未遂に終わったとは言え、航空機テロの脅威を痛感させた事件だ。
オランダのアムステルダムから米デトロイトに向かっていたノースウエスト航空機内で、男が、下着に縫いつけて持ち込んだ少量の爆薬に火をつけ、取り押さえられた。
容疑者の23歳のナイジェリア人は、国際テロ組織アル・カーイダからの指示で、イエメンで爆発物を受け取ったと供述した。イエメンを拠点とするアル・カーイダ系の組織が犯行声明を出した。
新たな航空機テロが続く恐れもある。各国が連携し、改めて警戒を強化する必要がある。
アル・カーイダは、8年前の米同時テロで世界を震撼させたイスラム過激派組織だ。米国の攻撃で拠点のアフガニスタンから追われた後も、組織の幹部はパキスタン北西部に潜伏し、欧米などへの攻撃を呼びかけている。
イエメンにもアル・カーイダが浸透し、事件の前日には、イエメン軍がアル・カーイダ系武装勢力の拠点を空爆したばかりだ。
容疑者が機内に持ち込んだのは高性能爆薬PETNと、PETNと混ぜるための酸性の液体を入れた注射器などとされる。
米同時テロの約3か月後に、同様の物質を靴底に仕掛けたアル・カーイダのテロリストが、パリから米マイアミに向かうアメリカン航空機内で点火を試み、爆破テロ未遂で逮捕されている。手法に似た点もある。
米捜査当局は、イエメン側の協力も得て、供述内容の裏付けなど全容解明を進めてもらいたい。
容疑者は昨年までロンドンの大学の工学部で学んでいた。ナイジェリアの大手銀行のトップだった父親は、息子の過激な言動を懸念して米大使館に相談していた。
イスラム圏の富裕層の子供が欧米に留学中、イスラム過激派に洗脳された事例の一つだろう。
米政府は、容疑者を、テロ関連データベースに登録していたという。それなのに、なぜ、米国行きの飛行機に何のチェックも受けずに乗り込めたのか。
せっかくの情報も、活用されないのでは意味がない。オバマ大統領が、運用の再検討を指示したのも当然である。
容疑者の最初の搭乗地ナイジェリアの空港と、乗り換えたオランダの空港の保安態勢も甘かった。なぜ爆発物を発見できなかったのか、厳しく再点検すべきだ。
国内の各空港で、米国便の乗客への保安検査が厳格になった。テロ防止には、やむを得ない。
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