国家安保戦略 日本守り抜く体制を構築せよ

毎日新聞 2013年12月18日

安保戦略と防衛大綱 むしろ外交力の強化を

安倍政権は、外交・安全保障の基本方針を包括的に示した初の国家安全保障戦略を閣議決定した。戦略に基づいて向こう10年程度の防衛力整備のあり方を定めた防衛計画の大綱と、5年間の具体的整備計画となる中期防衛力整備計画も決めた。

浮かび上がるのは、安倍晋三首相が提唱する積極的平和主義の理念のもと、中国の台頭と沖縄県・尖閣諸島など日本周辺の海や空での活動拡大、北朝鮮の軍事力増強に対応するため、防衛力強化を加速させる日本の姿だ。必要な防衛力を整備するのは当然だが、中国に対抗して東アジアの軍拡競争を招くようでは困る。外交力を強化し、周辺諸国との関係を改善することで安全保障環境を好転させる努力を怠ってはならない。

外交・安全保障政策に関する戦略を包括的にまとめた文書は、米国、オーストラリア、英国、韓国などが持っているが、日本にはなかった。1957年に岸信介内閣が閣議決定した国防の基本方針はあるが、国連の活動支持など4項目をあげているに過ぎない。国家安全保障戦略はこれに代わるものとなる。安保戦略の構築自体は理解するが、今回の戦略には懸念がある。

戦略では、安全保障政策を支えるには国民の理解など社会的基盤を強化する必要があるとして、「我が国と郷土を愛する心を養う」ことが盛り込まれた。そのための施策を推進するとしており、政府高官によると学校教育や社会啓発活動を検討しているという。

愛国心をめぐっては、国防の基本方針に「民生を安定し、愛国心を高揚」と書かれていることもあり、安保戦略の策定過程で自民党が明記を求めたのに対し、公明党が愛国心条項を盛り込んだ2006年の教育基本法改正時の議論を踏まえて、表現の緩和を求めた経緯がある。

私たちは、愛国心が大切なことに異論はない。だが国の愛し方は人それぞれだ。学校教育などを通じて愛国心を押し付けたり、従わない者が批判されたりする事態につながるなら容認できない。戦前・戦中のように国家主義的発想で国民の自由と権利を制約しようという考え方があるのだとしたら、大きな間違いだ。首相は愛国心の明記によって何を目指すのか、国民の誤解や疑心暗鬼を招かないよう説明すべきだ。

また戦略では、武器輸出三原則を緩和する方向で見直し、新たな原則を定めることが盛り込まれた。三原則の理念を堅持したうえで、いかに厳格な基準や審査体制が確立できるか具体策はこれからだ。慎重な検討を求めたい。

読売新聞 2013年12月18日

国家安保戦略 日本守り抜く体制を構築せよ

◆「積極的平和主義」の具体化が急務

日本の安全保障環境は近年、急速に悪化している。東アジアの平和と安全の確保へ、包括的かつ体系的な指針を初めて定めた意義は大きい。

政府が国家安全保障戦略を決定した。1957年の「国防の基本方針」に代わる歴史的文書だ。

今月上旬に発足した国家安全保障会議(日本版NSC)が策定した。防衛力だけでなく、外交・経済・技術力など国の総合力を駆使し、国益を守る道筋を描いたことは、画期的だと言える。

戦略は、国際社会とアジアの平和と安定に積極的に寄与するという「積極的平和主義」を基本理念に掲げている。

◆NSC主導で国益守れ

北朝鮮は核・ミサイル開発を進展させ、軍事的挑発を繰り返す。中国は軍備を急速に増強・近代化し、防空識別圏の設定など、尖閣諸島周辺で「力による現状変更」を試みている。国際テロやサイバー攻撃への警戒も怠れない。

日本単独で自国の安全を維持するのは難しい。世界と地域の平和に貢献することで、周辺情勢は改善され、米国など関係国との連携が強化される。日本の安全保障にも役立とう。

日本が国際社会の主要プレーヤーの地位にあれば、海洋活動や自由貿易など、様々な国際ルール作りで発言権を確保できる。

そのために重要なのが、「積極的平和主義」の推進だ。

戦略は、日本の平和、更なる繁栄などを国益と定義し、大量破壊兵器の拡散、中国の台頭といった課題を列挙した。総合的な防衛体制の構築、日米同盟の強化などの戦略的アプローチも明示した。

NSCが主導し、この戦略を具体的な政策にきちんと反映させることが急務である。情勢の変化に応じて、戦略を修正し、より良い内容に高めていくサイクルを作り出す努力も欠かせない。

戦略が、安全保障の国内基盤を強化するため、国民が「諸外国に対する敬意を表し、我が国と郷土を愛する心を養う」方針に言及したのは前向きに評価できる。

安倍首相は、新たな外交・安保政策について「国民、海外に対し透明性をもって示す」と語った。中国の独善的な外交手法との違いを明確化するためにも、内外に丁寧な説明を行うことが大切だ。

◆「統合機動防衛力」整備を

安保戦略と同時に閣議決定された新しい防衛大綱は、「統合機動防衛力」という概念を打ち出した。2010年策定の現大綱の「動的防衛力」を発展させたもので、機動力に加えて陸海空3自衛隊の一体運用を重視するという。

平時と有事の中間にある「グレーゾーンの事態」への対処を強化し、防衛力の「質」と「量」の両方を確保する方向性は妥当だ。

冷戦後、日本本土への着上陸侵攻の恐れはほぼ消滅したが、離島占拠、弾道ミサイル、テロなど、新たな脅威が出現している。警戒監視活動を強化し、制海・制空権を維持するには、「質」と同様、「量」も確保せねばならない。

新大綱が、減少が続いていた護衛艦や戦闘機の数を増加に転じさせたのは適切である。無人偵察機グローバルホークの導入や早期警戒機の増強を急ぎたい。

新大綱は、離島防衛の強化に力点を置き、陸上自衛隊への新型輸送機オスプレイの導入や水陸両用部隊の新設を明記した。

離島防衛には、迅速に部隊を動かす機動力の向上が重要だ。様々なシナリオを想定し、米軍との共同訓練を重ねるとともに、グレーゾーンの事態における武器使用のあり方を検討する必要がある。

疑問なのは、陸自の定数を現大綱の15万4000人から5000人増やしたことである。

厳しい国家財政の下、防衛予算の大幅な伸びは期待できず、防衛力整備のメリハリが不可欠だ。新大綱は、戦車・火砲を減らしたように、優先順位の低い分野は合理化すべきだった。北海道の陸自定数維持は過疎対策ではないか。

◆集団的自衛権を可能に

敵の弾道ミサイル基地などを攻撃する能力の保有については、検討を継続することになった。

日本単独で攻撃するのでなく、日米同盟を補完するにはどんな能力を持つのが効果的か、しっかり議論を深めることが肝要だ。

集団的自衛権の憲法解釈の見直しも、残された課題である。

「積極的平和主義」の具体化や日米同盟の強化には、集団的自衛権の行使を可能にすることが必要だ。来年の通常国会閉幕後に結論を出せるよう、安倍政権は、行使に慎重な公明党や内閣法制局との調整に入るべきである。

産経新聞 2013年12月18日

安保戦略と新大綱 中国見据え守り強めよ

■残念な「集団的自衛権」見送り

日本周辺の安全保障環境の悪化をにらみ、自衛隊を質量ともに強め、自国と国民を守り抜く基本的な枠組みがようやく整った。

今後10年間の外交安保政策の指針となる「国家安全保障戦略」とそれに基づく新しい「防衛計画の大綱」、さらに来年度から5年間の「中期防衛力整備計画」が閣議決定された意味合いである。

この戦略は昭和32年に定めた国連活動を支持するなどの「国防の基本方針」に代わるものだ。一国平和主義の殻に閉じ籠もることなく、国際社会の平和に貢献しようという「積極的平和主義」を打ち出した。戦後日本の防衛政策の転換でもあり、高く評価したい。

◆戦後防衛政策の転換点

安倍晋三首相は「国民の安全を守るための基本的な戦略を決定した」と語った。その具体化が、軍事的台頭が著しく、力による現状変更を狙う中国などに対し、「防衛力の『質』及び『量』を必要かつ十分に確保し、抑止力と対処力を高めていく」ことだ。国民が抱く不安を考えれば当然といえる。

安保戦略は、中国の海洋進出や「防空識別圏」の設定、尖閣諸島周辺での領海侵入、領空侵犯を「力による現状変更の試み」であると強く批判し、「国際社会の懸念事項」だと指摘している。

こうした動きに対峙(たいじ)するため、防衛力のコンセプト「統合機動防衛力」を打ち出し、陸海空の3自衛隊の部隊を必要な方面へ迅速に集中させる態勢をとることで尖閣を含む南西防衛力を強化する。

海空における優勢を保つことが明記されたことも画期的だ。陸上自衛隊は、占領された離島を奪還するための「水陸機動団」を新設する。中国の巡航ミサイルを念頭にしたミサイル防衛能力の向上策も盛り込まれた。

有事でも平時でもないグレーゾーンにおける危機への懸念も強調されている。尖閣に中国の海上民兵などが上陸して占拠したケースでは、自衛隊に領域警備の権限を与える法整備が必要だ。具体策はなく早急な対応が肝要だ。

安倍政権が普通の民主主義国らしい安全保障体制を整えようとしていることも支持したい。

武器輸出三原則に基づく事実上の禁輸政策を見直し、適正な管理下におく方針も打ち出した。武器の国際共同開発や、国内の防衛技術基盤の確保につながる現実的な施策をさらに強化すべきだ。

中期防の所要経費は5年間で24兆6700億円。うち7千億円は、防衛省の調達コスト削減で捻出し、実際の防衛予算の総額は23兆9700億円となる。平成22年に民主党政権が作った前計画は23兆4900億円で、今回の中期防は増額だ。削減過程にあった陸自の定数は15万9千人とし、前回大綱の完成予定時より5千人増やした形だが、実際には25年度末の実数の据え置きだ。

◆抑止力に必要な予算を

防衛予算の増額を図る姿勢は評価できる。任務が増す一方の自衛隊にとり、予算と兵員数の確保は生命線だ。中国などへの十分な抑止力を持つ必要がある。中期防の3年後の見直し規定で柔軟に運用すべきだ。しかし、これらの安保戦略などによって、日本の平和と安全は万全かといえば、そうではない。

安全保障の基軸をなすのは日米同盟である。日米共同の抑止力を強化するため、集団的自衛権の行使容認が欠かせないが、政府は憲法解釈でまだ認めていない。国際平和協力活動での自衛隊の武器使用基準の緩和も遅れている。

これらにどう取り組むか、安保戦略などは言及しなかった。安倍首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」で、まさに議論していることが理由とされている。

菅義偉官房長官は会見で、集団的自衛権の行使容認について「来年度以降の課題だ」と述べたが、特定秘密保護法制定に伴う内閣支持率の低下が影響しているのだとしたら残念である。

憲法上は合憲でも、外国の弾道ミサイル発射基地をたたく敵基地攻撃能力の保有について、大綱は検討事項にとどめた。公明党が慎重で政治的ハードルは高い。

しかし、安保戦略に盛り込まれなかった課題を実現し、はじめて国の守りが整うことを忘れてはならない。憲法9条改正により自衛隊の軍としての位置づけを明確にすることが当然必要である。

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