猪瀬氏と5000万 説明と規範意識が足りない

毎日新聞 2013年12月20日

猪瀬知事辞職 これで幕引きにするな

追い詰められた末の決断だった。

猪瀬直樹東京都知事が、医療法人徳洲会グループから5000万円を受け取っていた問題で、都議会議長に辞職願を提出した。猪瀬氏は記者会見で、改めて5000万円は個人的な借入金と強調したうえで「説明責任を果たすべく努力はしたが疑念が払拭(ふっしょく)できなかった。都政は停滞させられない」と理由を述べた。

説得力のある説明がない以上、辞職は当然だ。一方、辞めたからといって5000万円授受の問題を幕引きにしてはならない。猪瀬氏の説明責任がなくなるわけではない。

記者会見では「政治家としてアマチュアだった。政策には精通していると思ったが、政務の知識が足りなかった」などと弁明した。だが、「政務」が、資金処理の手続きなどを指しているとすれば、猪瀬氏は思い違いをしているのではないか。

5000万円という大金を初対面の人から受け取ること自体が、常識に照らして異常なのだ。政務の知識の問題では決してない。

猪瀬氏は都知事選を前にした昨年11月、徳田虎雄徳洲会前理事長をあいさつに訪れ、その2週間後に次男の徳田毅衆院議員から5000万円を現金で渡され、受け取った。

いったい何の金なのか。

選挙運動費用収支報告書や資産報告書など公文書には記載せず、返済は、9月に徳洲会グループに東京地検特捜部の強制捜査が入った後だ。

さらに、徳田前理事長との面会の際、東京電力病院取得の方針について会話があったことを19日の記者会見で認めた。「話題になっていない」との議会答弁は虚偽だったことになる。猪瀬氏は副知事時代、病院売却を東電に強く迫った経緯がある。徳洲会は都内に施設を持ち、都から億単位の補助金も支払われてきた利害関係者だ。5000万円の授受をめぐり、きな臭さが漂う。

だが、これまでの記者会見や都議会での猪瀬氏の説明は二転三転し、最後は妻や秘書に責任を押しつける始末だった。説明責任を問われた辞職会見でも「事実に忠実に答えてきたが、小さな間違いがいくつかあった」と、事を矮小(わいしょう)化するような発言をした。

不透明な授受の真相はまだ何も分かっていない。それなのに都議会は、百条委員会の設置を見送る方針という。それはおかしい。強制力がある百条委に徳洲会や猪瀬氏の関係者を呼べば、真相解明の手がかりが得られるはずだ。

百条委設置は辞職に追い込むのが目的ではない。有権者に真相を示すために百条委での調査は必要だ。刑事告発を受けた特捜部が捜査を尽くすのは当然として、行政の監視役としての議会の責任も問われる。

読売新聞 2013年12月20日

猪瀬都知事辞職 東電病院問題にまで幕引くな

あまりに多くの疑惑を抱えたままで、都政を担うことはできない。辞職は当然である。

東京都の猪瀬直樹知事が、医療グループ「徳洲会」側から現金5000万円を受け取っていた問題で、辞意を表明した。

猪瀬氏は記者会見し、5000万円は「個人的な借入金」だったと改めて主張した。

だが、現金が提供されたのは、都知事選を目前に控えた時期である。徳洲会が運営する病院などの施設に対し、知事には開設許可や指導監督の権限がある。

猪瀬氏の主張に無理があるのは、初めから分かりきっていた。場当たり的な弁明を繰り返した末に追い詰められた印象が強い。

現金を受け取った日の行動や、その後の保管状況について、猪瀬氏は説明を二転三転させた。辞意表明の直前には、東京電力病院の売却を巡り、都議会で虚偽の答弁をした疑いも浮上していた。

猪瀬氏には副知事時代の昨年6月、都が筆頭株主だった東電の株主総会で、都内にある東電病院の売却を迫った経緯がある。徳洲会は東電病院の競争入札に参加したものの、東京地検特捜部の強制捜査を受けて辞退した。

出馬前に猪瀬氏は、徳洲会創業者の徳田虎雄元衆院議員と面会している。都議会では、この時、「東電病院の売却は話題になっていない」と答弁したが、実際には話題に上っていたことが関係者の証言で明らかになった。

2週間後の現金授受は、東電病院問題と関係がなかったのか。

都議会の要請で提出された東電病院の入札に関する都の資料には、全面を黒く塗り潰した文書も交じっていた。

疑惑は何一つ解明されていない。辞職で説明責任を免れると考えたとしたら、全くの見当違いである。徳洲会の公職選挙法違反事件を捜査してきた東京地検特捜部には、5000万円疑惑についても詳細な解明を求めたい。

昨年12月の都知事選で史上最多の434万票を集めた猪瀬氏には、都議会への事前説明なしに新しい施策を発表するなど、強引な都政運営が目についた。

ネットなどによる情報発信に偏り、肝心の議会との信頼関係構築に積極的でなかった姿は、政治家としての資質を欠いていたと言わざるをえない。それは今回の独善的な議会答弁にも表れていた。

首都のかじ取り役には組織運営能力も不可欠だ。次の都知事選びの重要なポイントとなろう。

産経新聞 2013年12月20日

猪瀬知事辞職 首都の顔は冷静に選ぼう

東京都の猪瀬直樹知事が辞職を表明した。これに伴う知事選は来年2月に実施される見通しだ。首都の新しい顔を選ぶにあたっては、候補者の実務能力や清新さを冷静に見極めたい。

猪瀬氏は、職務上の利害関係がある医療法人「徳洲会」側から現金5千万円を受領し、都議会などの追及にもあいまいな説明を繰り返していた。

都政も、自らが招致に尽力した2020年東京オリンピック・パラリンピックの準備も、この問題で完全に停滞していた。予算編成や五輪組織委員会のトップ人事など、喫緊の課題にも手をつけられずにいた。辞職は当然である。

猪瀬氏は会見で後任の知事について「東京五輪を成功させてほしい。五輪を迎えるにふさわしい人が知事になってもらえれば、自分のやったこと、少しは頑張ったことが受け継がれる」と話した。これは去る人の本心であろう。

東京の五輪招致は、石原慎太郎前知事が強烈なリーダーシップで候補都市に名乗りを上げ、後を引き継いだ猪瀬氏が招致活動の中心となり、政府やスポーツ界と歩調を合わせて世界を飛び回り、東京を売り込んだ。招致の成功は、歴代2知事の功績である。

だが内外に向けたパフォーマンスを必要とする招致戦の時は過ぎた。「五輪の顔」を都知事のタレント性に頼る必要はない。

これから知事に求められるのは、大会開催に向けて山積する課題を解決し、巨大組織を動かす実務と調整の能力である。

もちろん、東京が抱える課題は五輪だけではない。首都直下地震に備える防災都市づくりは、五輪準備と並行して急がなくてはならない。五輪後も続く少子高齢化への対処も待ったなしだ。

猪瀬氏の辞職に伴う都知事選に向け、すでに与野党は候補者擁立の調整を本格化させている。具体的な名前も取り沙汰されている。次の知事選を単なる人気投票にしてはいけない。東京都民の見識が問われる選挙にもなる。

猪瀬氏は今後、「作家に戻り都政を見守りたい」とも話した。それならばなお、辞職後も説明責任を果たすべきだろう。

弁明を二転三転させたまま、「政治についてよく知らないアマチュアだった」との総括では、誰も納得できない。作家としての信用も回復できないはずだ。

読売新聞 2013年12月17日

猪瀬氏と5000万 説明と規範意識が足りない

到底、納得できない釈明を、いつまで繰り返すのか。東京都の猪瀬直樹知事に対する不信感は増すばかりである。

猪瀬氏が医療グループ「徳洲会」側から5000万円を受け取っていた問題で、都議会が集中審議を再開した。

都議会は先週で閉会したが、会期中の猪瀬氏の答弁で疑惑は一層深まった。それを考えれば、当然の対応である。

この日の審議で問題とされたのが、5000万円の保管状況だ。猪瀬氏は「貸金庫に入れて一切、手を触れなかった」と主張してきたが、実は5月に最初の貸金庫から自宅近くの別の貸金庫に現金を移していた、と説明を翻した。

猪瀬氏は「すぐに返せる状態にしようと思った」と弁明したものの、説得力を欠く。なぜ最初から、そう説明しなかったのか。

猪瀬氏は「個人的な借入金だった」という主張を変えていない。5000万円受領に関し、「個人の借り入れなので妻以外には伝えなかった」とも強調してきた。

一方で、徳田毅衆院議員から議員会館で現金を受け取った後、そのまま自宅に戻ったとの答弁は変遷している。実際には、自分の事務所に立ち寄ってから帰宅していたことが明らかになった。

事務所では、秘書らに5000万円受領の事実を一切、伏せていたのだろうか。

猪瀬氏の特別秘書が9月に徳洲会側に現金を返却した際、公用車を使っていたことも判明した。公私の区別を強調する姿勢と公用車の使用は、明らかに矛盾する。

都知事選で猪瀬陣営が作成した選挙運動費用収支報告書に、不適切な記載があった疑いもある。「秘書に聞いてほしい」という答弁では、有権者は納得しまい。

都政の停滞が懸念される。

2020年東京五輪・パラリンピックの運営主体となる大会組織委員会の理事長人事について、猪瀬氏は「年内に決める」と明言していた。だが、議会対応に追われ、下村五輪相との協議はいまだに実現していないという。

年明けには、都の新年度予算案に対する知事の査定が控える。それにもかかわらず、都幹部から予算案に関する説明を受ける時間さえ、なかなか割けていない。

都議会では、最大会派の自民党以外の各会派の議員から、辞職を促す声が上がっている。

猪瀬氏が引き続き都政のかじ取りを担うと言うのなら、5000万円問題の説明責任をきちんと果たすことが先決である。

産経新聞 2013年12月19日

知事の責任 猪瀬氏の辞職は当然だ 五輪準備も都政も動けない

都政は停滞していた。2020年東京オリンピック・パラリンピックの準備も遅れていた。猪瀬直樹都知事の辞職は当然である。

猪瀬氏が医療法人「徳洲会」側から5千万円を受け取り、あいまいな説明に終始したことに、すべての原因はあった。その責任はあまりに大きい。

都議会側は18日、地方自治法に基づき、「百条委員会」を設置することを決めた。これまでの知事の答弁を覆す、新たな決定的な疑惑も明らかになっていた。

このままでは都政も五輪準備も一歩も前に進めなかった。自ら辞職を決断したとすれば、せめてもの救いだったといえる。

≪説明には納得できない≫

関係者によれば、猪瀬氏が昨年11月6日、徳洲会グループの徳田虎雄前理事長に面会した際、売却が決まっていた都内の東京電力病院を取得する意向を伝えられていたという。息子の徳田毅衆院議員から猪瀬氏が5千万円を受け取ったのは、この2週間後だった。

猪瀬氏は都議会の一般質問で、虎雄氏との面会時に「東電病院の売却は話題になっていない」と答弁していた。虚偽答弁だった可能性がある。

猪瀬氏は副知事時代の昨年6月、東電の株主総会に出席し「公的資金が入る中、ただちに売却すべきだ」と迫っていた。

東電は昨年10月、東電病院の売却と入札の実施を公表し、徳洲会は今年8月、入札に参加したが、9月に東京地検特捜部の強制捜査を受けた後に辞退した。

徳洲会側から東電病院取得の意思を伝えられていたことを事実として一連の流れをみれば、汚職事件の要素である、職務権限も請託も現金授受の事実もそろうことになる。無利子無担保で5千万円の「借金」の相手を「親切な人だと思った」とする猪瀬氏の説明を、信じろという方が難しい。

自民党の高村正彦副総裁も18日、「職務権限に関係する仕事をする人から大金を受け取った外形的事実だけで、出処進退を決断するのに十分だ」と述べた。国政与党による辞職勧告だった。

都議会などの追及も、ますます激しくなることが予想された。設置が決まった百条委では、正当な理由のない証言拒否や偽証に罰則が科せられる。

都知事自身が百条委に出席するのは初めてで、これまでの都議会一般質問や総務委員会でみせた、二転三転するような説明は許されなかった。

何より多くの都民は、議会の質疑に応じる猪瀬氏の姿そのものに強い失望感を抱いていたのではないか。「妻が」「秘書が」を繰り返し、「覚えていない」「記憶にない」を連発してきた。

≪成果を台無しにするな≫

多くの「政治とカネ」の事件で聞いてきた言葉だ。猪瀬氏はもともとノンフィクションライターとして、そうした疑惑を追及する側にいたのではなかったのか。

だいたい、それほど記憶力の乏しい人に、都知事の重責は担えるものなのか。

2020年東京五輪の招致に成功した9月、猪瀬氏は得意の絶頂にあった。日本中が喜びに沸き、その輪の中心に都知事の姿があった。安倍晋三首相をはじめとする政府や経済界、オリンピック、パラリンピックの選手らスポーツ界の力が結集した招致活動の牽引(けんいん)役として「私が知事だからできた」という趣旨の発言もあった。

それが完全なブレーキ役となり、せっかくの成果を台無しにしようとしていた。

大会組織委員会の設立期限は来年2月に迫っている。年内には組織委の理事長人事を決定し、1月中旬には一般財団法人としての設立登記を行う予定だったが、猪瀬氏の問題で政府もスポーツ界も、都との間で調整の場を設けられずにいた。

猪瀬氏自身も副理事長として組織委の理事会メンバーに入る予定だったが、すでに猪瀬氏を除外したうえでの設立準備が進められているという。

だが都知事は組織委理事長とともに、五輪の顔となるべき存在だ。2月のソチ(ロシア)冬季五輪には、開催都市の首長として出席する予定もあった。組織委から除外すればいいというわけにはいかなかった。

予算の編成など待ったなしの課題は山積している。知事の辞任なしに首都は動けなかったのだ。

この記事へのコメントはありません。

この社説へのコメントをどうぞ。
お名前
URL
コメント

この記事へのトラックバックはありません。

トラックバックはこちら
http://shasetsu.ps.land.to/trackback.cgi/event/1643/