朝日新聞 2013年12月29日
東電事業計画 金融機関も変えてこそ
東京電力が、新たな事業計画を政府に提出した。正月明けにも認められる見通しだ。
東電の全額負担とされてきた除染などの事故対策費に上限が設けられ、それ以上については国費が投入される。
法律上、原発事故への無限責任を負っている電力会社に対して、実質的な免責を導入することになる。
一企業では到底まかなえない巨額な費用を東電に押しつけるだけでは、被災者への賠償や除染が滞りかねない。電力改革も進まない。かたや国には原発を推進し、過酷事故対策を怠ってきた責任がある。国費の投入はやむを得ない。
ただし、兆円単位の税金を投じるからには、東電の利害関係者、とくに金融機関の貸手責任を問わなければならない。
事故で事実上、債務超過に陥った東電は、本来なら破綻(はたん)処理されている。そうなれば、金融機関も巨額の債権放棄を迫られていたはずだ。
震災前、東電が優良な公益企業だったことに安住し、原発リスクや安全投資への姿勢を吟味してこなかったと批判されても仕方がない。事故後の支援融資はともかく、それまでの債権が丸ごと守られることに、納税者が納得できるだろうか。
今回、東電に身を切るリストラや経営改革を実行させるのは当然だが、金融機関への追及はまだ甘い。政府はあらゆる手段を検討すべきだ。
柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働を、金融機関が強く求めていることにも注意しておく必要がある。債権の保全や融資の継続のために、再稼働で東電の収益力を上げさせることが金融機関の狙いだ。
しかし、国民負担の増大を抑えられるからといって、早々と原発を再開することは許されない。東電は、数万人に今なお避難を強いる原因をつくった当事者である。
汚染水対策をはじめ、福島第一原発の事故収束がおぼつかないのに、どこにそんな余裕があるのか。
金融機関は、送配電部門や発電・燃料調達部門の分社化をめぐっても、東電から引き受けた社債の担保が散逸しないよう保証を求めている。将来に向けた改革を妨げかねない。
こうした金融機関の振る舞いは、地域独占を前提とした古い電力システムにどっぷりつかっているように映る。
今後、電力業界全体の制度改革が進む。電力向け融資のあり方についても、根本的に見直すときだ。
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毎日新聞 2014年01月07日
原発の安全審査 避難計画の作成が先だ
昨年末、東北電力が女川原発2号機(宮城県)の安全審査を原子力規制委員会に申請した。東日本大震災の被災地で、原発再稼働の前提となる安全審査の申請は初めてだ。これで、昨年7月の原発新規制基準施行から約半年の間に、7電力会社の9原発16基が申請されたことになる。
経営状況の改善を理由に電力各社は再稼働を急ぐが、周辺自治体の多くは原発事故に備えて避難の経路や手段を定めた避難計画を作成できていない。法的には、避難計画整備は再稼働の必要条件ではないものの、避難計画なしの再稼働は原発の安全神話を復活させることに等しい。
政府は、安全審査に加え、自治体の避難計画作成と実効性の確保も再稼働の必要条件だと明言すべきだ。
最近の世論調査を見ても、多くの国民が脱原発依存を望んでいる。
ところが、政府が年末にまとめたエネルギー基本計画の素案は原発を「基盤となる重要なベース電源」と位置づけ、将来にわたり一定の規模を確保する方針を打ち出した。規制委の審査で安全性が確認された原発は再稼働を進めるという。
新規制基準は達成すべき最低限のものだ。安倍政権も原発依存度を引き下げる方針を掲げる。ならば、事故のリスクと共存する中で、原発をどれだけ動かす必要があるかを政府主導で見極め、地震の恐れや老朽化の度合いが高い原発から順次廃炉にしていくのが筋である。
女川原発は大震災で想定を超える揺れや津波に襲われた。主要機器は健全だったと東北電は言うが、事故への不安から、再稼働に反対する周辺自治体があることもうなずける。
大震災後、国の原子力災害対策指針が見直され、原発30キロ圏の全国135市町村で、事故に備えた住民の避難計画を作成することになった。
だが、内閣府の調査(昨年12月2日時点)では、作成済みの市町村は4割にすぎない。安全審査を申請した女川原発と東京電力柏崎刈羽原発では、対象市町村すべてで避難計画ができていない。今年度中に安全審査を申請予定の中部電力浜岡原発でも、作成済みの自治体はゼロだ。大震災による被災や周辺人口の多さなど、避難計画の作成にはさまざまな困難が伴う。
仮に避難計画ができたとしても、訓練を繰り返して、実効性を確認しなければ意味がない。本来なら、新規制基準で、避難計画の作成を原発稼働の前提としておくべきだった。米国では、避難計画を立てられず廃炉になった原発もある。
政府は昨年秋から、市町村の避難計画作成の支援に乗り出している。支援の充実を図るとともに、でき上がった避難計画の妥当性をきちんと評価する必要がある。
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産経新聞 2013年12月30日
東電の経営計画 政府の関与強化は当然だ
東京電力が新たな経営再建計画を政府に提出した。政府と一体となって福島第1原発事故に伴う除染などに取り組む方針を打ち出し、一層の合理化推進と併せて福島の早期復興を目指す。
その柱に柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働を据えて、休止中の全7基のうち4基の運転を来年度中に再開するとしている。
柏崎刈羽の再稼働は、首都圏に安定的に電力を供給し、確実な収益で賠償費用を捻出するために不可欠である。計画を画餅に終わらせてはならない。政府は、柏崎再稼働でも東電を支援し、地元の説得に当たってもらいたい。
実質国有化された東電の昨年の経営計画は、賠償や除染費用として国から5兆円を借り入れ、事業収益で返済する内容だった。
だが、除染費用がかさみ、賠償の本格化で資金枠が枯渇する恐れが生じ、これを9兆円に拡大するなど抜本的な見直しを図った。
新計画では、除染などの東電負担を軽減し、国と共同で原発事故処理を行うことを明確にした。全てを東電任せにした民主党政権下の枠組みでは、賠償や除染に遅れが生じていた。その点で政府の役割強化は評価できる。両者一体で福島の復興を進めてほしい。
計画の成否は柏崎刈羽原発の早期再稼働にかかる。東電では来年7月の6、7号機、来年度後半の1、5号機の運転再開を前提にしている。6、7号機についてはすでに、原子力規制委員会に安全審査を申請中だ。規制委の迅速な審査が期待される。
新潟県の泉田裕彦知事は再稼働に慎重な姿勢だ。だが、遅れれば賠償費用の確保や電力供給に支障が出かねない。再稼働なくしては電気料金の再値上げの可能性があることも忘れてはなるまい。
安全性が確認された原発は、早期に運転を再開すべきだ。そのためには、政府が前面に出て、地元自治体の理解を得る努力を尽くさなければならない。
計画では希望退職募集や支店の廃止など、リストラの拡大・深化も決めた。国費を投入して事故処理を行う以上、一段の合理化に取り組むのは当然ではある。
50歳以上の管理職500人を福島に異動させるという。ただ、適材適所の人材配置でなければ、賠償業務に影響しかねない。社員の意欲を引き出す対策も忘れてはならない。
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