NHK新会長 偏りなき番組で責任を果たせ

毎日新聞 2013年12月21日

NHK新会長 権力の監視が大切だ

NHKの新しい会長に日本ユニシス特別顧問の籾井勝人(もみいかつと)氏が決まった。1月24日に任期満了となる松本正之会長に続き、3代連続の外部登用だ。安倍晋三首相と近いメンバーが少なくない経営委員会のもと、経緯がわかりにくい人選だった。

まず、松本会長の続投の線はなかったのだろうか。この3年間で東日本大震災に遭いながらも、受信料を下げ、職員数を減らし、高いといわれる職員給与を下げた。その経営手腕は一定の評価ができるだろう。

一方で、原発再稼働やオスプレイ配備についての報道で、政財界から「偏向している」と指摘された。しかし、実際の放送は決してバランスを欠いたものではなかった。NHKの7月の世論調査でも、視聴者の8割近くが放送全般について「公平・公正」と答えていた。それなのに、松本会長は外堀を埋められるようにして退任を決めた。

NHK会長は経営委員12人のうち9人の賛成を得て決まる。「最近の会長人事は政財界の人脈頼みでは」と指摘するのは「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」共同代表の醍醐聡・東大名誉教授だ。この3代を見るだけでも、それはいえるだろう。

こういう方法で的確な人材が見つかるのだろうか。経済界は原発の再稼働など、社会問題の利害関係者であることも多く、報道の中立性が守られるのかどうかも心配だ。

籾井新会長に望まれるのはまず、本人が20日の記者会見で表明したように、公正で公平な公共放送を貫くことだ。そのためには政治に距離を置き、権力のチェック機能を果たさなければならない。

たとえば、特定秘密保護法の成立に至るNHKの報道は十分なものだっただろうか。賛否をいっているのではない。この法律が及ぼす問題点を掘り下げ、課題を整理してこそ、視聴者は自らの判断の材料にできる。この法律について、わかりにくいという声が多い中で、視聴者の疑問に応えることができただろうか。

放送と同時にインターネットで配信する仕組みをつくることも大きな課題だ。その時に受信料制度をどうするのか。全世帯から受信料を徴収するのなら、放送法の改正が必要で、新会長の手腕が問われることになる。

先ごろ安倍首相が、NHKは領土問題について戦略的に発信すべきだとの認識を示した。こういった発言で、現場のスタッフが萎縮してはならない。自由な雰囲気の中で報道や番組制作ができる環境を保つことが求められる。それがメディアの独立性を確保し、良質で魅力的な放送を実現し、ひいては視聴者の信頼を得ることにもつながる。

読売新聞 2013年12月21日

NHK新会長 偏りなき番組で責任を果たせ

中立で公正な番組作りを推進することで、公共放送のトップとしての責任を果たしてほしい。

NHKの経営委員会は松本正之会長の後任に籾井勝人氏を選出した。籾井氏は三井物産で副社長を務めた後、情報システム会社の日本ユニシスで社長などを歴任した経済人だ。

民間出身の会長は3代連続である。企業で培った経営手腕を存分に発揮し、NHK改革の実効を上げることが求められる。

松本会長が受信料の値下げや職員給与の削減といった改革に取り組んだ点は評価できる。

ただ、民放に比べ、要員削減や制作費の使い方などでNHKの合理化努力はまだ甘い。籾井氏はコスト意識を徹底させ、肥大化した組織の見直しを図るべきだ。

NHKの収入の9割超を占める受信料は、支払っていない比率が全国で3割近くに及ぶ。

国民の不公平感を和らげるためにも、受信料の徴収率をさらに引き上げる必要がある。

法令順守も新会長の重要な課題だ。今秋には放送技術研究所で架空発注問題が起きた。NHKでは、インサイダー事件など過去にも深刻な不祥事が頻発している。

職員の意識向上を図り、再発防止に努めることが大切になる。

原発の維持・再稼働や米軍輸送機オスプレイの配備に批判的だとして、NHKの番組・報道には政財界から「偏っている」との批判が高まっていた。これも松本会長退任の背景にあろう。

特定秘密保護法をめぐる報道でも、論点が多岐にわたらず、登場する識者の人選も、反対する側に傾いていたのではないか。

番組制作の最高責任者に就く籾井氏は、見解が分かれる問題を取り上げる場合、バランスを重視し、放送内容が中立かどうか絶えず目配りをしなくてはならない。

「不偏不党」は、放送法で定められた大原則だ。偏らない番組を提供し続けることで、視聴者との信頼関係を築くべきだろう。

国外での外国人向け放送の拡充も急務だ。日本の政策や文化、観光資源を積極的に海外に発信していくことは国益にもつながる。

外国のケーブルテレビ会社への販売促進などで効果的な戦略を立てることが望まれる。商社出身の籾井氏の人脈やビジネス経験に期待したい。

次世代高画質放送「8K」(スーパーハイビジョン)の開発や、番組のインターネットへの同時配信といった技術革新に注力することも新会長の使命と言える。

産経新聞 2013年12月22日

NHK新会長 改革加速し公正な放送を

NHKの新会長に日本ユニシス特別顧問の籾井勝人(もみい・かつと)氏が決まった。来年1月24日に任期満了となる松本正之現会長の後任で、3代続けて外部からの起用となる。

平成16年に、職員の制作費着服など不祥事が相次いだことを契機にスタートしたNHK改革は、いまだ道半ばだ。

新会長には、受信料収入に甘えた希薄なコスト意識を鍛え直し、公正で良質な番組づくりに強い指導力を発揮することが期待されている。籾井氏は「公共のために役に立てるNHKにする」などと抱負を語ったが、その言葉通りの実行力を発揮してほしい。

籾井氏は、三井物産副社長や情報サービス大手の日本ユニシスで社長などを務めた。大組織の経営トップだった手腕に加え、商社マンとしての国際的な視点や情報通信分野にも明るい点などが評価された人事といえる。

アサヒビール出身の福地茂雄前会長、JR東海出身の松本会長に続く民間からの起用には、内部昇格では困難な、思い切った改革を加速させる狙いがある。

NHKは昨年10月、松本氏のもとで受信料の値下げに踏み切ったが、来年秋の次期経営計画(平成27~29年度)策定を控え、さらなる引き下げが求められる可能性もある。民間平均の4倍ともいわれる高額な給与についても、5年間で10%削減する改革案が打ち出されたが、実施はこれからだ。

後を絶たない職員の不祥事も、公平・公正さに批判がある番組づくりも、背景には、現場まかせの管理体制や年功序列の昇進制度があると指摘される。来年度からの制度改革では、管理職登用試験の導入も盛り込まれている。これらも、実効性を持たせられるかどうかは新会長の手腕次第だ。

原発の再稼働や米軍輸送機オスプレイの配備には批判的で一方的姿勢が目につくとして、NHKの報道姿勢や番組づくりに疑問を投げかける声も聞かれた。

11月には「NHKスペシャル」で平成21年に放映された番組をめぐり、東京高裁が取材や内容に問題があったと厳しく指摘する判決を出している。日本の台湾統治を取り上げた番組で、取材先のコメントを都合良く編集して日本を悪者に描いた内容には、視聴者からも「一面的」との批判が出た。

NHKは上告したが、局内でまず真摯(しんし)に検証すべきだ。

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