イタイイタイ病 「全面解決」までの長い道のり

毎日新聞 2013年12月19日

イタイイタイ病 あまりに長い解決の道

カドミウム汚染によって富山県の神通川(じんづうがわ)流域で発生した四大公害病の一つ、イタイイタイ病をめぐり、原因企業の三井金属鉱業が、公害病認定の対象とされていない腎臓障害の発症者に一時金として1人60万円を支払うことで被害者団体と合意した。これで問題が全面解決したことを確認し、被害住民は三井金属の謝罪を初めて受け入れた。

一時金の対象は500~1000人とみられ、今後の健康調査の結果で増える可能性もある。イタイイタイ病が国内で初めて公害病と認定されてから45年がたち、これまでに196人が患者に認定されたが、高齢化が進み、生存しているのはわずか3人だ。決着したとはいえ、あまりにも長い年月だ。

イタイイタイ病の発生は1910年代にさかのぼる。鉱山から川に排出されたカドミウムが原因で、汚染された米を食べた住民らが骨軟化症を発症した。体のあちこちが骨折し、「痛い、痛い」と泣き叫んだことから、この病名がついた。

国は、腎臓障害が重度になり、骨軟化症を引き起こすと患者と認定してきたが、腎臓障害だけでは「ただちに日常生活に支障が出るわけではない」と健康障害とは認めてこなかった。国が幅広い認定のあり方を考えていれば、これだけの時間をかけずに救済を実現することができたのではないか。

四大公害病で司法が初めて原因企業の責任を認めたのが、イタイイタイ病に対する71年の富山地裁判決だ。判決の確定を受けて被害住民は三井金属と公害防止協定を結び、鉱山に毎年、立ち入り調査して排水状況などを監視した。その結果、神通川のカドミウム濃度は自然界レベルにまで回復した。環境を元に戻すことも求め、約860ヘクタールに上る汚染農地の土壌入れ替え作業も完了した。

長年にわたる三井金属の汚染防止の取り組みが、被害住民との信頼関係を構築し、今回の合意につながったと評価できよう。

四大公害病のうち三重県の四日市ぜんそくは、工場の排煙規制などで新たな発症を抑えた。一方、熊本、鹿児島両県と新潟県で発生した二つの水俣病は、国の厳格な認定基準が「患者切り捨て」と批判され、全面救済の道筋がいまだに見えない。すべての公害問題が終わったわけではない。

今回の合意書は、イタイイタイ病の惨禍と汚染防止の取り組みの経験は「地球環境対策に大きな教訓と意義を持つ」とうたった。健康を犠牲にした結果得た教訓を世界に伝えていくことが私たち日本人の責務だろう。企業の海外進出が進む今日、環境対策を優先する経営姿勢が一層求められている。

読売新聞 2013年12月19日

イタイイタイ病 「全面解決」までの長い道のり

公害病と認定されてから45年、「全面解決」までの道のりは、あまりに長かった。

富山県の神通川流域で発生したイタイイタイ病を巡り、被害者団体と原因企業の三井金属鉱業が被害者救済の合意書に調印した。三井金属鉱業は初めて正式に謝罪した。

被害者の高齢化が進む。他界した人も少なくない。被害者と原因企業が歩み寄り、全面解決を実現させたことを評価したい。

環境省の基準でイタイイタイ病と認定されず、救済から漏れていた被害者に、三井金属鉱業が1人当たり60万円の一時金を支払うのが、合意書の柱だ。

認定患者への賠償金1000万円とは大きな開きがある。早期解決を目指してきた被害者たちにとって、解決案の受け入れは苦渋の決断だったろう。

一時金は、イタイイタイ病の前段症状である腎機能低下の度合いなどで、条件を満たした人が対象となる。該当者は1000人近くに上るとみられる。

三井金属鉱業には、可能な限り多くの人を救済する姿勢で臨むことが求められる。

イタイイタイ病は、水俣病、新潟水俣病、四日市ぜんそくとともに4大公害病に数えられる。体の骨が折れやすくなり、患者が「痛い、痛い」と泣き叫んだことから、病名が付いた。1968年、日本初の公害病に認定された。

原因は、神岡鉱業所(岐阜県)から排出された重金属のカドミウムだ。汚染流域で収穫されたコメなどを通じて被害が広がった。

三井金属鉱業は、認定患者への賠償金支払いに加え、汚染地域の土壌改善などに取り組んできた。汚染された農地の復元事業は昨年、ようやく終了した。

いったん公害を引き起こすと、被害者救済や環境の回復に長い年月と多くの費用を要する。イタイイタイ病の教訓である。

環境省の患者認定基準が、早期の幅広い救済を阻んだと言えよう。重症化し、骨軟化症にならないと、イタイイタイ病と認定されないため、比較的、軽症の人が置き去りにされる結果となった。

認定のハードルが極めて高いという点では、水俣病も同様だ。

最高裁は4月、環境省の基準で認定を退けられたケースについて、水俣病患者と認める判断を示した。被害者救済を巡る争いは、今なお続いている。

水俣病問題でも、被害者をはじめ、当事者同士の歩み寄りが何よりも求められる。

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