安心して医者にかかれるかどうか――。国民にとって大きな関心事だ。どこに目を向けていけばいいのだろう。
年末の予算編成に向けて、診療報酬の改定が決着した。医師による治療や薬の代金である。保険料と税、そして患者の窓口負担で賄われる。
全体では0・1%の微増だった。ただし、消費増税に伴うコスト増分の1・36%を除けば、実質的にマイナスとなる。
2年に一度の改定には、「政治的なメンツ」がかかる。
医療機関の収益に直結するため、日本医師会は引き上げを働きかけ、自民党は「民主党政権は増やした。我々が負けるわけにいかない」と主張した。
一方、税や保険料の負担を減らしたい財務省や経営者団体、労働組合は引き下げを望み、首相官邸も負担増が経済に与える影響を心配した。
高齢化や技術の進歩により医療費は年3%ほど自然に増えており、すでに約40兆円になる。借金だらけの日本で、診療報酬を大きく引き上げるのはもう難しい。さりとて大きく削れば医療現場は混乱する。
結局、わずかなプラスマイナスにならざるをえない。そこから医療の先行きを占うのは、現実に合わなくなっている。
むしろ、来年度予算案で注目されるのは、診療報酬とは別のルートで医療へお金を流す仕組みがつくられる点である。
それは、各都道府県単位で医療体制を整える基金を設けることだ。来年度は約900億円を投じる。今回の診療報酬の引き上げ額は約400億円だから、額としても大きい。
今年8月に報告書をまとめた社会保障国民会議が、発想の転換点となっている。
会議であぶり出されたのは、日本が病院完結型の「治し、救う」医療に偏り、高齢化社会に必要な地域完結型の「癒やし、支える」医療が不足している実態である。
地域医療のニーズは、それぞれの人口構成によって違う。それに対応した「ご当地医療」をつくるには、全国一律の診療報酬だけでは限界がある。
だからこそ基金を設け、病院機能の集約や転換、連携に必要な費用を直接、補助金として出すことになった。
むだ遣いや陳情合戦を招く恐れもあるが、うまく使えば地域医療を充実できる。自治体や医療機関のやる気次第であり、住民の協力や監視も必要だ。
改革が実現すれば、永田町のメンツ争いに一喜一憂するよりは、ずっと生産的である。
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