診療報酬改定 制度維持へ実質下げは妥当だ

朝日新聞 2013年12月22日

診療報酬 メンツ争いの先を見よ

安心して医者にかかれるかどうか――。国民にとって大きな関心事だ。どこに目を向けていけばいいのだろう。

年末の予算編成に向けて、診療報酬の改定が決着した。医師による治療や薬の代金である。保険料と税、そして患者の窓口負担で賄われる。

全体では0・1%の微増だった。ただし、消費増税に伴うコスト増分の1・36%を除けば、実質的にマイナスとなる。

2年に一度の改定には、「政治的なメンツ」がかかる。

医療機関の収益に直結するため、日本医師会は引き上げを働きかけ、自民党は「民主党政権は増やした。我々が負けるわけにいかない」と主張した。

一方、税や保険料の負担を減らしたい財務省や経営者団体、労働組合は引き下げを望み、首相官邸も負担増が経済に与える影響を心配した。

高齢化や技術の進歩により医療費は年3%ほど自然に増えており、すでに約40兆円になる。借金だらけの日本で、診療報酬を大きく引き上げるのはもう難しい。さりとて大きく削れば医療現場は混乱する。

結局、わずかなプラスマイナスにならざるをえない。そこから医療の先行きを占うのは、現実に合わなくなっている。

むしろ、来年度予算案で注目されるのは、診療報酬とは別のルートで医療へお金を流す仕組みがつくられる点である。

それは、各都道府県単位で医療体制を整える基金を設けることだ。来年度は約900億円を投じる。今回の診療報酬の引き上げ額は約400億円だから、額としても大きい。

今年8月に報告書をまとめた社会保障国民会議が、発想の転換点となっている。

会議であぶり出されたのは、日本が病院完結型の「治し、救う」医療に偏り、高齢化社会に必要な地域完結型の「癒やし、支える」医療が不足している実態である。

地域医療のニーズは、それぞれの人口構成によって違う。それに対応した「ご当地医療」をつくるには、全国一律の診療報酬だけでは限界がある。

だからこそ基金を設け、病院機能の集約や転換、連携に必要な費用を直接、補助金として出すことになった。

むだ遣いや陳情合戦を招く恐れもあるが、うまく使えば地域医療を充実できる。自治体や医療機関のやる気次第であり、住民の協力や監視も必要だ。

改革が実現すれば、永田町のメンツ争いに一喜一憂するよりは、ずっと生産的である。

読売新聞 2013年12月21日

診療報酬改定 制度維持へ実質下げは妥当だ

社会保障制度を維持するには、増え続ける医療費の伸びを抑えることが欠かせない。

医療機関の収入となる診療報酬について、政府は来年度、実質的に1・26%引き下げることを決めた。6年ぶりのマイナス改定だ。

診療報酬が引き上げられれば、保険料や医療機関の窓口での支払いも増える。来春の消費税率引き上げと重なれば、家計には二重の負担増になる。

下げ幅は物足りないが、診療報酬を実質引き下げで決着させたことは妥当だ。消費や景気への悪影響を避けることにもつながる。

医師の技術料など「本体」部分は0・1%増にとどめ、医薬品など「薬価」を1・36%引き下げるとした。医薬品の実勢価格を反映させたものだ。

民間病院の収支は昨年、平均7600万円の黒字で、前年より改善した。病院勤務医の給与も上昇している。政府は、診療報酬を引き上げる必要性は乏しいと判断したのだろう。

ただし、消費税率引き上げで医療機関の負担が増える分を補填(ほてん)するため、初診料などが加算された。結果的に0・1%の増となったのはやむを得まい。

自民党は、医師の待遇改善や医師不足の解消を求める日本医師会などの要望を受け、診療報酬の引き上げを主張した。しかし、医療費抑制を目指す首相官邸と財務省に押し切られた。

確かに病院勤務医の労働実態は依然厳しく、夜間当直を挟んだ長時間勤務や、当直明けの手術は常態化している。

だが、医師不足は診療科や地域による医師の偏在が主因だ。単に診療報酬の総額を増やしても、大きな改善は見込めないだろう。

診療報酬をどの分野に配分するかは、年明けに中央社会保険医療協議会で議論される。

大切なのは、激務の救急、小児科、産科、外科などに診療報酬を重点配分することである。診療所より人手不足が著しい病院に報酬を手厚くする必要もある。

医療費の無駄をなくす工夫もしなければならない。特に圧縮の余地が大きいのは薬剤費だ。

医師が処方する薬の中で、価格の安い後発医薬品の割合は4割程度にとどまっている。さらに使用を促進すべきだ。

薬を医療機関外の薬局で受け取る院外処方の調剤料は、院内処方に比べて高い。薬局の調剤医療費が膨張する一因だ。この点も早急に是正してもらいたい。

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