東京電力福島第一原子力発電所の事故収束と復興加速のため、東電再建策を「絵に描いた餅」にしてはならない。
政府が、東電の経営再建を目指す新たな「総合特別事業計画」を認定した。
2012年5月の当初計画で想定した東電柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働のメドが立たず、収支計画の抜本的な見直しや合理化策の上積みを迫られた。
新計画は、柏崎刈羽原発7基のうち4基を14年度中に再稼働することを前提とした。原発1基の稼働で火力発電の燃料費が1000億円以上減り、1000億円規模の黒字を確保できる見込みだ。
政府が昨年末に、除染関連の費用を一部負担する追加支援策を決めたことも好材料である。
経営が軌道に乗れば、国は保有する東電株を30年代前半までにすべて売却し、売却益を除染費用に充てる方針だ。
ところが、新事業計画は出足からつまずく懸念が拭えない。
新潟県の泉田裕彦知事が柏崎刈羽原発の再稼働について「福島の事故検証が先」などと、否定的な姿勢を崩していないからだ。
原子力規制委員会はあくまで国の規制基準に基づいて、審査を遅滞なく進めなくてはならない。
事業計画の実現には、安全性を確認できた原発の着実な再稼働が不可欠である。
柏崎刈羽原発は首都圏の電力供給を担う重要電源だ。東京都をはじめ電力消費地の首長は、地域経済と住民生活の安定を図るため、原発再稼働への理解を泉田知事らに求める立場であることを、自覚する必要がある。
都知事選の候補予定者が、現実的な代替電源も示さずに脱原発を唱えるなら、あまりに無責任だ。
東電は今後10年の経費節減の目標を、当初計画の3・4兆円から4・8兆円に増額した。希望退職を2000人規模で募り、震災時に50歳以上だった500人の管理職は役職を外して福島専任とし、賠償業務などにあたらせる。
収益力の向上へ、東電のリストラは大切だ。しかし、社員の士気が下がれば肝心の廃炉や賠償などの業務に支障が出かねない。
新計画は16年度に東電が持ち株会社制に移行する方針も示した。事業ごとに別会社にして、責任を明確化する狙いはわかる。
ただ、電力安定供給の回復や汚染水対策など重要課題を抱える時期の分社化は疑問だ。当面は、適材適所の人事配置をしやすい現体制を維持すべきである。
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