中立で公正な番組作りを推進することで、公共放送のトップとしての責任を果たしてほしい。
NHKの経営委員会は松本正之会長の後任に籾井勝人氏を選出した。籾井氏は三井物産で副社長を務めた後、情報システム会社の日本ユニシスで社長などを歴任した経済人だ。
民間出身の会長は3代連続である。企業で培った経営手腕を存分に発揮し、NHK改革の実効を上げることが求められる。
松本会長が受信料の値下げや職員給与の削減といった改革に取り組んだ点は評価できる。
ただ、民放に比べ、要員削減や制作費の使い方などでNHKの合理化努力はまだ甘い。籾井氏はコスト意識を徹底させ、肥大化した組織の見直しを図るべきだ。
NHKの収入の9割超を占める受信料は、支払っていない比率が全国で3割近くに及ぶ。
国民の不公平感を和らげるためにも、受信料の徴収率をさらに引き上げる必要がある。
法令順守も新会長の重要な課題だ。今秋には放送技術研究所で架空発注問題が起きた。NHKでは、インサイダー事件など過去にも深刻な不祥事が頻発している。
職員の意識向上を図り、再発防止に努めることが大切になる。
原発の維持・再稼働や米軍輸送機オスプレイの配備に批判的だとして、NHKの番組・報道には政財界から「偏っている」との批判が高まっていた。これも松本会長退任の背景にあろう。
特定秘密保護法をめぐる報道でも、論点が多岐にわたらず、登場する識者の人選も、反対する側に傾いていたのではないか。
番組制作の最高責任者に就く籾井氏は、見解が分かれる問題を取り上げる場合、バランスを重視し、放送内容が中立かどうか絶えず目配りをしなくてはならない。
「不偏不党」は、放送法で定められた大原則だ。偏らない番組を提供し続けることで、視聴者との信頼関係を築くべきだろう。
国外での外国人向け放送の拡充も急務だ。日本の政策や文化、観光資源を積極的に海外に発信していくことは国益にもつながる。
外国のケーブルテレビ会社への販売促進などで効果的な戦略を立てることが望まれる。商社出身の籾井氏の人脈やビジネス経験に期待したい。
次世代高画質放送「8K」(スーパーハイビジョン)の開発や、番組のインターネットへの同時配信といった技術革新に注力することも新会長の使命と言える。
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