米の緩和縮小 正常化へ着実に進め

朝日新聞 2013年12月22日

米金融緩和 出口へ細心の目配りを

米連邦準備制度理事会(FRB)が、景気てこ入れのために続けてきた量的緩和第3弾(QE3)の「出口」に向け、そろりと一歩踏み出した。

来年1月から米国債などの買い入れ額を月850億ドルから750億ドルに減らす。FRBの資産規模はなお増え続けるが、増加ペースが鈍る。その分、市場に供給するマネーの増加量も鈍化する。

経済をいびつにしかねない超金融緩和からの脱却は歓迎すべきことだ。FRBには、世界経済にも目配りした細心のかじ取りが求められる。

今回の一歩までには曲折があった。バーナンキ議長は6月、買い入れ額の減少ペースを具体的に例示して市場の理解を得ようとした。ところが、これが金利上昇や新興国市場の動揺などを招き、9月からの緩和縮小を見送った。

その後、米議会の対立で連邦政府の一時閉鎖があったが、経済の改善が着実だったことで、市場はFRBの出口戦略を好材料として織り込み始めた。新興国、とりわけ中国経済が落ち着いてきたことも大きい。

さらに今月に入り、議会が今後2年の予算編成にめどをつけたことも追い風になる。

FRBは雇用情勢の先行きには楽観的な見通しを示す一方、国債などの買い入れペースの縮小があくまで緩やかであることを強調した。緩和終了の見通しもあいまいにして、市場が予断を持つことを防いだ。

実際、緩和縮小のニュースに株価は急騰し、まずは順調な滑り出しとなった。

もっとも、長期金利の動き次第では、住宅や自動車などの基幹産業の回復が抑えられる懸念は消えていない。雇用も増えているが、非正規のワーキングプアも多く、消費が順調に伸びるか定かでない。

ここを金融緩和であおった株高による富裕層の資産効果で埋め合わせている形だが、企業と株主の間でマネーが循環するだけでは、一般の人々に恩恵が及ばず、消費が伸びないので物価も上がらない。日本に似た構造的なデフレ圧力も心配される。

昨年9月から続くQE3で米国経済の矛盾が深まった面があるともいえよう。

財政をめぐる連邦議会の動向からも目が離せない。当面の予算編成こそ見通しが立ったが、医療制度改革(オバマケア)をめぐる対立は続いている。中間選挙への思惑も絡み、2月に期限を迎える債務上限問題が深刻化すれば、株高頼みの回復シナリオが揺らぐ恐れもある。

毎日新聞 2013年12月20日

米の緩和縮小 正常化へ着実に進め

米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)が、大規模な量的緩和の出口に向け、ようやく最初の一歩を踏み出した。

金利を、これ以上下げられない0%近辺まで引き下げた後、中央銀行が国債などを大量に買って市場に出回る資金の量を増やし、経済を刺激しようというのが量的緩和だ。始めたことが歴史的実験だったように、終えるのも未知の実験となる。平たんな道のりではないだろうが、経済がとっくに非常事態でなくなっている以上、異例の政策は早く終了させるべきだ。

現在、月850億ドル(約8.9兆円)のペースで購入している米国債や住宅ローン担保証券を、来月から750億ドルに減らすのが“第一歩”の中身である。やっと正常化へのカジを切ったことを歓迎したい。

とはいえ、今後も相当期間、異例の緩和状態が続くとみられ、心配せずにはいられない。

FRBは量的緩和の縮小を決める一方で、ゼロ金利政策がより長期にわたり続く可能性を強調した。第一歩に市場が過剰反応するのを防ごうという配慮は理解できるが、今回のような小幅な縮小では、量的緩和からの完全脱却だけでも来年いっぱいかかりそうだ。その先のゼロ金利解除については、現在7%の失業率が、目標の6.5%を下回った後も、相当期間は行わないとしている。

そうしたFRBの方針を受け、米国や日本など各国の株式市場で株価が大幅に上昇した。「緩和の縮小」より「ゼロ金利の長期化」に反応したようだ。低コストの資金が当分の間、市場に供給されるとみて、投機資金がさらに株価や不動産価格をつり上げ、本格的なバブルを生むのではないかと気がかりだ。

経済が改善したから量的緩和を縮小するのに、ゼロ金利はもっと長く続けるというのもわかりづらい。すでに経済は年3%ほどの成長が見通せるまで回復し、株式市場では史上最高値の更新が続いているのである。危機対応の量的緩和やゼロ金利はあまりにも不釣り合いだ。

FRBが金融政策の正常化に慎重な背景には、急げば市場で国債が売られ長期金利が跳ね上がるとの心配があるのだろう。だが、こうした課題は、量的緩和に踏み切った時点で警鐘とともに指摘されていた。避けようとして正常化を先送りすればするほど、ハードルは高くなり、バブルや市場の乱高下といった弊害が深刻化する可能性がある。

極端な政策に足を踏み入れた以上、乗り越えなければならない試練である。日銀にもいずれ降りかかってくる試練だということも、忘れてはならない。

読売新聞 2013年12月23日

FRB出口戦略 慎重な緩和縮小で混乱を防げ

米連邦準備制度理事会(FRB)が、危機対策として続けてきた異例の金融緩和策の修正へ、一歩を踏み出した。

緩和を打ち切る「出口戦略」の道のりは長い。市場の混乱を招かないよう、難しい(かじ)取りを迫られる。

FRBは、米国債などを毎月850億ドル(約8・7兆円)購入している量的緩和策第3弾(QE3)の規模について、1月から100億ドル減らすことを決めた。

11月の失業率は7%に下がり、5年ぶりの低水準だった。住宅着工件数も増大し、7~9月期の実質国内総生産(GDP)は前期比年率で4・1%増えた。

景気回復や雇用改善を裏付ける好材料が、量的緩和縮小の決断を後押ししたと言える。

議会の与野党が財政協議で合意し、政府機関の一部閉鎖(シャットダウン)の再来は避けられる見通しだ。財政面の不透明感が薄らいだことも追い風になった。

ただし、FRBはゼロ金利政策については、解除の目安としていた「失業率6・5%」を下回った後も維持する方針を示した。

ニューヨーク株式市場などの株価が上昇している。量的緩和策の縮小が緩やかで、ゼロ金利政策の解除も急がず、金融引き締めはまだ先になるという方針が安心感を広げた点を評価したい。

為替市場では、米景気回復を背景に、ドル買い圧力が強く、ドル高・円安傾向が続きそうだ。

今後の焦点は、来年以降、FRBがどんなペースで量的緩和策を縮小していくかである。

FRBは雇用などのデータ次第で「小幅の縮小を続ける」としているが、具体策は不明だ。「市場との対話」を工夫し、縮小を円滑に進めることが重要になる。

5年に及んだ米国の金融緩和策により、過剰マネーが世界を駆け巡り、米国だけでなく、新興国などでも資産バブルを引き起こす副作用が懸念されてきた。

一方、急激な緩和縮小をきっかけに、新興国からの資金引き揚げが加速し、世界経済を揺るがす事態を避けねばならない。

FRBは米国だけでなく、新興国経済の変調にも目配りする細心の政策運営が要る。

その重責を担うのが、1月末退任するバーナンキ議長の後任となるイエレン副議長だ。雇用を重視し、金融緩和に積極的なイエレン氏の手腕が問われよう。

FRBが直面する出口戦略の試練は、日銀もいずれ乗り越えなければならないハードルである。

産経新聞 2013年12月22日

米国の緩和縮小 「出口戦略」の手本見せよ

危機に対応した異例の金融政策を平時に戻す第一歩としては、十分に理解できる決断だ。

米連邦準備制度理事会(FRB)が5年前のリーマン・ショック後に始めた量的金融緩和策の縮小を決めた。雇用や住宅、消費などの経済環境が好転していることを受けた判断である。

来年4月の消費税増税に伴い景気の落ち込みが懸念される日本にとっても、米国経済の復調傾向は追い風だ。FRBの政策転換を前向きに受け止めたい。

日米などの株式市場もFRBの決定を好感している。ただ、ドルを買う動きが強まったことで、一部新興国の通貨が下落していることが気がかりだ。新興国経済が混乱すれば、世界経済の新たな波乱要因になりかねない。

FRBは今後、物価や雇用の動きを慎重に見極めつつ段階的に量的緩和を縮小する。いわゆる「出口戦略」を進める。その際には米国のみならず、世界経済が混乱することのないよう十分に目配りして政策を運営してほしい。

中央銀行が国債などを大量に買って市場にお金を供給し、景気を刺激するのが量的緩和である。金利の上げ下げで行う通常の金融政策とは異なる非常手段だ。日銀も量的緩和による異次元緩和を実施しており、いずれ日本がデフレ脱却を見通せた際には、FRBの政策運営も参考になろう。

FRBは今回、国債などの購入額を月850億ドル(約8兆8千億円)から750億ドルに減らすことを決めた。縮小規模が小幅だったことに加え、当面は事実上のゼロ金利政策を維持する姿勢をみせたことが、金融市場にさらなる安心感を与えた。

5月にバーナンキ議長が量的緩和縮小の可能性に触れた際は、新興国に流れ込んでいた資金を引き揚げる動きが進み、急激な株安や通貨安を招いた。日本でも株価の乱高下でアベノミクスに冷や水が浴びせられた。FRBは、同じ轍(てつ)を踏んではならない。

そのためには、他国通貨の下落などを引き続き注視する必要がある。米国の景気回復はまだ盤石とはいえない。与野党が対立する財政問題もくすぶる。経済情勢の変化に応じて緩和縮小を進めていく工夫が求められよう。

バーナンキ氏の後任として来年2月に新議長に就くイエレン副議長の手腕に期待したい。

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