TPP交渉 日米対立が招いた合意先送り

毎日新聞 2013年12月12日

TPP交渉越年 日米は打開に知恵絞れ

環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の閣僚会合は、交渉決着を来年に持ち越した。「年内妥結」の目標が失われたことで早期合意への機運がそがれるおそれがある。

TPPは、大きな成長が期待できるアジア太平洋地域の貿易・投資ルールを決める大切な枠組みだ。成功に導くためには、経済大国である日本と米国が、交渉の打開に向けて知恵を絞る必要がある。

閣僚会合では国営企業と民間企業の条件をそろえる「競争政策」や新薬の独占販売期間などに関する「知的財産権」分野を中心に米国と新興国が対立。関税撤廃を巡る日米協議でも両国の溝は埋まらなかった。

交渉の鍵を握っているのは、そうした難航分野で各国と対立する米国だ。米国は来年1月のオバマ大統領の一般教書演説で実質合意をアピールするために決着を急ぎ、交渉を主導してきた。そこで各国は、米国が今回の会合で一定の譲歩を示すことに期待を寄せていた。

しかし、財政赤字削減策をめぐる議会の混乱などで米政権の基盤が弱まった。そのために議会や経済界、農業団体からの圧力を抑えられなくなり、譲歩する余地は狭まった。今回の会合で米国は自国の要求を強硬に主張し、他国の国内事情にはほとんど理解を示さなかった。その結果が年内妥結の見送りといえる。

交渉を進めるには日米の協調が欠かせない。ところが、フロマン米通商代表部(USTR)代表は日本に対し、例外なき関税撤廃を求め続けた。それに対して、西村康稔(やすとし)副内閣相はコメなど「重要5項目」の関税維持を主張し、「一ミリも譲れない」と突っぱねたという。これでは歩み寄りの兆しも見えない。

交渉ごとである以上、簡単に手の内を見せられないことは理解できる。しかし、このままでは交渉全体の行方に暗雲が漂う。TPPは、貿易・投資の幅広い分野で高いレベルの自由化を目指す枠組みのはずだ。各国が自国事情で内向きになっていたのでは、成功はおぼつかない。

先日、韓国がTPP参加に向けて動き出した。背景には、日本のTPP参加によって韓国メーカーが劣勢に立たされるとの懸念があるとされる。裏返せば、日本にとってはそれだけ早期妥結が大切だといえる。

重要5項目は詳しく見ると586品目ある。国内農業への打撃が大きな品目に絞り込むなど、交渉の余地を広げる努力が求められる。

TPPには中国をけん制する意味もある。米国にとっても重要であるはずだ。相手の譲歩を引き出すには自らも譲る必要がある。厳しい国内情勢を踏まえながら、交渉前進に貢献する知恵を絞るべきだ。

読売新聞 2013年12月11日

TPP交渉 日米対立が招いた合意先送り

日米などの対立が解けず、アジア太平洋地域での新たな自由貿易圏作りの合意は、来年に先送りされた。交渉の前途は多難である。

シンガポールで開かれていた環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の閣僚会合が閉幕した。

日米、豪州など12か国は、当初目指した年内妥結を断念し、「交渉の妥結に向けて集中的に作業を続ける。閣僚会合を1月に開く」との声明を発表した。

オバマ米政権は年内合意を最優先し、フロマン通商代表が、日本や新興国に関税撤廃や市場開放を求める圧力をかけ続けた。

しかし、参加国の利害が複雑に絡み合う交渉のとりまとめは難しい。米国の思惑通りに進まない現実を浮き彫りにしたと言える。

とくに鮮明になったのが日米両国の対立だった。全体の交渉も停滞させた印象が否めない。

自民党はコメ、麦など農産品5項目を関税撤廃の聖域扱いとするよう主張している。これを踏まえた日本は、全品目の関税撤廃を求める米国の要求を拒否した。

その代わり、全品目のうち関税撤廃に応じる自由化率を約95%に引き上げる譲歩案を提示した模様だが、米国は拒んだという。

一方、米国車の販売拡大を目指す米国が日本市場での自動車の安全や環境の基準緩和を求めた点では、日本が拒否を続けた。

来年11月の中間選挙を控え、TPP合意を成果としてアピールしたいオバマ政権には、安易に妥協できない事情があるのだろう。

だが、日本も守りに徹するだけでなく、成長著しいアジアの活力を取り込み、成長に弾みをつける攻めの姿勢が必要である。

一層の市場開放を求められる農業の競争力強化を図りつつ、TPPを軸に自由貿易を推進する戦略を練らなければならない。

シンガポールでの妥結を断念した一因として、知的財産権や競争政策を巡り、米国と、マレーシア、ベトナムなど新興国が激しく対立した事情も挙げられる。

12か国の対立は根深く、1月の閣僚会合での決着は楽観できない。米国がどこまで柔軟に対応できるかが最大の焦点になろう。

注視すべきは、TPPへの参加意向を表明した韓国の動きだ。

韓国の合流には12か国の同意が必要で、早くても来春になるが、日本はその前に貿易ルール作りを主導して早期妥結を図り、先行メリットを生かしたい。

国益の追求へ、したたかな交渉力が日本に求められる。

産経新聞 2013年12月12日

TPP交渉越年 期限を設け早期の妥結を

ずるずると交渉を長引かせていいのか。

年内妥結を目指した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉は、閣僚会合でも対立を解消できず越年することになった。来年1月に再び閣僚会合を開くが、新たな妥結の目標期限はない。

このまま歩み寄りをみせず、参加国全体の交渉機運がしぼんでしまうことが心配だ。まずは新たな期限を設け、早期に合意を得られるよう交渉を加速しなければならない。

閣僚会合では関税撤廃や知的財産保護、国有企業改革など難航分野の溝が埋まらなかった。

関税分野の停滞は日米間の対立が大きく影響した。コメなど重要5分野の関税維持を目指す日本に対し、米国が全品目の関税撤廃要求を譲らなかったためだ。

来年秋の中間選挙をにらんだ、オバマ政権の実績作りのためだろう。年が明け、中間選挙が近づくにつれて、米国がさらに強硬な姿勢を見せるようでは困る。

利害がぶつかり合う経済連携交渉で安易な妥協は禁物だが、事態が打開できず、交渉が頓挫すれば、それこそ日本の国益に反することを忘れてはなるまい。

日本がTPP交渉に参加したのは、アジア太平洋地域の発展を取り込み、日本の成長につなげるためだ。日米主導で新たな貿易・投資ルールづくりを進め、急速に台頭する中国を牽制(けんせい)する意味合いも大きい。

米国は日本だけでなく、国有企業の優遇策撤廃などで新興国とも対立している。年内妥結を阻んだ最大の要因は、海外での自国企業の利益ばかりを追求する米国の強硬姿勢だったとの批判もある。

TPPは、経済発展段階の異なる12カ国による経済連携だ。米国には、自国の価値観ばかりではなく、他国の事情を十分に踏まえた柔軟な交渉姿勢に転じることを期待したい。

TPP交渉の次の節目は、オバマ大統領がアジアを歴訪する来年4月とみられる。こうした時期を見据え、新たな交渉妥結の目標期限を設定したい。

韓国も交渉参加に意欲をみせている。合流するとすれば来春以降となる見通しだが、これを待てば交渉妥結はさらに遅くなることが予想される。

日本は米国に歩み寄りを求めるなど、早期妥結に向けた交渉を主導すべきだ。

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