オウム公判再開 事件の背景を探る場に

朝日新聞 2014年01月17日

オウム裁判 あの闇を問い直すとき

数々の異常な犯罪に暴走した集団は、社会のどんなひずみから生まれたのか。あらためて、考える機会にしたい。

オウム真理教による事件で、3人の逃亡犯の1人、平田信(まこと)被告の裁判が、きのう始まった。約2年前、いったん幕引きされた一連の裁判の再開である。

代表だった松本智津夫死刑囚の起訴から19年。すでに189人が裁判を終えた。だが、いまに至るも、解明された部分より、未解明の部分の方がはるかに大きい。

新たな被告3人については、市民が参加する裁判員裁判となる。オウムの一連の事件では初めてで、今回は補充も含め10人が任務を引き受けた。

宗教活動に心のよりどころを求めたはずの若者たちが、いかに犯罪行為にかかわっていったのか。

オウムによる事件全体のごく一部ではあるが、市民の視点を加えて裁く意義は大きい。

平田被告は、脱会しようとした信徒の兄の拉致や爆破事件などに関与したとして起訴された。逃亡生活は17年に及んだ。

この間、社会の一隅に身を置きながら、事件をどう省み、何を考えていたのか。初公判で謝罪を口にしたが、それが本心なら、真実を語るしかない。

平田被告の裁判には、死刑囚3人を含む元教団幹部らが出廷する。関係者は全員、当時の実相を率直に明かすべきだ。

刑事裁判は、証拠と法で個人の刑事責任を判断する場であり、事件の社会背景をつかむこと自体を目的とはしていない。

だとしても、この機に再び、教団組織が犯罪集団へと変容していったさまを見つめ直すことは、同じようなことを起こさない助けになるはずだ。

本来なら松本元代表こそ証言すべきだろう。しかし本人は拘置所で意思疎通も困難で、出廷の見込みはないという。

どれほど歳月を経ようとも、「オウム現象」の究明は重い問いとして残り続ける。

一教団が生物・化学兵器を開発して軍事化を進める。指導者の命じるまま拉致や殺人までも正当化する。その果てには、地下鉄サリン事件という未曽有のテロも引き起こした。

いまの若者世代には荒唐無稽とさえ思えることが実際にあった。日本がバブル景気に沸き、世界が冷戦の終わりを迎えたころ、この集団は肥大化した。

あれから多くが変わったいまでは、そんな現象は起こりえない、と言い切れるだろうか。

そう断言できないところに、オウム事件の闇がある。

毎日新聞 2014年01月17日

オウム公判再開 事件の背景を探る場に

元オウム真理教幹部、平田信被告の裁判員裁判が東京地裁で始まった。平田被告は、公証役場事務長だった仮谷清志さんを拉致した逮捕監禁罪など三つの罪で起訴された。

一連のオウム裁判では初めての裁判員裁判である。また、仮谷さんの遺族が被害者参加人として法廷に立ち、意見陳述をしたり、被告に直接質問したりする予定だ。

元教団代表の松本智津夫(麻原彰晃)死刑囚を含め13人に死刑が言い渡された一連の事件がなぜ起きたのか。市民の視点から、一連の事件の背景を探る場にしてほしい。検察や弁護人は、分かりやすい立証活動を心がけてもらいたい。

平田被告は初公判で、仮谷さんの遺族に対して謝罪の言葉を述べた。一方、逮捕監禁罪については「見張り役をしたが、その後のことは知りません」と、起訴内容の一部を否認し、ほう助にとどまると主張した。

平田被告は約17年の逃亡生活の末、2011年12月31日に警視庁に出頭し、逮捕された。なぜ、突然、出頭したのか。

その前月にオウム裁判が終結していた。共犯者の裁判が進行中、死刑の執行は行われないとされる。このため、松本死刑囚の早期の死刑執行を免れる意図の出頭ではと、取りざたされた。こうした点を含め、公判で真相が解明される必要がある。

平田被告の公判でもう一つ注目されるのは、仮谷さんの事件をめぐり、確定死刑囚3人が今月から来月にかけて証人として法廷に立つことだ。中川智正、井上嘉浩、林(小池に改姓)泰男の各死刑囚だ。3人は地下鉄サリン事件でも有罪が認定された元教団幹部である。

法務省や警視庁などは、奪還や逃亡などに備え、厳重な警備態勢をとる予定だ。裁判所も含め、裁判遂行に万全を期さなければならない。

無差別大量殺人を行ったオウム真理教は、事件後にアレフとひかりの輪の2団体に分かれ、いずれも団体規制法に基づく観察処分の対象だ。公安調査庁は、松本死刑囚に依然、帰依しているとして、定期的に立ち入り検査をしている。

そうした団体の元幹部を裁くのは、裁判員にとって相当のプレッシャーだろう。3月に予定される判決まで、公判は20回以上開かれ、期間も長期にわたる。裁判員の安全確保、さらに精神的なケアへの裁判所の目配りは不可欠だ。

平田被告と同様に逃亡を続け特別手配されていた菊地直子、高橋克也両被告も一昨年、相次ぎ逮捕された。高橋被告はその後、地下鉄サリン事件で殺人罪で起訴された。3被告の公判を通じ、新たな角度から事件の真相に光を当てたい。

読売新聞 2014年01月17日

オウム公判再開 裁判員は事件をどう裁くか

社会に大きな衝撃を与えたオウム真理教の事件が、初めて裁判員によって裁かれる。公判の行方を注視したい。

17年に及ぶ逃亡生活の末に出頭し、逮捕された元教団幹部・平田信被告の裁判員裁判が東京地裁で始まった。

教祖の松本智津夫死刑囚ら13人の死刑が確定し、2011年にいったん終結していたオウム公判の再開である。

平田被告は、目黒公証役場事務長の仮谷清志さん拉致事件や都内のマンションでの爆発事件などへの関与を問われ、逮捕監禁罪や爆発物取締罰則違反などで起訴された。いずれも1995年3月の地下鉄サリン事件直前に起きた。

平田被告は初公判で被害者と遺族に謝罪したが、起訴内容の一部を否認した。テロ集団と化して凶行を重ねた教団の実態が、公判でどこまで解明されるだろうか。

焦点の一つは、元教団幹部の死刑囚の証人尋問である。

検察は、現場の指揮役を務めた井上嘉浩死刑囚ら3人を尋問し、犯行に至る経緯を立証する方針だ。死刑囚らは証言に応じる姿勢を示しており、何らかの新事実が明らかになる可能性もある。

公開の法廷における死刑囚の尋問は極めて異例だ。

裁判所は不測の事態に備えて、法廷の傍聴席前に防弾性のアクリル板を設置する。死刑囚の精神状態を安定させるため、証言台の周囲には遮蔽板を立てる。

法廷で混乱が生じるようなことがあってはならない。万全の態勢で臨んでもらいたい。

薬物を大量投与された後に死亡した仮谷さんの遺族が、被害者参加制度を利用して、裁判に参加している。2008年から導入されたこの制度では、被害者・遺族が法廷で被告に対し、直接質問することができる。

遺族は真相解明に期待をかけている。平田被告は初公判で「見張りをしただけで、拉致するという認識はなかった」と述べた。裁判員の事実認定が注目される。

公判は週3~4回のペースで進み、判決は3月上旬の予定だ。裁判員にとって、約2か月に及ぶ長期審理の負担は小さくない。

しかも、凶悪テロを引き起こした教団を巡る裁判だ。地裁が裁判員候補者として400人を選んだものの、辞退希望者が相次いだ。裁判に関わることへの不安が背景にあったのだろう。

重圧のかかる審理だけに、裁判員の体調への配慮など、裁判官のきめ細かなサポートが必要だ。

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