲法改正草案を国民に理解してもらうため、全国で対話集会を開く方針を打ち出したが、実現していない。対話集会は26年運動方針案にも明記された。今年こそ実行し、国民に広く訴えるべきだ。

26年方針案では野党時代を振り返り、「政治が国民の期待を裏切り、信頼を失ったこと」を反省し「決められる政治」を進める決意も述べられている。「日本再生はわが党が担うという自負と気概」を行動で証明してほしい。

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