大震災で日本の中枢機能がマヒする最悪の事態を防がねばならない。
首都直下地震の対策を検討してきた政府の中央防災会議の部会が、予想される地震の規模や、それによる被害予測をまとめた。
想定したのは、東京都心南部を震源とするマグニチュード7・3の地震だ。首都周辺で起き得る大地震のうち、今後30年間の発生確率が70%と高く、国の中枢を直撃する恐れがあるためという。
この地震では、震度6強の猛烈な揺れが都心部を襲う。一部地域は震度7になる。最悪の場合、建物61万棟が倒壊・炎上し、約2万3000人もの犠牲者が出る。
巨大過密都市の弱点を反映したものだ。対策は急務である。
特に火災は深刻だ。各所で同時多発し、延焼が2日程度続く。被災者が周囲を火に囲まれ、逃げられない事態も心配される。
住宅を失ったり、帰宅できなくなったりした被災者で街はあふれる。がれきで主要道路は不通となり、鉄道など交通網が止まる。
停電や電話の不通、断水が1週間程度も続くかもしれない。
懸念されるのは、国会や首相官邸、官庁街が機能不全になることだ。震災対応の司令塔が失われれば、被害は一層拡大しよう。
経済活動の中枢が壊滅すれば、生産や流通が滞り、全国に甚大な影響が及ぶ。経済被害の額は、約95兆円に上るという。
政府や自治体はもちろん、企業や家庭で対策を講じたい。
今回、中央防災会議の部会は、東京都内の建物の耐震化率が今の87%から94%に上昇すると、死者数は半減すると試算した。
火災についても、揺れを感知して電気を止める「感震ブレーカー」が全戸に普及し、初期消火できれば、焼死者は9割減るという。
官民が連携し、こうした足元の対策を強化することが肝要だ。
内閣府は、今回の被害想定に合わせ、政府の活動が震災時にも停滞しないようにする「事業継続計画」の素案をまとめた。
被災状況の把握を急ぎ、救助救援を展開する。内外への正確な情報発信に努め、金融の安定、治安対策などの非常時優先業務に全力を挙げるという内容だ。関係府省の役割分担を明確にし、確実に実施できるよう備えるべきだ。
対策の加速を図る首都直下地震対策特措法も先月、成立した。今後、下水道の補強などインフラ整備を急ぐ地域を指定し、政府と自治体が取り組むことになる。優先順位をつけ、着実に進めたい。
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