朝日新聞 2014年01月18日
自衛艦事故 なぜ繰り返されるのか
なぜ自衛艦をめぐる事故が絶えないのか。
海上自衛隊の輸送艦おおすみと小型釣り船が広島県沖で衝突した。釣り船は転覆し、船長と同乗の男性が死亡した。
千葉県沖でイージス艦あたごと漁船が衝突し、漁船の父子が行方不明になった事故の記憶はまだ生々しい。88年には潜水艦なだしおと釣り船が衝突し、30人が亡くなる惨事もあった。
08年のあたご事故では、海自の事後対応が問題視された。防衛相への報告が遅く、状況説明も二転三転した。
今回の事故では、発生の約20分後に防衛相に連絡が入った。一方、事故状況については「海上保安庁が捜査中」としてほとんど明らかにしていない。
あたご事故当時、防衛省が独自調査を先行させ、捜査妨害と批判されたことを強く意識しているとみられる。
捜査や運輸安全委員会の調査への配慮は必要ではあるが、国民を守るはずの自衛隊をめぐる事故に関心が高まるのは当然だ。特に、海自の再発防止策が機能していたかは、しっかり検証されなければならない。
釣り船に乗っていた男性は「一度追い越したおおすみが後方から再び接近し、避けきれなかった」と証言した。衝突直前、貨物船が両船の前を横切るのも見たという。
どちらの船に回避義務があったかはまだはっきりしない。ただ、おおすみの艦橋からは釣り船がぶつかった左舷側に死角があり、乗組員が直前まで接近に気づかなかった可能性もある。
小野寺防衛相は「おおすみ側に問題があるとの報告を受けていない」と言うが、防衛省としても徹底した原因究明を進めていくべきだ。
見張りの態勢はどうなっていたのか。釣り船をいつ発見し、どういう措置をとったか。客観的な事実関係については、すすんで公表してもらいたい。
あたご事故では、自衛艦側の責任をめぐって海難審判と刑事裁判で判断が割れた。「多くの船が行き交う海で、どう事故を防ぐのか」という肝心な課題は、未完のままである。
海自の主要艦艇が配置されている瀬戸内海や東京湾の混雑度は国内指折りで、レジャー船も多い。海自側が細心の注意を払うというだけでは、事故の根絶は難しい面もある。
自衛艦の航路や通過時刻をできるだけ周知し、民間側にもいっそう注意を求める必要があるだろう。海上保安庁や港湾管理者などと連携して、海の安全策をもっと練っていくべきだ。
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毎日新聞 2014年01月16日
海自艦衝突事故 原因の徹底究明を図れ
広島県大竹市沖の瀬戸内海で海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」と釣り船が衝突した。釣り船は転覆して乗っていた4人が海に投げ出され、船長が死亡、1人が意識不明の重体だという。海自艦の衝突事故はこれまでにも繰り返されている。原因の徹底した究明が必要だ。
おおすみは定期整備のため、呉基地から岡山県玉野市に向けて航行中だった。釣り船は広島市を出発して沖にある島に向かっていた。事故当時は晴れて視界は良く、波も穏やかだったという。
現場付近は多くの大型船や遊漁船が行き交う海域だ。小さな島が多く、海岸線が複雑に入り組んでいるため、潮の流れも速い。
衝突時の詳細な状況はまだよく分かっていないが、おおすみと釣り船は同じ方向に進んでいた。左側を航行していた釣り船をやり過ごそうとおおすみが減速した後、事故が発生したとみられる。
双方の回避行動が妥当だったかが焦点になる。釣り船から見れば、おおすみは長さで20倍以上もある巨体だ。衝突すればひとたまりもない。おおすみの見張りは十分なものだっただろうか。
海上保安庁による捜査と、国土交通省の運輸安全委員会による事故原因の調査が必要だ。乗組員の聴取のほか、船舶自動識別装置による航跡・速度の解析も重要となる。海自は捜査と調査に全面的に協力しなければならない。
海自の艦船が関係する事故は記憶に新しいものだけでも、神奈川県横須賀港沖で潜水艦「なだしお」と遊漁船「第1富士丸」が衝突し釣り客30人が死亡(1988年)▽千葉県野島崎沖でイージス艦「あたご」と小型マグロ漁船「清徳丸」が衝突し漁船の親子2人が死亡(2008年)▽関門海峡で護衛艦「くらま」と韓国船籍のコンテナ船が衝突し火災が発生(09年)−−などがある。
防衛省は、あたごの事故を受けて、報告・通報を含む見張り能力の向上と指揮の徹底をはじめとする再発防止策を打ち出している。今回の事故の原因究明を待たずに、再発防止策は末端まで浸透しているか、規律の緩みはないのかについて、改めてしっかりと検証する必要がある。
あたごの事故では、防衛省幹部による状況説明が二転三転し、国民の自衛隊不信を高めた。同様の事態を招くことがないよう、迅速な情報開示が求められる。
政府は事故直後、首相官邸の危機管理センターに官邸対策室を設置して対応に乗り出した。この機会に、首相と官房長官が先頭に立ち、自衛艦の安全航行と管理・指導体制の徹底を図るべきだろう。
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産経新聞 2014年01月18日
「おおすみ」事故 海の安全には何が必要か
また痛ましい海の事故が起きた。広島県大竹市沖の瀬戸内海で海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」と釣り船が衝突し、釣り船の船長と乗客の2人が亡くなった。
海自艦の衝突事故は過去にも繰り返された。事故の再発を防ぐため、防衛省は海上保安庁の捜査に全面協力し、再発防止に全力を尽くしてほしい。同時にすべての船舶に海上交通のルールとマナーの徹底を求めたい。
「おおすみ」は全長178メートル、基準排水量8900トンで、衝突した釣り船は7・6メートル、約1トンだった。これだけ大きさに差のある船舶同士の衝突では、釣り船はひとたまりもなかったろう。
「おおすみ」は呉基地を、釣り船は広島市を出港し、ともに南向きに航行していた。2船が同方向に航行している場合、海上衝突予防法は「追越し船は、追い越される船舶を確実に追い越し、かつ、その船舶から十分に遠ざかるまでその船舶の進路を避けなければならない」として、追い越す側に衝突の回避を義務づけている。
「おおすみ」と釣り船のどちらが追い越す側にあったか、両船の航跡記録や関係者の証言を慎重に精査しなくてはならない。
また、いずれに回避義務があったとしても、両船に、衝突を防ぐため最大限の努力が必要だったことは当然である。
「おおすみ」は衝突前、汽笛を短く5回鳴らしたとの証言もある。予防法は「他の船舶が衝突を避けるために十分な動作をとっていることについて疑いがあるとき」は直ちに汽笛を短音で5回以上鳴らすことを求めている。「おおすみ」の警告が適切だったかどうかについても検証が必要だ。
予防法とは別に、海上で守るべき交通ルールもある。海保はホームページの東京湾航行案内に「巨大船は、操縦性能が悪い(すぐ曲がらない、すぐ止まれない)ので、これらの大型船には航路航行の優先権があります。小型船は、大型船の進路を妨げないようにしましょう」と記している。
同じページでは「海保からのお願い」として、ライフジャケットの常時着用も呼びかけている。釣り船の船長と乗客がせめて救命胴衣を着用していれば、最悪の事態は避けられたかもしれない。
日本は、四方を海に囲まれている。海と付き合うための基本を、皆で再確認したい。
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