安倍晋三首相が伊勢神宮参拝後の記者会見で、昨年暮れの靖国神社参拝に反発する中韓両国に対して「私の真意を直接、誠意をもって説明したい」と述べ、首脳会談の開催を呼びかけた。
首相は開催に前提条件を付けず、首脳同士が胸襟を開いて話し合う重要性も強調した。
両国首脳との会談を「地域の平和と安定に極めて重要」と首相が位置付けているのは当然であり、首相が引き続き「対話のドアは開かれている」との姿勢をとっているのも妥当といえよう。
≪慰霊への相互理解必要≫
指摘しておきたいのは、靖国をめぐる中韓両国の反発などの動きに対応する上でも、同盟国である米国との意思疎通を綿密に図っておくことが欠かせないことだ。
安倍政権はさまざまな機会を通じ、靖国参拝の真意について米国への説明を重ね、この問題をいくら中韓が外交カードに使おうとしても、同盟は揺るがないことを内外に示してほしい。
安倍首相の靖国参拝に対し、米国務省と駐日大使館は「失望感」を表明した。これは小泉純一郎首相(当時)が参拝を繰り返した際には示されなかったことだ。
中国が経済的、軍事的により台頭していることを背景に、オバマ政権が北東アジア地域の緊張が増すことを懸念しているものとも受け止められる。
これをとらえ、首相の靖国参拝をめぐり日本が国際的に孤立しているかのような主張もあるが、日米同盟は強固だ。だが、同盟関係にヒビが入っていると誤解されるような状態は望ましくない。
小野寺五典防衛相がヘーゲル米国防長官との電話会談で、首相の靖国参拝について「不戦の誓いが本意だ」などと説明したのは妥当である。
首相の行為は、国の指導者が国のために戦死した人に哀悼の誠をささげるものにほかならない。
国家安全保障会議(NSC)の国家安全保障局長に就任する谷内正太郎氏は今月中の訪米を予定している。そうした機会を通じて、どの国も大切にしている戦死者への慰霊についての相互理解も深めてもらいたい。
同時に、世界の常識といえる行為に対し、干渉を繰り返しているのは常に中韓両国であることも明確に伝えなければならない。
中国の王毅外相は昨年末、米国、韓国、ロシア、ドイツなどの外相と相次いで電話会談し、安倍首相の靖国参拝を議題にした。
また、訪米中の尹炳世韓国外相は靖国問題を念頭に「韓日両国だけでなく、国際社会が憂慮する問題になった」と語った。
中国は欧州各国の同調も引き出し、日本批判の拡大を図っているようだ。
≪辛抱強く中韓の説得を≫
こうした動きへの日本政府の対応は、けっして十分とは言えない。米国政府関係者だけでなく、米国内世論、さらに国際社会に対しても、ことあるごとに日本の立場を示すことが重要である。首相を先頭に、日本外交の総力を挙げて取り組む課題といえる。
北東アジアの平和と繁栄には、日米両国の安全保障協力や、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)を含む経済関係の強化が極めて重要である。安倍政権は米国とともに課題に取り組んでいることを改めて確認したい。
一方、韓国の朴槿恵大統領も年頭会見を行い、「両国の協力関係の環境を壊す言動が繰り返され、非常に残念に思う」と、靖国参拝など日本側の動向をあらためて批判した。
朴大統領は日本について「重要な国」とも述べたが、核やミサイルの開発をやめない北朝鮮に対処するためには、日韓が米国と緊密に連携していかなければならないという安全保障上の共通の課題を負っている。
産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)の合同世論調査では、首相の靖国参拝を「評価しない」とする人が53%で「評価する」(38%)を上回った。半面、中韓両国からの参拝への非難については67%が、米国の「失望感」表明には59%の人がそれぞれ「納得できない」と答えた。
外交面の懸念を払拭するため、首相は対米関係強化と併せ、中韓との首脳会談の機会をつかむ努力を重ねてほしい。中韓両国も考え時ではないか。安倍首相には辛抱強さが求められる。
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