データ改竄により、医薬品の効能に対する信頼は著しく損なわれた。
刑事告発は当然の対応と言えよう。
高血圧治療薬「ディオバン」の臨床研究データ改竄問題で、厚生労働省は、販売元のノバルティスファーマ社を薬事法違反(虚偽・誇大広告)の疑いで東京地検に告発した。
誰がデータを不正に操作したのか。この問題では肝心な点が分かっていない。地検の捜査による全容解明を求めたい。
ディオバンの効果を調べるための臨床研究は5大学で行われた。このうち、京都府立医大と慈恵医大では、脳卒中などのリスクが大幅に下がるとの結果が出た。
ところが、鍵となる発症者数や血圧のデータ改竄が判明した。
データを解析したノバ社の社員(退職済み)は、大学や厚労省検討会の調査で改竄を否定した。強制力のない調査の限界だろう。
ノバ社は、慈恵医大などの論文を利用し、医学誌や医師向けの講演会で宣伝を展開した。年間約9000億円の降圧剤市場の中で、ディオバンの売り上げは年間1000億円に上った。
根拠のないデータで薬を宣伝した企業の責任は極めて重い。
宣伝を真に受けて、安価な既存薬の代わりにディオバンを処方した医師も多いとみられる。薬剤費は、保険料や国庫から拠出されている。医療保険財政に悪影響も及んだのではないか。
研究を行った大学は、刑事告発の対象にはならないが、改竄データに基づく論文を発表した責任は免れない。統計解析に関する自前の専門家がおらず、元社員に丸投げしていたからだ。
5大学の研究室には、ノバ社から計11億円超の寄付金が支払われていた。研究がゆがめられたことと関係はないのか、徹底的に解明してもらいたい。
医学会にも問題は多い。
慈恵医大の論文に対しては、「ディオバンの効果が過大評価されやすい研究計画で、信用できない」という指摘もあった。それにもかかわらず、日本高血圧学会は、論文を診療指針に採用した。
診療指針の作成者や学会幹部にも、製薬業界から多額の資金提供を受けた医師がいる。
大学などが医薬品研究で企業と連携することは必要だ。だが、研究者が中立公正の立場を保てなければ、それは癒着にすぎない。
資金提供を受けた企業名の公開を徹底するなど、医学会は研究費の透明化に努める必要がある。真相は解明できるか
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