「首都直下地震」人命と国の中枢をどう守るか

毎日新聞 2013年12月21日

首都直下地震 「減災」の効果は大きい

首都圏で発生が予想される首都直下地震の被害想定がまとまった。

中央防災会議の首都直下地震対策検討ワーキンググループなどによると、今後30年間に約70%の確率で発生が見込まれるマグニチュード(M)7級の地震が起きた場合、最大2万3000人が死亡し、経済被害は約95兆円に上る。

巨大な過密都市を強い地震が襲った場合の被害の大きさに驚く。ただし、地震への対策を進めた場合、家屋の倒壊や火災による死者は約10分の1に減らせる。国や各自治体の対策はもちろんだが、最後は自助によって命が救える。減災への備えを総力を挙げて進めたい。

被害の最大規模は、冬の夕方、都心南部を震源とするM7.3級の地震が起きた場合だ。木造住宅などが損壊し、各地で起きる火災の延焼が2日程度続く。広い地域で停電が発生し、1週間以上回復しない可能性もある。鉄道も1週間~1カ月間運転を休止する。がれきによって道路も寸断される。

人命が失われる主因は、建物倒壊と火災だ。だが、2008年時点で87%の耐震化率を100%にできれば、約1万1000人の死者数を約1500人に減らせるという。寝室やベッド周辺を部分的に耐震化するだけでも被害がかなり防げると専門家はいう。耐震助成制度は、市区町村によって取り組みに差があるが、一層の充実と工夫が必要だ。

また、火災は、感震ブレーカーを設置して電気ショートを防いだり、初期消火を徹底したりすれば約1万6000人の死者数を約800人に減らせる。火災で怖いのは延焼だ。地域や自治会単位でブレーカーの設置を進めるのが有効ではないか。横浜市で今年から助成制度が始まったが、ほとんど普及していない。比較的安価に設置できるのだから行政主導で最優先で設置を進めるべきだ。

政治・経済の中枢だけに、その機能の継続も大きな課題だ。被災した時に一刻も早く復旧するための人的・物的な手当てを定めた業務継続計画(BCP)がかぎだ。内閣府の調査では、中央省庁でも備えの甘さが目につく。

企業の場合、大企業でBCPを策定済み、または策定中は7割に上るが、中堅企業では約4割だ。被災による事業の縮小や解雇は経済全体に大きな影響を与える。製造、物流を経て消費者に製品が届くまでの過程全てに目配りした態勢を整えてもらいたい。

被害想定では、震度の予想分布図も示された。だが、震源地が少しずれれば想定も変わる。また、より大きなM8級の地震の可能性も皆無ではない。想定外も念頭に、身の回りから減災に取り組みたい。

読売新聞 2013年12月20日

「首都直下地震」人命と国の中枢をどう守るか

大震災で日本の中枢機能がマヒする最悪の事態を防がねばならない。

首都直下地震の対策を検討してきた政府の中央防災会議の部会が、予想される地震の規模や、それによる被害予測をまとめた。

想定したのは、東京都心南部を震源とするマグニチュード7・3の地震だ。首都周辺で起き得る大地震のうち、今後30年間の発生確率が70%と高く、国の中枢を直撃する恐れがあるためという。

この地震では、震度6強の猛烈な揺れが都心部を襲う。一部地域は震度7になる。最悪の場合、建物61万棟が倒壊・炎上し、約2万3000人もの犠牲者が出る。

巨大過密都市の弱点を反映したものだ。対策は急務である。

特に火災は深刻だ。各所で同時多発し、延焼が2日程度続く。被災者が周囲を火に囲まれ、逃げられない事態も心配される。

住宅を失ったり、帰宅できなくなったりした被災者で街はあふれる。がれきで主要道路は不通となり、鉄道など交通網が止まる。

停電や電話の不通、断水が1週間程度も続くかもしれない。

懸念されるのは、国会や首相官邸、官庁街が機能不全になることだ。震災対応の司令塔が失われれば、被害は一層拡大しよう。

経済活動の中枢が壊滅すれば、生産や流通が滞り、全国に甚大な影響が及ぶ。経済被害の額は、約95兆円に上るという。

政府や自治体はもちろん、企業や家庭で対策を講じたい。

今回、中央防災会議の部会は、東京都内の建物の耐震化率が今の87%から94%に上昇すると、死者数は半減すると試算した。

火災についても、揺れを感知して電気を止める「感震ブレーカー」が全戸に普及し、初期消火できれば、焼死者は9割減るという。

官民が連携し、こうした足元の対策を強化することが肝要だ。

内閣府は、今回の被害想定に合わせ、政府の活動が震災時にも停滞しないようにする「事業継続計画」の素案をまとめた。

被災状況の把握を急ぎ、救助救援を展開する。内外への正確な情報発信に努め、金融の安定、治安対策などの非常時優先業務に全力を挙げるという内容だ。関係府省の役割分担を明確にし、確実に実施できるよう備えるべきだ。

対策の加速を図る首都直下地震対策特措法も先月、成立した。今後、下水道の補強などインフラ整備を急ぐ地域を指定し、政府と自治体が取り組むことになる。優先順位をつけ、着実に進めたい。

産経新聞 2013年12月21日

首都直下地震 耐震と防火に「瞬発力」を

中央防災会議の作業部会は、首都直下地震による甚大な被害想定を新たに公表した。

阪神・淡路大震災と同規模のマグニチュード(M)7・3の地震が都心南部を直撃した場合、建造物の倒壊や火災による死者は最悪で2万3千人にのぼる。経済被害は国家予算に匹敵する約95兆円と推計された。

M7級の首都直下地震は、30年以内の発生確率が70%とされる。日本の政治・経済の中枢機能がまひするような事態は避けなければならない。

最優先の課題は、住宅などの耐震化と火災対策である。

被害想定は平成20年のデータに基づき、東京都の耐震化率を87%として試算した。耐震化率を94%に上げると全壊棟数と死者はほぼ半減し、100%とすれば被害は10分の1程度になる。

火災防止策では、一定の揺れを感知すると電気が止まる「感震ブレーカー」の普及拡大を図るべきだ。同様の対策はガスでは実施済みだが、感震ブレーカーの普及率は数%程度と推定される。作業部会は、全戸に普及すると焼失棟数は半減し、さらに適切な初期消火が行われれば、焼失棟数と火災による死者はともに20分の1まで減少するとしている。

首都直下地震の切迫性と減災効果を考えれば、耐震化率と感震ブレーカーの普及率は「着実に」ではなく、一気に100%を目指すべきである。国と自治体には瞬発力のある施策を求めたい。

作業部会は地震発生直後(おおむね10時間)の対応を、「国の存亡に関わる初動」と位置づけた。大規模災害では、道路に乗り捨てられた車両の排除など、平常時の法規定では即座に対応できない事態が生じる。個人の権利を制限し、災害対応を優先するため緊急事態に関する法整備が必要だ。

首都直下地震に限らず、南海トラフ巨大地震やテロ対策も見据えて、政府は非常時に柔軟で機動性に富んだ危機管理の法体系構築に取り組むべきだ。

2020年には東京でオリンピック・パラリンピックが開催される。地震防災は五輪のためにあるのではないが、対策を加速させる契機のひとつにしたい。

五輪直前に首都直下地震が発生したとしても、予定通りに競技が実施できるくらいの強靱(きょうじん)な防災力を備えた首都を築きたい。

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