財界トップに課せられる責任は重い。
日本経済の主役である企業をしっかり束ね、本格成長の実現に貢献しなければならない。
経団連の米倉弘昌会長の後任に、元経団連副会長で東レ会長の榊原定征氏が内定した。6月に就任する。人選は難航し、経団連の役職を離れたOBから初めての会長起用となる。
米倉会長は、「イノベーション(技術革新)を最も重視する経営者で、次期会長にふさわしい」と述べた。製造業の出身者にこだわった米倉会長の意向が強く働いたと言えよう。
榊原氏は記者団に「日本経済再生に全身全霊で頑張りたい」と語った。守勢に立つ日本産業の活性化へ、先頭に立ってほしい。
東レの社長時代、榊原氏は航空機などに使う炭素繊維の事業を世界トップのシェア(占有率)に押し上げ、新素材のグローバル企業へと再生させた。
ただ、東芝やトヨタ自動車など経団連会長を輩出する常連企業に比べ、東レの企業規模が“小粒”である点は否めない。
すそ野の広い産業界に目配りして、全体の利益を考えた財界運営を心がけるべきだろう。
榊原氏は安倍政権の産業競争力会議で民間議員を務め、技術革新などで積極的に提案する論客としても知られる。経団連の政策提言の充実が求められる。
米倉会長が安倍首相の経済政策を批判し、経団連と政権の関係は当初、ぎくしゃくした。榊原氏は首相とのパイプを生かし、関係改善に努める必要がある。
資源の乏しい日本では、引き続き輸出が成長のエンジンだが、製造業が国内経済に占める比率が低下しているのも事実である。
情報通信やサービスなど、内需型産業の生産性向上が、持続的な成長実現のカギとなる。医療や介護など、少子高齢化時代に即したサービス産業の発展も重要だ。
安倍政権の成長戦略では、既存の産業に恩恵のある規制や税制優遇を見直すことが大きな課題である。経団連は政府と連携し、新たなビジネスの育成に積極的に取り組んでもらいたい。
製造業を中心とした産業振興を担ってきた経団連自身が変わらないと、その存在意義が厳しく問われるに違いない。
榊原氏は、東レ社員に危機感と意識改革の重要性を唱え、経営を推進してきた。今度は財界を変革させるため、リーダーシップを発揮する番である。
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