朝日新聞 2014年01月15日
東京都知事選 首都で原発を問う意義
「脱原発」を東京都民に問いたい。
細川護熙元首相がこう訴えて、2月9日の東京都知事選に立候補を表明した。
主な顔ぶれが固まり、原発政策が大きな争点となる。
都知事選で原発を問うことに違和感を示す向きがある。安倍首相も「エネルギー政策は東京都だけではなく、国民みんなの課題だ」と述べている。
たしかに国民全体が考えるべき問題ではある。だが同時に、都民が当事者として考えるにふさわしいテーマでもある。
人口1300万超の東京は、日本の電力の1割強を使う大消費地だ。なのに、主な供給源は遠隔地にある。原発の立地自治体や周辺が抱える様々な矛盾や葛藤とも無縁でいられる。
そんな東京で選挙を通じて議論が深まれば、都民の節電意識が高まったり、再生可能エネルギーの普及に弾みがついたりする可能性がある。大量生産、大量消費のライフスタイルの見直しにつながるかも知れない。
自分たちのありようを再考するという点で、自治体選挙で問うてならぬという法はない。
都は東京電力の大株主だ。知事は、東電の経営に物申すこともできる。
東京では一昨年、原発稼働の是非を問う住民投票の条例案が都議会で否決された。前回の知事選や都議選では、原発問題は五輪招致やアベノミクスの後景に退いた。
今回、エネルギー政策が正面から問われることには意義がある。出馬を表明した舛添要一元厚労相や宇都宮健児前日弁連会長らも「脱原発」を訴える。具体論を戦わせてほしい。
もっとも、気をつけなければならない点がある。
細川氏に支援を要請された小泉元首相は「この戦いは、原発ゼロでも日本が発展できるというグループと、原発なくしては発展できないというグループとの争いだ」と語った。
かつて、郵政民営化の一点だけを争点に衆院を解散した小泉氏らしい明快さではある。
だが、東京都には超高齢化への対応など、避けて通れない重要課題が多い。選挙を「原発にイエスかノーか」の一色に染め上げ、スローガンの争いにすることには賛成できない。
細川氏には20年前、東京佐川急便からの借入金問題を追及され、投げ出すかのように首相の座を降りた経緯がある。
カネの問題で猪瀬前知事が任期途中で辞任した後の選挙だ。自らのけじめも細川氏には問われるところである。
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毎日新聞 2014年01月15日
東京都知事選 原発も大きな争点だ
東京都知事選の構図が大きく動いた。脱原発を掲げる元首相、細川護熙氏(76)がエネルギー政策を争点に出馬を表明、「原発即時ゼロ」を主張する小泉純一郎元首相は全面支援を約束した。一方で元厚生労働相、舛添要一氏(65)も無所属での立候補を正式表明するなど激戦模様だ。
首都の顔を決める都知事選だけに、国政の大きなテーマである原発問題も主要な争点として、むしろ徹底論議すべきだ。多様な候補の出馬で有権者の関心が強まり、論戦全般が活発化することを期待したい。
都知事選は23日に告示、2月9日に投開票される。前日本弁護士連合会会長の宇都宮健児氏(67)、元航空幕僚長の田母神俊雄氏(65)らも無所属で出馬を表明している。
政界を引退していた細川氏はかねてエネルギー問題に関心を示していた。「原発問題は国の存亡に関わる」と出馬理由を述べたが、強力な発信力を持つ小泉氏との元首相連合が与える影響は小さくあるまい。
「首長選挙に原発問題はなじまない」。細川氏出馬をめぐり原発の争点化を批判する声が聞かれる。
だが、そうだろうか。首都のトップ選びは単純に「地方の選挙」と割り切れない。立地地域でなくとも、最大の電力消費地である東京で原発政策を問う意味は大きい。
福島第1原発事故の未曽有の被害にもかかわらず、国の針路に関わる原発政策が事故後の国政選挙で必ずしも十分に論じられなかった。自民、民主両党とも争点化に慎重だったためだ。原発稼働の是非を問う都民による投票も知事と議会の反対で実現しなかった。
今知事選では宇都宮氏も「原発のない社会」を掲げる。都は事故の当事者である東京電力の大株主でもある。小泉氏が指摘するように、選挙結果は国政の動向にも影響する。一極集中の象徴、東京だからこそ逆に争点化にふさわしいのだ。
細川氏に望むのはワンフレーズ的に脱原発を主張せず、電力供給や使用済み核燃料の最終処分問題などエネルギー政策の具体像を論じることだ。小泉氏が「東京が原発なしでやっていける姿を見せる」という主張の説得力が問われる。
一方で超高齢化への対応や首都防災などの争点の重要さも強調したい。75歳以上の高齢者が2025年に都内で約200万人に達し、マグニチュード7級の首都直下地震で最大2・3万人の犠牲者が想定される現実は重い。首都行政の担い手を決める以上、他の重要課題をおろそかにしてはならない。
揺れ動いた各党の対応もようやく固まってきた。首都像の議論を通じて日本が抱える課題を国民全体が考える機会としたい。
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読売新聞 2014年01月18日
東京都知事選 五輪返上論はどこまで本気か
電力の大消費地である東京で原発問題を議論するのは有意義だが、「脱原発」運動に選挙を利用するのは筋違いだ。
東京都知事選に出馬する意向を表明した細川護熙・元首相の動向が耳目を集めている。
細川氏は、「原発の問題は国の存亡に関わるという危機感を持っている」と強調し、脱原発を前面に掲げた。原発即時ゼロを唱える小泉元首相が支援する。
細川、小泉両氏は、いずれも首相時代、内閣支持率が高かった。かつての国民的人気をあてにした選挙戦術である。
ただ、都は東京電力の主要株主ではあるが、東電株の50・1%は原発再稼働を目指す政府の原子力損害賠償支援機構が保有する。細川氏が再稼働を阻止できるかのように主張するなら無責任だ。
看過できないのは、小泉氏が都知事選を、「原発ゼロでも日本は発展できるというグループと、原発なくして日本は発展できないというグループでの争いだ」と位置付けたことである。
産業や家計への影響、地球温暖化対策、エネルギーの安全保障といった複雑な要因を軽視し、原発ゼロか、推進か、と二者択一で問題を単純化すべきではない。
細川氏の正式な記者会見は、2度も延期されている。公約の準備が整わないからだ。付け焼き刃的な発想だけでは、都政の抱える様々な課題に対処できないことの表れとも言えるだろう。
細川氏は昨年、2020年の東京五輪・パラリンピック開催が決まったことについて、「原発問題があるから辞退すべきだった」との返上論を述べていた。どこまで本気なのだろうか。
今回は、猪瀬直樹前知事が5000万円借入金問題で辞職しての出直し選挙だ。それだけに、細川氏には、首相辞任の要因となった東京佐川急便からの1億円借り入れについて説明が求められる。
一方、舛添要一・元厚生労働相は記者会見で、「史上最高の五輪」を目指すことや、防災対策、医療・介護の充実、雇用対策などに意欲を示した。具体的な方策を選挙戦で明らかにしてもらいたい。
原発に関しては、即時ゼロではなく「原発に依存しない社会」を作ると述べる一方、東京で省エネを進め、再生可能エネルギー拡大へ努力すると語っている。
首都の顔を選ぶ都知事選で問われるのは、東京をどういう都市に変えていくのかという明確なビジョンだ。候補者同士の討論会などで、議論を深めるべきである。
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産経新聞 2014年01月15日
都知事選 脱原発主張に利用するな
東京都知事選を「脱原発」で戦おうと、細川護煕、小泉純一郎の両元首相が連携を確認した。
17日に正式に出馬会見する細川氏は「原発問題は国の存亡にかかわる」と話し、小泉氏は「原発ゼロでも日本は発展できる」との認識を共有できたとして細川氏への応援を表明した。
2人に共通するのは、都知事選をてこに「脱原発」の世論を一気に拡大する狙いだろう。
だが、原発というエネルギー政策の根幹を決めるのは国の役割である。どうしても「原発ゼロ」を実現したいなら、今一度国政に打って出て問うべきだ。
他にも多くある都政の課題を脇に置き、「脱原発」に都知事選を利用するのはおかしい。
小泉氏は「今回の知事選ほど国政に影響を与える選挙はない」として、原発ゼロか、再稼働容認かという、2グループによる争いだと言い切った。
小泉氏は首相時代、郵政民営化という単一テーマで衆院を解散し、大勝利を収めた。
都知事選でも同様の展開を描いているのだろう。だがあの時は、あくまでも国政課題の民営化問題を総選挙で問うたのであり、都知事選で「脱原発」を掲げることと、同一視はできない。
昨年、国内原発の「即時ゼロ」を唱えた小泉氏は、高レベル放射性廃棄物を埋める最終処分場が決まっていないことなどを理由に挙げた。だが、原発を即時ゼロにして、首都東京が消費する電力をどうまかなうのか。
細川氏も、脱原発に至る道筋を語っていない。
国家の最高指導者を経験した両氏が、現実的な解決策を示さないまま、「脱原発」ムードをあおる無責任な姿は見たくない。
一昨年暮れの衆院選で、脱原発派の民主党や日本未来の党は大敗した。代替エネルギーの普及に見通しが立たない段階で、「原発ゼロ」などの急進的な主張は、国政レベルで広がりを持ち得ないことが示された結果だ。
安倍晋三政権は「原発ゼロ」路線を見直し、安全性が確認された原発の再稼働を進める努力をしている。原発活用で安定的な電力供給を確保できてこそ、都民の生活を守り、経済を支えることができるはずだ。
候補者には、現実に立脚した政策論争を聞きたい。
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