タイ政治危機 まず選挙を受け入れよ

毎日新聞 2014年01月15日

タイ政治危機 まず選挙を受け入れよ

タイで政治混乱が深まっている。反政府デモの広がりを受け、インラック首相は議会を解散して総選挙を行うと発表したが、デモ隊は首相追放を訴えて首都バンコク中心部の主要交差点を占拠し続けている。

経済や市民生活にも大きな影響が出ている。このままでは政治危機がさらに深刻化し、国家の信用低下も避けられない。反政府派は総選挙を受け入れ、民主国家の基本的ルールに立ち返るべきだろう。

今回の混乱は、政権が昨年、インラック氏の兄であるタクシン元首相が海外亡命から帰国できるよう、恩赦法案を通過させようとしたことがきっかけだった。法案は11月に上院で否決されたが、反政府派は「首相は腐敗したタクシン氏の操り人形だ」と政権打倒に乗り出した。

首相は先月、下院を解散し、選挙で国民の信を問うと発表した。総選挙は2月2日の予定だが、最大野党の民主党はボイコットを表明した。また、デモ隊の妨害で一部選挙区の立候補受け付けができなかった。憲法では国会招集には定数の95%の当選承認が必要で、このまま選挙をしても定数不足で国会が成立しない。

反政府派が総選挙を受け入れないのは、地方に強い地盤を持つタクシン派が優位で、選挙で勝つ見通しがないからだ。反政府派は「選挙になれば、タクシン派が金をばらまくだけだ」と主張するが、強引な抗議行動で政権打倒を目指すのは穏当なやり方とは言えない。

長引く政治対立は、タクシン政権を崩壊させた2006年の軍事クーデターに端を発している。以来、タクシン派と反タクシン派が交互に、国際空港占拠や首都の繁華街占拠など過激な街頭行動を繰り返し、多数の死傷者が出ている。

両派の対立の根底には権力闘争がある。伝統的支配層による経済支配を崩そうとしたタクシン氏の政治手法に対し、軍や財閥などが反発し、権力回復を図った。双方の確執は国民を巻き込み、タクシン時代に恩恵を受けた農村住民や貧困層と、既得権益層である官僚や都市部エリートなどとの不和につながっている。

しかし政権交代の度に、両派が攻守所を変えて反政府行動を繰り返せば、政治の安定はおぼつかない。今回のデモ隊の行動には、政治危機を長引かせて軍の介入を招こうとの思惑もうかがえるが、クーデターなど力による政権転覆が許される時代ではない。

タイは日本企業の重要な投資先であり、年間100万人以上の日本人観光客が訪れるなど、日本とも関係の深い国だ。バンコクの日本人学校が臨時休校したり、企業活動にも影響が出たりするなど、日本にとってもひとごとではない。

読売新聞 2014年01月16日

タイ反政府デモ 選挙実現へ混乱収拾が急務だ

党派対立の激化によりタイの混乱が長期化している。総選挙の実現に向け、混乱収拾の道を模索することが望まれる。

首都バンコクでは2か月以上にわたり、タクシン元首相の妹、インラック首相の辞任を求める反タクシン派のデモが頻発している。

デモ隊は13日から、主要交差点や官庁前道路などを占拠し、都市機能の一部が麻痺(まひ)する事態となった。インラック政権は、強制排除を控えている。警官隊とデモ隊の衝突を恐れているのだろう。

デモの発端は、タクシン派与党のタイ貢献党が、汚職罪で実刑判決を受けて国外に逃れているタクシン氏の帰国に道を開く恩赦法を成立させようとしたことだ。強引な姿勢が、最大野党・民主党など反タクシン派の反発を招いた。

首相は混乱を収拾しようと、下院を解散し、2月2日投票の総選挙実施に打って出た。これに対し、反タクシン派は、選挙受け入れを拒否し、首相の辞任と、選挙を経ない各界代表による暫定統治への移行を要求した。

弱者対策に力を入れてきたタクシン派政党は、人口が多い貧困層や農村で圧倒的に支持されており、近年の総選挙で連勝中だ。反タクシン派は、選挙では勝ち目がないと判断したとみられる。

勝算が乏しいことを理由に、選挙を拒否し、秩序を乱す行動で主張を通そうとするのは、民主的手続きを無視した利己的な態度と言わざるを得ない。選挙を受け入れるのが筋である。

ただ、予定通りに選挙を実施するのは、もはや困難に見える。

反タクシン派の妨害によって、多くの選挙区で候補者が不在となったため、選挙を強行しても、憲法規定上、下院の招集に必要な議員数がそろわない。

選挙管理委員会は、インラック首相に対して、選挙の日程を延期するよう求めている。

反タクシン派内には、軍の介入を望む声もあるという。たとえ、そうした手段で政権を倒しても、タクシン派からの報復を招くだけではないか。

混乱は、経済にも影響を及ぼしつつある。

一部日本企業は、現地法人ビルの閉鎖などの措置をとった。大規模投資計画に対する政府の承認手続きも停止しているという。

タイは、日本など海外からの投資で成長し、「東南アジア諸国連合(ASEAN)の優等生」と呼ばれてきた。その国際的な信用が揺らぎ始めている。

産経新聞 2014年01月16日

バンコク騒然 対話で「微笑み」取り戻せ

タイの反政権デモ隊が総選挙阻止を叫んで「首都封鎖」を強行し、主要交差点などの占拠を続けている。国家機能のマヒも懸念される事態だ。

度を越した抗議行動と言わざるを得ない。政権側と反政権側は、話し合いによって対立を乗り越え、タイの民主主義を一歩前に進めるべきだ。

対立は、2006年にクーデターでタクシン元首相が放逐されたことに起因する。デモ隊の反タクシン派は軍を含む旧来のエリート層を代表しているのに対し、タクシン派は農村や都市の貧困層を中心とする新興の政治勢力だ。

元首相の妹、インラック首相は昨年、「国民和解」を掲げて恩赦法案を上程した。元首相の復権につながるものであり、それが今回の混乱を招いた面は否めない。

反タクシン派の激しい反発を受けて、インラック首相は下院解散・総選挙実施を表明した。

奇妙なのは、首相退陣を求める反タクシン派が、その総選挙に待ったをかけている点だ。今選挙をしてもばらまき政策のタクシン派には勝てないから、政治改革をした上で選挙を行えという。

そんな理屈は通らない。選挙を通じて政権交代を実現するのが、民主主義の鉄則だろう。

問題は、抗議行動を主導するステープ元副首相が一切の妥協を拒んでいることだ。主張が通るまで封鎖は解かないとしている。

軍の介入を期待しているのなら思い違いも甚だしい。双方が今なすべきは、対話のテーブルにつき事態打開の糸口を探ることだ。そのためにも、暴力が広がることは絶対に避けてもらいたい。

タイでは06年以降、野党に回った側が政権打倒を叫んで抗議行動を繰り広げ、多数の死傷者を出す負の連鎖が続いている。経済や社会生活に支障を来し、国の国際的信用度も落としてきた。

権力を取った側が、自らの支持基盤だけでなく国民全体のための政治を行う精神に乏しかったからではないか。そんな分断状況を克服し、不毛な権力闘争には終止符を打たなければならない。

タイは東南アジア諸国連合(ASEAN)の中核国で、本来、長く軍政下にあったミャンマーなど周辺国にとり民主主義の手本にならなくてはならない存在だ。

政権側、反政権側とも和解に動き、観光立国タイの惹句(じゃっく)「微笑(ほほえ)みの国」を取り戻してほしい。

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