辺野古承認 重い決断受け着工急げ 国民全体で抑止力考えたい

朝日新聞 2013年12月28日

辺野古埋め立て 沖縄の負担を分かちあう

米軍普天間飛行場を移設するため、名護市辺野古の海の埋め立てを認める。

沖縄県の仲井真(なかいま)弘多(ひろかず)知事が、そんな判断を下した。

宜野湾市の市街地の真ん中にある普天間飛行場は「世界一危険な基地」とも呼ばれる。その返還に、日米両政府が合意して17年。移設問題は新たな段階に入ったことになる。

普天間の危険は一刻も早く除かなければならない。だからといって在日米軍基地の74%を抱える沖縄県内に新たな基地をつくらなければならないのか。

移設計画への反発は強く、朝日新聞社などが県内で今月中旬に実施した世論調査では、64%が埋め立てを承認すべきではないと答えた。

知事は3年前に「県外移設」を掲げて再選された。なのになぜ埋め立てを認めるのか。知事は、県民の批判や失望を覚悟しなければならない。

埋め立て承認によって、移設は順調に進むのか。

きのうの記者会見の、知事の言葉を聞こう。

「辺野古については名護市長も市議会も反対していて、実現可能性はそんなに高くない」

「県外の飛行場のある場所へ移設する方が早い。暫定的でも、県外移設案をすべて検討し、(普天間の)5年以内の運用停止を図る必要がある」

知事は政府に対し、普天間の24機のオスプレイの半数程度を県外に配備し、さらに5年以内に普天間の運用を停止するよう求めていた。辺野古の埋め立ては認めるが、まず普天間を空っぽにせよ、というのである。

「運用停止にとりくむと総理の確約を得ている」と、知事は首相との会談の成果を誇った。

首相は、少なくとも公開の場では、オスプレイの県外配備ではなく訓練の半分を県外に移すとしか言っていない。そもそもオスプレイを全機、県外に移すのなら、辺野古の基地は要らない。知事の説明は、県外移設の公約と埋め立て承認のつじつまあわせにも聞こえる。

しかし、沖縄の現状を表している面もある。基地負担を県外に移し、県民の理解を得る努力を重ねなければ、辺野古への移設もうまくいくかどうか。

来年1月の名護市長選、9月の市議選、11月ごろの知事選と政治日程が控える。結果しだいで建設は頓挫しかねない。

承認を得たらこちらのもの。抵抗する市民を排除して工事を進めればいい――。そんな発想が政府側にあるとすれば、すぐ捨てなければならない。県民の反発を強め、今後の数々のハードルを高くするだけだろう。

知事の判断にも、首相の回答にも、沖縄の思いは複雑だ。

振興策への歓迎。負担軽減策への落胆。札束でほおをたたいて基地負担を我慢せよと迫るのか、という反発もある。

沖縄の内部も、本土と沖縄の間も、分断が深まったようにみえる。

近年の沖縄では「差別」という言葉が頻繁に使われる。

たとえば公明党県本部が埋め立て不承認を求めた知事への提言も「差別と言わざるを得ない」と断じ、こう記した。

安保による恩恵は全国民が享受し、基地の負担は沖縄に過度に押し付けるやり方は、これ以上容認できない。沖縄に基地が集中したのは地理的・軍事的な理由ではない。本土で反対運動が起き、米軍統治下の沖縄に追い払われたのだ……。

基地の負担と歴史を重ね、差別だと訴える声もしばしば耳にする。王国をとりつぶされた琉球処分、本土防衛の「捨て石」にされた沖縄戦、独立する本土から切り離されて米国に「質入れ」された経緯である。

それは、本土に暮らす者も等しく考えるべき問題だ。

日本は戦後、憲法9条の下で平和国家の地位を築いた。ただし、それは日米安保条約による米軍の駐留と沖縄の負担の上になりたつ平和だ。

本土の人々はその事実を忘れがちだ。だが、負担を強いられる側は忘れない。意識のギャップが広がれば、何かのきっかけで不満が爆発しかねない。

安倍政権が日米同盟を強固にしたいのなら、とりくむべきは沖縄の負担軽減だ。同盟に不可欠なのは、集団的自衛権の行使より何より、駐留米軍への地元の人々の理解である。

沖縄が接する東シナ海は緊張を増している。一方で航続距離の長いオスプレイは、県外からでも容易に沖縄にたどりつく。安全保障環境や軍事技術が変わるなか、沖縄になければならないもの、本土で引き受けられるものは何かを、もう一度洗い出すべきだ。

移転先の同意を得るのは容易ではない。だが、山口県岩国市は岩国基地に、普天間の空中給油機を受け入れると決めた。

努力もせずに諦めていては、話は始まらない。

毎日新聞 2013年12月28日

辺野古埋め立て 県民は納得していない

沖縄県の仲井真弘多(ひろかず)知事は、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に向けた国の公有水面埋め立て申請を承認した。1996年の普天間返還合意から17年たって、移設問題は新たな段階を迎えた。だが県内移設となる辺野古の埋め立て承認は、知事の「県外移設」の選挙公約と矛盾するなど多くの問題をはらんでいる。

知事は記者会見で、普天間の固定化を回避する重要性を強調し、5年以内に普天間の運用を停止するよう訴えた。そして政府が9年かかるとする辺野古移設までの期間を短縮できない場合、新たに県外移設先を探すよう求めた。県外移設の公約違反との指摘には「公約を変えたつもりはない」と色をなして反論した。

知事にとっても苦渋の決断だったのだろう。もともと自公政権下で初当選した知事は、条件つきで辺野古移設を容認していた。しかし鳩山由紀夫政権を経て、県民の大勢が県外移設を求めるようになったのを受け、再選出馬では県外移設に転じた。

昨年末に安倍晋三政権が発足し、知事の姿勢は再び微妙に変わり始めた。安倍政権は、中国の台頭をにらんで防衛力増強を進め、辺野古移設を日米同盟強化の柱にすえた。長期政権とささやかれる安倍政権と決定的に対立するわけにいかないという、知事なりの政治判断が働いた可能性もある。

知事は、国の申請に行政手続きの不備がなく、知事の要請に応えて首相が表明した基地負担軽減策が評価できる内容だったことなどを、承認理由にあげた。だが政府の負担軽減策の実現可能性は不透明だ。

政府は「牧港補給地区の7年以内の全面返還」と「オスプレイ12機程度の県外配備」は、防衛省に対策チームを設けて検討する方針だ。「環境に関する日米地位協定の改定」は、地位協定を補足する新協定締結に向けて米国と協議を始めるという。

「普天間の5年以内の運用停止、早期返還」は、首相は明確に回答せず、普天間の危険性除去の重要性を知事と確認するにとどまった。いずれも空手形に終わりかねない。

辺野古移設を目指す政府は、県民の理解を得るために最低限、負担軽減策を実行しなければならない。実行されたとしても、県民が「普天間の県外移設」「日米地位協定の抜本改定」「オスプレイの配備撤回」を求めてきた経緯に照らせば不十分で、納得を得るのは難しいだろう。

来年の1月には名護市長選、11月ごろには沖縄県知事選がある。日米同盟の強化は、基地を支える地元の人たちの理解がなければ、結局はもろいものに終わる。政府と県は地元に政策を丁寧に説明し、民意をくみとる努力を続けてほしい。

読売新聞 2013年12月28日

辺野古移設承認 日米同盟強化へ重要な前進だ

◆沖縄の負担軽減を加速させたい

1996年の日米合意以来、様々な曲折を経てきた米軍普天間飛行場の移設問題の解決に向けて重要な前進である。

沖縄県の仲井真弘多知事が、普天間飛行場の名護市辺野古への移設に伴う公有水面埋め立てを承認した。

普天間問題はこの17年間、日米間の最大の懸案で、膨大な時間と精力が注がれてきた。日米両政府、沖縄県、名護市、米軍など多くの関係者が複雑な事情を抱える、困難な連立方程式だからだ。

これまでの苦労を無駄にせず、難題を克服することは、日本の安全保障環境が悪化する中、同盟関係をより強靱(きょうじん)で持続可能なものにするという大きな意義を持つ。

◆知事の決断を評価する

仲井真知事にとっては、まさに苦渋の決断だったろう。

当初は、辺野古移設を条件付きで支持していたが、民主党の鳩山首相が「最低でも県外移設」と県民の期待を無責任に(あお)ったため、2期目の知事選公約に「県外移設」を掲げざるを得なくなった。

しかし、埋め立てを承認しなければ、普天間飛行場の危険な現状が長期間にわたって固定化されてしまうのは確実だ。

知事は記者会見で、埋め立てを承認した理由について、「県外移設の方が早いとの考えは変わらない」と強調しつつ、政府の環境保全措置などが「基準に適合していると判断した」と語った。

沖縄の米軍基地問題では常に、基地の抜本的な撤去を目指すか、段階的な負担軽減を進めるか、という方法論の対立がある。知事が着実な負担軽減を優先し、現実的選択をしたことを評価したい。

辺野古移設は、広大な普天間飛行場を人口密集地から過疎地に移すうえ、在沖縄海兵隊のグアム移転を促進する副次的効果を持つ。県全体で大幅な負担軽減となり、沖縄の発展にも役立とう。

知事の決断は、辺野古移設反対派から批判されているが、将来は高く評価されるはずだ。

リスク取った安倍政権

知事の判断を後押しした安倍政権の努力も支持したい。

基地負担の軽減策として、普天間飛行場や牧港補給地区の返還期間の短縮や訓練移転、米軍基地内の環境調査に関する新たな日米協定の協議開始などを示した。

9~12年後の返還目標は、激しい日米交渉の結果で、知事の求める前倒しは簡単ではないが、日米両政府は最大限努力すべきだ。

米軍輸送機オスプレイの訓練の県外移転も、沖縄の負担を日本全体で分かち合うため、関係自治体は積極的に協力してほしい。

米政府は従来、日米地位協定の改定に慎重だったが、地位協定を補足する新協定の協議には応じることになった。返還予定の米軍基地内での事前の環境調査は跡地利用を促進する。より早い段階から調査できる合意を目指したい。

沖縄振興策でも、安倍首相は、来年度予算の積み増しに加え、2021年度まで毎年3000億円台の予算確保を約束するなど、最大限の配慮を示した。県北部振興策にも毎年50億円を計上する。

厳しい財政事情の中、異例の優遇措置だが、難局を打開するためにはやむを得まい。ただ、民主党政権が普天間問題を迷走させなければ、これほど巨額の国民負担は生じなかったろう。

安倍政権が沖縄県の承認を得られたのは、不承認時の政権への打撃というリスクも覚悟し、一貫してぶれずに、仲井真知事との信頼関係を築いたことが大きい。だからこそ、知事も県民からの批判というリスクを取ったのだろう。

首相は、知事との信頼を大切にしながら、米軍の抑止力の維持と沖縄の負担軽減の両立に全力を挙げなければなるまい。

◆地元の理解得る努力を

普天間飛行場の辺野古移設の実現までには、まだ課題もある。

来月19日の名護市長選は、移設に反対する現職と、容認する前県議の一騎打ちとなる見通しだ。

前市長が出馬を取りやめ、容認派が一本化されたが、選挙結果は予断を許さない。

本来、一地方選が日本の安全保障の行方を左右するような事態は避けるべきだ。その意味でも、知事が承認時期を市長選前の年内にしたのは適切だった。

名護市長には、辺野古移設を中止させる権限はないにせよ、代替施設の建設工事をより円滑に実施するには、名護市の協力を得られた方が望ましいのは当然だ。

政府・与党は引き続き、辺野古移設の意義と効用を丁寧に説明して、地元関係者の理解を広げる努力を尽くすことが求められる。

産経新聞 2013年12月28日

辺野古承認 重い決断受け着工急げ 国民全体で抑止力考えたい

長年の懸案だった米軍普天間飛行場の辺野古移設が、実現に向けて大きく前進した。

沖縄県の仲井真弘多知事が、政府による辺野古沿岸部の埋め立て申請を承認すると発表した。時間はかかったが、根強い反対論の中で、知事が国益と県民の利益の双方を考えたうえで下した重い決断を評価したい。

県との信頼を醸成し、基地負担軽減や最大規模の沖縄振興策で応えた政府の後押しも奏功した。

わが国を取り巻く安全保障環境は急速に悪化している。難しい課題は残るが、国民と領土を守るために必要な移設実現への取り組みを加速しなければならない。

◆政府と県の信頼維持を

仲井真知事は当初、辺野古移設について条件付き容認の立場だった。だが、民主党政権時に鳩山由紀夫首相が県外移設を掲げて問題を迷走させたため、知事も県外移設に傾かざるを得なくなった。

知事は会見で、「県外移設が最も早いという考えは変わらない」と語り、辺野古移設にはなお困難が伴うことを指摘した。

本来なら、県外移設の公約撤回を明言すべきところだが、負担軽減策の実現について、政府の取り組みをなお見極めたいとの考えもあるのだろう。

「首相や官房長官が約束すること以上の担保はない」と知事は強調した。移設実現は負担軽減策の着実な実施にかかっている。

安倍晋三首相は県の要求に対し、普天間に配備された垂直離着陸輸送機オスプレイの訓練の半分を県外に移し、平成33年度まで毎年3千億円台の巨費を沖縄振興に充てる方針を示した。

最大の課題は、普天間飛行場の返還の前倒しだ。

仲井真知事は「5年以内の運用停止ができれば、危険性の除去では合格」と、前倒しに強い期待感を示している。

日米両政府は「平成34年度またはその後」としていた返還時期を早めるため、早急に協議を始めるべきだ。行政手続きの時間を圧縮するなど、工期全体の見直しが必要となる。

普天間問題はもともと、日本側の国内調整の遅れから日米合意の実現が遅れてきた。返還前倒しについて米側の理解を得るには、政府と沖縄県の協力関係が維持されていることが極めて重要だ。

安倍首相は、返還が予定される在日米軍基地で、環境調査を可能とする特別協定締結を目指し、米国と協議することも約束した。

米側は従来、日米地位協定の改定に否定的だ。特別協定締結を実現するには、米側と慎重かつ真摯(しんし)な話し合いが必要となろう。

知事は「県民の意思に関係なく国際情勢は緊張している」として「沖縄は一定の役割を果たさなければならない」と語った。同時に「過重な基地負担は不公平」とも訴えた。

沖縄県民を含む国民全体で、安全保障の重要性をしっかりと受け止めることが欠かせない。

◆丁寧な説明で理解得よ

知事の承認により移設計画が具体化すれば、県内外から反対派が集結し、実力行使を含む猛烈な反対運動が巻き起こる可能性も否定できない。

辺野古沖ではかつて、政府のボーリング調査に対して反対派が妨害行為を行った。移設工事がつまずけば普天間返還も遅くなる。住宅密集地の上を米軍機が飛び続ける危険な状態が固定化される事態は避けなければならない。

辺野古移設に反対、慎重な立場の人たちも含め、丁寧にその重要性を説明し、理解を求めていく努力が政府には求められる。

中国は、尖閣諸島周辺海域での活動を活発化し、防空識別圏を一方的に設定するなど力による現状変更を試みている。沖縄が日本防衛の最前線に位置し、日米同盟による抑止態勢を維持、強化していくうえで最重要の拠点であるとの認識を共有する必要がある。

もとより、辺野古移設が頓挫すれば、日米両政府が合意した米海兵隊のグアム移転計画に支障をきたし、米軍再編全体に悪影響を与える。それは日本の抑止力の低下をもたらしかねない。

自民党は来年1月の名護市長選に向け、移設容認派の候補の一本化を図った。公明党は党本部と違い、沖縄県連が県内の移設に反対している。与党内で足並みをしっかりとそろえなければ、県民や国民への説得はできまい。

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