首相インド訪問 南の巨人と手を携えて

朝日新聞 2009年12月28日

首相インド訪問 南の巨人と手を携えて

来年度予算案編成の大仕事を終えた鳩山由紀夫首相が、インドへ旅立った。年末という異例の時期の訪問だが、この南アジアの大国との首脳外交は待ったなしだ。世界での存在感を急速に増すインドと結びつきを深める意味は大きい。

インドは、情報技術(IT)産業を原動力に国内総生産でアジア3位にまで成長してきた。世界金融危機後も11億を超す人口を背景に旺盛な国内需要に支えられ、2009年度も6%を超す成長を保つ見込みだ。「世界最大の民主主義国」であり、主要20カ国・地域(G20)では、中国とともに新興国を代表する存在である。

「東アジア共同体」構想を掲げる鳩山政権は、「開かれた地域主義」を原則に経済連携やエネルギー、環境などで個別の協力を域内で積み重ねていく方針だ。こうした地域協力の大きな絵を描くには、発展する巨人インドとの密接な連携が欠かせない。

鳩山首相はシン首相と地域協力のあり方について、じっくり意見を交わしてもらいたい。

その一方でインドは、多国間外交の場で自国の利益を強烈に主張する手ごわい相手でもある。気候変動の枠組み条約締結をめぐる国連の会議でも、世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンドでも、中国とともに途上国の利益を前面に押し出し、先進国とぶつかり合ってきた。

しかし、WTOの枠組みを使ったIT産業などサービス業の自由化はインドの大きな利益になる。地球温暖化を放置すれば、干ばつなどでインドでも貧困が広がる。このため貿易自由化や温暖化の問題でより柔軟な対応を図ろうとする動きは、インドの政権内にも出てきている。

これを後押しし、インドが新たな主要国としての責任を自覚したうえでグローバルな問題でより建設的な役割を果たすよう促していくのは、日本の役割でもある。

アフガニスタンやパキスタンを安定させるための連携や、核不拡散をめぐる協議も重要だ。

とくに核保有国であるインドは、包括的核実験禁止条約(CTBT)の署名を拒み、エネルギー資源に乏しいことから原子力発電拡大のための国際協力を求めている。だが、日本は核不拡散条約(NPT)体制の弱体化を認めるわけにはいかない。鳩山首相はこの原則をきちんと伝える必要がある。

グローバルな舞台で戦略的連携を図るにも、日本にとってインドはまだまだ影が薄い。08年の日本とインドの貿易総額は、日中間の20分の1に過ぎない。物やサービスの自由化をめざす経済連携協定(EPA)の交渉を進めることなどを通じて、交流拡大の土台づくりを急ぎたい。

毎日新聞 2009年12月30日

日印首脳会談 地球的課題でも連携を

鳩山由紀夫首相はインドのシン首相とニューデリーで会談し、政治、経済、安全保障などの分野で協力を強化していくことで一致した。安全保障協力促進のための行動計画を盛り込んだ共同声明にも署名した。

インドは急速な経済成長を背景に国際社会で発言力を増し、それに伴って地球温暖化対策や核軍縮・不拡散、世界経済などの問題でカギを握る存在になっている。日印の協力関係を、国際社会が直面している地球規模の課題に対する取り組みにも生かしていきたい。

インドの成長には目を見張るものがある。経済規模はアジア3位で、過去3年の平均経済成長率は8・5%にのぼる。豊富な労働人口に、中間所得層の増大という新たな強みが加わり今後の一層の発展に大きな潜在力を持っている。

両国間の首脳往来は05年の小泉純一郎首相(当時)の訪印以降、毎年続いている。06年には両国関係を「戦略的グローバル・パートナーシップ」と位置づけ協力分野の拡大を図ってきた。

しかし、貿易・投資や人の交流はまだ限定的だ。07年に交渉が始まった両国間の経済連携協定(EPA)については、今回も交渉加速を確認するにとどまった。インドは韓国とEPA、東南アジア諸国連合(ASEAN)とは自由貿易協定(FTA)を締結済みで、いずれも年明けに発効する。シン首相は会談後の記者会見で「来年の首脳会談までの妥結を希望する」と語った。双方の一層の努力が必要だ。

インドは中東原油に依存する日本にとって海上輸送ルートの安全確保面でも重要な位置にある。安全保障に関する行動計画には外務・防衛次官級による定期対話のほか、インド洋の「海上安全保障対話」の実施も盛り込んだ。実効ある対話システムにしてもらいたい。

日印協力の促進と同時にインドに望みたいのは、地球規模の課題に対する積極的な取り組みである。

インドは核拡散防止条約(NPT)に加盟せずに核を保有している。先の国連総会では核兵器全廃決議案に北朝鮮とともに反対した。

鳩山首相が会談で核実験全面禁止条約(CTBT)の批准を促したのに対し、シン首相は「米国、中国が署名すれば新たな状況になる」と答えた。ぜひ前向きに取り組んでほしい。

地球温暖化問題に関しては共同声明に「国連気候変動枠組みの下での交渉において緊密に協力する決意を再確認した」と記した。京都議定書に代わる新議定書策定に向けた柔軟な対応を求めたい。鳩山首相もインドへの働きかけをより強めるべきである。

読売新聞 2009年12月29日

首相インド訪問 新たな大国との関係強化を

鳩山首相が、年末の慌ただしい時期に選んだ外国訪問先は、南アジアの大国インドだ。

中国を追うように経済成長著しいインドは、中東と東アジアを結ぶ要路に位置する。経済連携や安全保障協力などを進め、日印関係を戦略的に強化していくべきだ。

インドは年率8%の経済成長を続け、世界第2の人口を有する。先進国にとっては魅力的な経済市場だ。日本の進出企業も過去3年間で3倍に増えた。

だが、日印間の貿易総額はいまだに低水準で、日中間と比べると約20分の1の規模だ。

鳩山首相が首都ニューデリーに入る前に商都ムンバイを訪れ、経済界の代表らと会談したのも、日印経済関係をいっそう強化したいとの強い意欲の表れだろう。

インドは社会基盤の整備が不十分で、それが投資拡大の阻害要因と言われる。ニューデリー・ムンバイ間の貨物鉄道建設など大型プロジェクトに対する経済援助を着実に実施することが重要だ。

経済連携協定(EPA)の交渉も加速すべきだ。

インド側は、後発医薬品の承認手続きの簡素化や関税撤廃品目の積み増しを求めている。厚生労働省や農林水産省は消極的だが、関係閣僚は、何を譲り、何を守るのか、官僚任せにせずに交渉方針を検討してもらいたい。

韓国は今年夏、インドとのEPA署名にこぎつけた。韓国企業が先んじて有利な条件でインドに進出できるようになることも、十分意識すべきだろう。

きょう行われる日印首脳会談では、外務、防衛両省の次官級による安全保障定期協議の新設で合意する予定だ。将来的には閣僚級への格上げも想定している。

中東と東アジアを結ぶシーレーン(海上交通路)の安全確保は、エネルギーや食糧の多くを海外に依存する日本にとって、死活的に重要だ。海賊情報の共有や共同パトロールなど、具体的な協力方法を探ってほしい。

インドは東アジア首脳会議を核とした地域協力でも重要なパートナーだ。

一方、世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉や気候変動問題では、インドは中国とともに途上国側に立った言動を繰り返し、日本を含めた先進国と対立する場面が目立っている。

インドが新しい大国にふさわしい建設的役割を果たすよう、日本としても粘り強く働きかけていく必要がある。

産経新聞 2009年12月31日

日印安保協力 米国の大切さ再認識せよ

鳩山由紀夫首相はシン・インド首相との首脳会談で、外務、防衛次官級定期協議の開催を柱とする安全保障協力や防衛交流を促進する行動計画に合意した。

インドは日米と価値を共有し、テロとの戦いや海賊対策、シーレーン防衛でも利害が一致する。次官級協議は閣僚級協議(2プラス2)を見据えたもので、日本が米以外の国と行うのは豪州に次ぐ。中国の軍事的台頭を牽制(けんせい)する意味からも日印安保協力の拡大と深化に期待したい。

ただし、日米豪印の戦略的協力を発展させる主軸はあくまで日米同盟だ。鳩山首相は米国の存在と役割を再認識し、日米の信頼回復と強化に力を注ぐべきだ。

10億人超の人口を抱えるインドは、中国とともにアジアと世界で存在感を高めてきた。安保・防衛面に加えて、経済連携協定(EPA)交渉、気候変動、核不拡散、産業・技術提携など日本と協力可能な分野は幅広い。インドが拒んでいる包括的核実験禁止条約(CTBT)批准問題では、さらに日本が説得を続ける必要がある。

今回合意した次官級安保協議の立ち上げは昨年10月、麻生太郎前首相とシン首相が署名した共同宣言に基づく。当面は(1)中東と東アジアを結ぶシーレーン防衛(2)海賊対策(3)災害救援などが柱だ。

オバマ米大統領も先月末の首脳会談で「米印は不可欠のパートナー」と、戦略的協力の強化に踏み込んだ。アジア太平洋で自由や民主主義などの価値を共有する日米豪印4カ国が重層的協力を深めるのは自然な流れといっていい。

問題はそうした戦略的発想の一貫性と継続性が首相に問われていることだ。日印協力の道は旧自民党政権下で始まり、安倍晋三元首相訪印(07年夏)や麻生前首相の首脳会談などが土台になった。鳩山首相がこの路線の継続を決断したのは当然だろう。

半面、首相が「シーレーンや海賊対策で合意ができたのはよかった」と喜んだ割合には、米国がこの分野で果たす役割の認識が極めて不足していないだろうか。

インド海軍と海上自衛隊の連携と協力をとっても米国の側面支援が大切になる。それなのに、在日米軍再編問題などで米国の対日不信は深まり、「気まぐれ首相に懸念と不信」(米紙)との指摘も出た。日本の安全と国益のために、首相には日米同盟を最優先する判断をきちんと示してほしい。

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