ロシア政府は、開幕が1か月後に迫ったソチ冬季五輪の安全確保に万全を期してもらいたい。
黒海沿岸のソチから北東約700キロに位置する大都市ボルゴグラードで先月末、鉄道駅やトロリーバスを狙った自爆テロが2日連続で発生し、計30人以上が死亡した。
ソチに隣接する北カフカス地方にあるダゲスタン共和国でもテロが相次ぎ、数人の死者が出た。
一連の無差別テロは、イスラム過激派の犯行とみられている。中でも、イスラム教徒が多い北カフカスの独立とイスラム国家樹立を主張して、テロによるソチ五輪妨害を表明した武装組織が関与した可能性が指摘されている。
憂慮すべき事態である。犯行目的が何であれ、テロは決して許されない。
ただ、プーチン露大統領の強権的な政治姿勢が、イスラム教徒らの反発を増幅させている側面も否定できない。政権の意に沿わない少数派やメディア、政治勢力を力で抑圧してきたからだ。
米独仏などの首脳が、人権問題を理由に、ソチ五輪開会式への出席を見送ることにしたのは、やむを得ないのではないか。
当面は、世界中のアスリートや政府要人、観客らが集う五輪をテロから守ることが急務である。
ソチ周辺では既に、警察や軍による厳戒態勢が敷かれているが、一層の警戒が必要だ。
モスクワなど他の地域が狙われる可能性もある。ロシア全土でテロ対策を強化してほしい。
プーチン氏はテロ発生後、「テロリストを完全に壊滅させるまで徹底した戦いを続ける」と述べた。不安定な北カフカス近くで五輪を成功させ、地域の安定を内外に誇示する意図もあるようだ。
ロシア当局は昨年、北カフカスなどで過激派260人を殺害したと発表した。さらに激しいテロ掃討作戦が行われるのは確実だ。
だが、武力だけでテロを終息させることは難しく、根本的な問題解決にはつながるまい。
プーチン政権は、北カフカスにあるチェチェン共和国のイスラム武装勢力を軍事力で制圧した。その際、攻撃を逃れた残党がダゲスタンなどで活動を続けている。
地域の長期的安定には、貧しい北カフカスの住民生活を向上させ、テロの温床にならないようにすることが肝要である。
ソチでは今年6月、主要8か国(G8)首脳会議も開かれる。治安の維持に、プーチン政権の威信がかかっていると言えよう。
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