PKOで弾薬提供 説明なき転換を危ぶむ

朝日新聞 2013年12月25日

弾薬の提供 「例外」の検証が必要だ

安倍政権が、南スーダンの国連平和維持活動(PKO)で、陸上自衛隊の弾薬1万発を韓国軍に無償譲渡した。

国連南スーダン派遣団(UNMISS)を通じての提供となる。日本の弾薬が国連や他国に譲渡されたのは初めてだ。

今回の決定は、PKO協力法と武器輸出三原則の双方で「例外」扱いとされた。

これを正当化するため、政府は「緊急事態」「必要性・人道性」を強調するが、従来の政府見解からは逸脱している。

歴代内閣はこれまでの国会答弁で、PKO協力法にもとづく国連への武器・弾薬の譲渡について「要請は想定していない。あってもお断りする」「武器・弾薬は含まれない」と否定してきた。

それなのに弾薬を提供したのだから、国会での審議は不可欠だ。国会答弁の積み重ねを軽んじ、時の政権によって解釈が変わるようでは、法体系への信頼は大きく揺らぐ。

野党は国会の閉会中審査を求めている。政府は早急に国会や国民に説明を尽くすべきだ。今回の判断が妥当かどうか、具体的な検証が必要である。

武器輸出三原則に関しても、官房長官談話を出して緊急の必要性に応じた措置だと強調したが、それで説明責任を果たしたとは到底いえない。

三原則でも国連への武器・弾薬の提供は「想定外」であり、納得のいく説明がいる。

政権は今月策定した国家安全保障戦略で、武器輸出三原則の見直しを明記した。今回の例外措置を突破口にして、なし崩しに緩和に道を開くようなことがあってはならない。

そもそも、今回の「例外」の妥当性を判断するには、わからないことが多すぎる。

どういう経緯で国連から話があったのか。韓国側は切迫した状況で要請したわけではないと説明しているが、実態はどうなのか。譲渡の方針を決めた国家安全保障会議(日本版NSC)ではどんな議論があったのか。詳細に明らかにすべきだ。

日韓で説明が食い違うようなら、冷え込んだ関係がさらにこじれかねない。提供された弾薬の取り扱いについても、いずれ明らかにすべきだろう。

そもそも、安倍首相や防衛相ら少人数の会合であるNSCの議論を伏せたままでは、国民の幅広い信頼は得られない。

「積極的平和主義」の名のもとに、法整備もないままNSCの決定で既成事実を積み重ね、自衛隊の紛争への関与を強めることは避けるべきだ。

毎日新聞 2013年12月25日

PKOで弾薬提供 説明なき転換を危ぶむ

極めて疑問の残る決定だ。政府は、治安が悪化している南スーダンの国連平和維持活動(PKO)で、陸上自衛隊の弾薬1万発を国連を通じて現地の韓国軍に無償提供した。武器輸出三原則に抵触することから、例外扱いにした。日本の武器・弾薬が外国軍に譲渡されるのは初めてだ。それなのに政府の説明は不十分で、理由にあげた緊急性・人道性がどの程度のものか、代替手段はなかったかなど、政策の妥当性を判断する材料が乏しい。戦後の安全保障政策をなし崩し的に転換することのないよう、納得いく説明を求めたい。

南スーダンでは今月15日から政府軍と反大統領派の戦闘が続き、治安が急速に悪化している。現地でPKO活動をする国連南スーダン派遣団(UNMISS)には、韓国軍工兵隊280人が参加しているが、避難民1万5000人とともに武装勢力に周辺を取り囲まれている。

そんな中、約150キロ離れた首都に展開中の陸上自衛隊に、韓国軍とその要請を受けたUNMISSから「弾薬が不足している」と申し入れがあった。陸自は2012年1月から道路や橋の建設などの活動をしている。決定を受けて、5・56ミリ小銃用の弾薬1万発を提供した。

弾薬提供には、二つの点で懸念がある。武器輸出三原則を骨抜きにしかねないことと、武器・弾薬の提供を否定した国会答弁との整合性だ。

武器輸出三原則は、11年に野田内閣が、平和貢献・国際協力や国際共同開発・生産のケースについて輸出を認め、大幅に緩和した。これにもとづきハイチのPKOでは、自衛隊はブルドーザーなどを提供したが、武器や弾薬を提供したことはなかった。またPKOでの武器提供は、参加国との政府間取り決めが前提で、現行では国連など国際機関は対象外だ。韓国政府との取り決めは結べず、例外扱いにした。

三原則は、憲法の平和主義を支えてきた基本原則だ。例外を重ねて形骸化してきたが、その都度、国会などで議論されてきた。今回は、三原則がさらに骨抜きになりかねない重要な政策変更にもかかわらず、政府は国家安全保障会議(NSC)と持ち回り閣議を開いただけで弾薬提供を決めた。発表はA4判1枚の菅義偉官房長官談話を出しただけだ。野党には全く連絡がなかったという。

官房長官談話は、韓国隊員と避難民の生命・身体の保護に一刻を争うことや、現地で自衛隊だけが同型の弾薬を持っているとして、緊急性・人道性を強調している。また弾薬は韓国隊員と避難民の生命・身体の保護だけに使われ、国連の管理下で武器移転が厳しく制限されるとして、理解を求めている。

読売新聞 2013年12月26日

PKO弾薬提供 武器輸出の新原則策定を急げ

厳しい環境の下、アフリカの国造りに共に取り組む仲間を助けるのは、国際常識である。

国連南スーダン派遣団(UNMISS)に参加中の陸上自衛隊が、小銃弾1万発をUNMISS経由で韓国軍に無償提供した。海外での自衛隊の弾薬譲渡は初めてだ。

南スーダンの治安情勢が悪化する中、韓国軍は宿営地に1万5000人の避難民を保護し、反政府勢力から包囲されていた。

韓国兵や避難民の生命にかかわる人道性や緊急性、国連平和維持活動(PKO)という公共性、UNMISS参加部隊で日本以外に同種の弾薬を携行していないことなど、どの観点からも弾薬を提供しない選択肢はなかった。

韓国軍から現地の陸自部隊に感謝の電話もあった。陸自が今後、他国に支援や救援を頼むケースもあろう。今回のような協力を重ね、国際的連帯を強めることが、陸自の安全確保にも役立つ。

政府はPKO協力法に関する国会答弁で、武器・弾薬の提供は想定されず、要請されても断るとしてきた。部隊の生存にかかわる武器・弾薬の提供を他国に要請される事態は極めて異例だからだ。

政府は今回、国家安全保障会議(日本版NSC)の4大臣会合や閣議を開き、UNMISSへの弾薬提供を、武器輸出3原則やPKO協力法の政府見解の例外扱いとすることを決めた。

手続き上の欠陥はなく、文民統制も機能したと言える。

一昨年に野田内閣が3原則を緩和し、平和構築・国際協力目的の武器提供は可能になった。ただ、提供先は国に限られ、UNMISSなど国際機関は対象外だ。

政府は、武器輸出3原則の抜本的見直しを検討している。今回の事例も踏まえ、柔軟で現実的な新原則を早期に策定すべきだ。

国連安全保障理事会は、現地情勢の悪化を踏まえ、住民保護の強化のため、UNMISSを増強する決議を採択した。展開中の軍事・警察要員約7500人に加え、約6000人を増派する。

事態の沈静化に向けて、決議を迅速に実施することが肝要だ。

独立から2年半たつ南スーダンは、大統領と前副大統領の対立が部族紛争に発展し、内戦の瀬戸際にある。これを阻止するには、国際社会の関与が欠かせない。

米国は、当事者間の対話による解決に向けて仲介を始めた。

日本も、陸自隊員の安全に細心の注意を払いながら、国際社会の和平努力に貢献したい。

産経新聞 2013年12月25日

銃弾1万発提供 武器輸出見直し加速せよ

武器輸出三原則の見直しを迫られる事態に直面したといえるだろう。

安倍晋三政権は国連と韓国政府の要請を受け、国連南スーダン派遣団(UNMISS)で活動中の陸上自衛隊の銃弾を派遣団の韓国軍部隊に提供した。緊急の状況であり、国際常識に照らして当然の対応だった。

日本が、国連平和維持活動(PKO)に参加する外国軍に銃弾を提供したのは初めてだ。政府は根拠をPKO協力法に求め、菅義偉官房長官の談話は、今回の提供を武器の輸出を禁じた武器輸出三原則によらない例外扱いとした。

政府は過去の国会答弁で、武器輸出三原則に抵触するなどとして、PKO協力法によっても外国軍への武器弾薬の提供は認められず、要請があっても断るとの立場をとってきた。

自衛隊は憲法解釈で武器使用を厳しく制約される。そのPKO活動は、人道支援などが中心で治安維持には当たらないなど、限定的なものだ。自衛隊が今回、銃弾の提供を断っていれば、日本は何もしないのかとの批判を浴びていただろう。

南スーダンは政情悪化によりPKO部隊の増派を迫られている。同じPKOの外国軍は「友軍」である。友軍とその保護下の1万5千人もの避難民が危険にさらされているときに、国連から要請があれば、銃弾であっても求めに応じるのは当然ではないか。

非現実的な武器輸出三原則に基づく時代遅れの法解釈は、人命の危機という現実を前に退けられてしかるべきだろう。

国連憲章の順守に努めるのは平和国家としての義務であり、国家安全保障戦略にうたわれた「積極的平和主義」の実践でもある。

国家安全保障会議(日本版NSC)の枠組みで安倍首相ら閣僚が4者会合などを開き、速やかに弾薬供与の方針を固めた。野党の一部には拙速との批判があるが、危機にある人々の安全を顧みない議論と言わざるを得ない。

小野寺五典防衛相は、検討中の武器輸出三原則見直しについて「今回の事案とは別な話だ」と語った。しかし、官房長官談話による原則の例外を重ねる手法を繰り返すことには限界がある。

世界の潮流である国際共同開発の推進も含めて、国際協調に基づく柔軟で分かりやすい武器輸出原則見直しが急務だろう。

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