米機テロ未遂 悪夢の再現を防ぐには

朝日新聞 2009年12月30日

米機テロ未遂 悪夢の再現を防ぐには

実際に爆発していたら、と思うとぞっとする。

米国デトロイトの上空で、米航空会社の旅客機を爆破しようとした男が機内で捕まった。イエメンに本拠をおく「アラビア半島のアルカイダ」と名乗る組織が、犯行への関与を認める声明を出した。

9・11同時多発テロから8年、米国内では大規模テロは起きていなかった。国際テロ組織アルカイダが今回の事件にどう関与していたのかははっきりしないが、あの悪夢を思い浮かべた人は少なくなかったろう。

米メディアによると、容疑者はナイジェリア国籍の若者で、イエメンで最新の高性能爆発物を受け取り、下着に仕込んで米機に搭乗したが、起爆に失敗した。米国の人口密集地の上空で米機を爆破するよう指示された、と米国の捜査当局に供述しているという。

犯行声明は、米国がイエメン政府と進めているアルカイダ掃討作戦への「報復」だと主張し、米国民へのさらなる攻撃も予告している。

旅客機を破壊できるような爆発物が、空港の検査をすり抜けて機内に持ち込まれていたことは衝撃だ。それが組織的なテロの一環だったとなれば、事態は一段と深刻になる。従来の安全対策を総点検し、どこに問題があったのかを調べ、穴をふさがなくてはならない。

休暇中だったオバマ米大統領は声明を出し、「あらゆる手段を使って、米国を脅かす暴力的過激主義の粉砕、解体、壊滅を目指す」と述べた。

憤りは当然だし、標的にされている米国民の不安は想像にあまりある。だが、過剰反応は相手の思うつぼではないか。恐怖心をあおって社会不安を起こすことがテロリストの狙いである。

テロと報復の連鎖に陥らないよう、冷静に対応すべきだ。軍事力を過信したブッシュ前政権の「対テロ戦争」の過ちを繰り返してはならない。

徹底的な捜査と、空港の安全対策などの見直しが先決である。テロに関する国際的な情報交換や当局間の連携も大切だ。

容疑者の父親は、過激主義に染まった息子の行動を心配して、事件前からナイジェリアの米大使館に相談していたという。人権に配慮しつつも、こうした情報の生かし方を改めて考える必要があるだろう。

「アラビア半島のアルカイダ」は、隣国サウジアラビアなどから逃れた過激派たちが結成したと見られている。内戦が続くイエメンのように、政府による統治が十分機能しない地域が「テロリストの聖域」になっていく。

過激主義を生む土壌をなくすのは容易なことではない。テロにつながる小さな動きにも、国際社会が目を光らせていかなくてはならない。

読売新聞 2009年12月31日

米機テロ未遂 全容解明と再発防止に努めよ

未遂に終わったとは言え、航空機テロの脅威を痛感させた事件だ。

オランダのアムステルダムから米デトロイトに向かっていたノースウエスト航空機内で、男が、下着に縫いつけて持ち込んだ少量の爆薬に火をつけ、取り押さえられた。

容疑者の23歳のナイジェリア人は、国際テロ組織アル・カーイダからの指示で、イエメンで爆発物を受け取ったと供述した。イエメンを拠点とするアル・カーイダ系の組織が犯行声明を出した。

新たな航空機テロが続く恐れもある。各国が連携し、改めて警戒を強化する必要がある。

アル・カーイダは、8年前の米同時テロで世界を震撼(しんかん)させたイスラム過激派組織だ。米国の攻撃で拠点のアフガニスタンから追われた後も、組織の幹部はパキスタン北西部に潜伏し、欧米などへの攻撃を呼びかけている。

イエメンにもアル・カーイダが浸透し、事件の前日には、イエメン軍がアル・カーイダ系武装勢力の拠点を空爆したばかりだ。

容疑者が機内に持ち込んだのは高性能爆薬PETNと、PETNと混ぜるための酸性の液体を入れた注射器などとされる。

米同時テロの約3か月後に、同様の物質を靴底に仕掛けたアル・カーイダのテロリストが、パリから米マイアミに向かうアメリカン航空機内で点火を試み、爆破テロ未遂で逮捕されている。手法に似た点もある。

米捜査当局は、イエメン側の協力も得て、供述内容の裏付けなど全容解明を進めてもらいたい。

容疑者は昨年までロンドンの大学の工学部で学んでいた。ナイジェリアの大手銀行のトップだった父親は、息子の過激な言動を懸念して米大使館に相談していた。

イスラム圏の富裕層の子供が欧米に留学中、イスラム過激派に洗脳された事例の一つだろう。

米政府は、容疑者を、テロ関連データベースに登録していたという。それなのに、なぜ、米国行きの飛行機に何のチェックも受けずに乗り込めたのか。

せっかくの情報も、活用されないのでは意味がない。オバマ大統領が、運用の再検討を指示したのも当然である。

容疑者の最初の搭乗地ナイジェリアの空港と、乗り換えたオランダの空港の保安態勢も甘かった。なぜ爆発物を発見できなかったのか、厳しく再点検すべきだ。

国内の各空港で、米国便の乗客への保安検査が厳格になった。テロ防止には、やむを得ない。

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