消費増税対策 民間も成長へ全力尽くせ

毎日新聞 2013年12月13日

軽減税率 10%と同時に導入せよ

食料品など生活必需品の消費税率を低くする軽減税率について、自民党と公明党は2014年度与党税制改正大綱に「税率10%時に導入する」と盛り込んだ。

導入に消極的な自民党と積極的な公明党の溝が埋まらず、玉虫色の決着だとの見方があるが、あいまいな解釈は許されない。そもそも今年1月の自公の合意文書は「10%引き上げ時に導入を目指す」と明記されていた。これまでの議論の経緯をふまえれば、「10%に引き上げた時点」で、同時に軽減税率を導入するのが当然だ。政府・与党はそのために必要な協議や対策、手続きをすぐに始めなければならない。

消費税は低所得層ほど家計への負担が重くなる逆進性がある。このため政府は来年4月に8%に引き上げる際、低所得層に給付金を支払うが、これは暫定的な措置にすぎない。その点、軽減税率は恒久的な低所得者対策であり、消費税率が10%に上がってさらに家計への負担が増すときには不可欠である。導入に消極的な自民党は低所得者への配慮に欠けている。

さらに問題なのは、大綱で「必要な財源を確保しつつ」との表現が付け加えられたことだ。軽減税率導入による減収分を補う財源が確保できない場合は、導入自体を見送る可能性を残した。今年1月の自公合意でも、財源問題は「協議すべき課題」だったが、大綱はよりハードルを高めたと受け取れる。

消費税が長期にわたり安定的な税として機能していくうえで、軽減税率は不可欠な制度だという視点が抜け落ちている。一時的な税収の落ち込みにとらわれるべきではない。消費税を10%に引き上げても、増え続ける社会保障費には足りないのが現実だ。税率を10%よりさらに引き上げる検討を迫られる時も来るだろう。それを想定すれば、軽減税率を早期に導入して、国民の理解を広めておかなくてはならない。

自公両党は1月の合意以降、与党税制協議会で軽減税率について検討する時間があったのに、実際には、日本商工会議所など関係する経済団体からの意見聴取を繰り返したにすぎない。事務作業の負担が重くなる事業者に配慮した議論を進めてこなかったせいで、予想通り事業者には反対の声が多かった。

大綱には、軽減税率の対象品目や区分経理の制度など内容を検討し、来年末までに結論を得ると明記された。直ちに具体的な議論を始め、制度の詳細を固めるべきだ。事業者の反対に耳を傾けることは必要だが、実際に税金を負担する立場の消費者は多くが軽減税率導入を求めていることを忘れてはならない。

読売新聞 2013年12月13日

与党税制大綱 家計と景気への目配り十分か

◆消費税10%と同時に軽減税率を

来年4月に消費税率を8%に引き上げた後、個人消費の失速を招かないか。景気下支えに課題を残したと言えよう。

自民、公明の与党は2014年度の税制改正大綱を決めた。政府の来年度の予算案と、税制改正法案を裏付けるものだ。

低所得者対策として、食料品などの消費税率を低く抑える軽減税率の導入時期の決定を見送ったほか、会社員を対象にした増税などを盛り込んだ。家計の負担を増やすメニューが目立つ。

◆導入時期は曖昧なまま

最大の焦点は、政府が15年10月に予定通り消費税率を8%から10%へ上げる場合、同時に軽減税率を導入するかどうかだった。

与党は今年1月、10%増税時の「導入を目指す」と合意した。

だが、今回の大綱は「必要な財源を確保しつつ、事業者を含む国民の理解を得た上で税率10%時に導入する」と記し、「14年12月までに結論を得る」ことにした。

導入に「国民の理解」などの条件を付けた意味は重く、「10%に引き上げと同時」とも「10%に引き上げ後のいつか」とも解釈できる。

導入に慎重姿勢を崩さない自民党と、10%への増税の時期と合わせて食料品や新聞などを対象に導入すべきだとする公明党との妥協の産物にほかならない。

軽減税率は、低所得層を含む国民全体の税負担を幅広く和らげて家計を下支えする。

今回の大綱が、軽減税率の対象品目など具体的な検討に踏み込めなかったのも問題である。

いたずらに対象品目や制度設計などの決定を遅らせてはならない。10%増税と同時の導入を速やかに決断すべきだろう。

今回、自民党税調と財務省は、軽減税率の導入には、商品ごとに税率や税額を記載したインボイス(税額票)が必要で、企業の事務負担が増すと指摘した。

ただ、今でも土地売買など非課税取引と消費税を課す取引は混在しており、公明党はインボイスは不要だと反論した。自民党税調と財務省は積極的に課題解決へ取り組むべきだったのではないか。

大綱は、会社員などの給与所得控除を削減し、所得税や住民税を増税する方針も盛り込んだ。16年から年収1200万円超の人を対象とし、17年からは1000万円超の人まで拡大する。

財務省の試算では、年収1500万円の場合、年7万~11万円の負担増となる見込みだ。将来の家計の負担増を見越し、消費意欲は減退する恐れがある。

消費増税で低所得者の負担感が増すため、与党は、高所得者への課税強化で不公平感を和らげることを狙ったようだ。

◆拙速な所得控除見直し

だが、控除見直しを巡る本格的な議論は、わずか1週間だった。自営業者と違い、収入を把握しやすい会社員を狙い撃ちするのでは「取りやすいところから取る」と批判されても仕方がない。

軽減税率の導入時期を示さない一方で、サラリーマン増税を即決したことに、不満を募らせる人も少なくないだろう。

自動車課税では、購入時に課す自動車取得税を来年度から段階的に縮小・廃止するための財源確保策として、軽自動車税の増税などを盛り込んだ。

軽自動車税は、小型車の税金に比べて納税者の負担が軽い。軽自動車も道路や環境に負荷をかける以上、受益者負担として引き上げられるのはやむを得まい。

成長戦略の目玉とされた法人税率の引き下げは、「引き続き検討を進める」と記しただけで、減税の時期や引き下げ幅などの具体論は深まらなかった。

しかし、経済対策で1年前倒し廃止が決まった復興特別法人税を除いても、日本の法人税は欧州やアジアの多くの国より高い。

◆法人税率引き下げ急げ

産業空洞化に歯止めをかけ、海外から投資を呼び込むため、税率の一層の引き下げが不可欠だ。検討の加速が求められよう。

復興特別法人税の前倒し廃止の恩恵を受ける企業は、収益向上を賃上げや雇用拡大につなげ、家計に波及させていくべきだ。

大綱は、大企業が取引先の接待などに使う交際費の5割までを税務上の経費(損金)として認め、非課税とする方針も掲げた。

これまで中小企業の交際費の一部について損金扱いを認めてきた措置を大企業に拡充する狙いは理解できる。企業が交際費を増やしやすくなることで、飲食店などの売り上げが伸び、消費増税の影響を抑える効果に期待したい。

産経新聞 2013年12月13日

軽減税率導入 「10%と同時」は不可欠だ 減収理由に先送り許されぬ

平成26年度の与党税制改正大綱がまとまり、生活必需品の消費税率を低く抑える軽減税率を導入する方針が盛り込まれた。

だが、肝心の導入時期は「消費税10%時」との表現にとどまった。これでは、10%への引き上げと同時に実施するのかどうかが不明確だ。

消費税率は来年4月の8%への引き上げを経て、27年10月に10%となる予定だ。累次の増税に対し、個人消費を支える家計の負担を和らげるため、軽減税率は不可欠なものである。

来年夏にも軽減税率の対象品目など制度の詳細を詰めるというが、その作業を加速するためにも、まず導入時期をはっきりさせなければなるまい。

≪世論調査で8割必要視≫

食料品や新聞などの消費税負担を軽くする軽減税率をめぐり、導入を強く求める公明党と、これに慎重な政府・自民党との間で最後まで綱引きが続けられた。最終的に「導入を目指す」にとどまっていた今年1月の大綱から踏み込み、導入そのものを盛り込んだ点は評価できる。

ただ、決裂を避けるため、自民党の主張を入れて、導入するのは「消費税10%への引き上げ後」とも読める「10%時」となった。さらに、導入する場合には、軽減措置によって税収が減る分の財源を確保することなどが、条件に加えられた。

代替財源を見つける十分な努力をしないまま、条件が整わないことを口実にして軽減税率が先送りされることになりかねない。

消費税増税に伴う低所得者対策に影響が出ることも考えておかなければならない。政府は税率8%への引き上げの段階で、住民税の非課税世帯を対象に原則1人1万円を1回限りで給付する。しかし、「10%」に伴う対策はまだ決めていない。

軽減税率を置き去りにする一方で、さらなる現金給付措置を実施するなら、効果は不透明で、ばらまきの恐れがあるとの批判は免れないだろう。

消費税増税は、安定的な社会保障財源の確保が目的だが、産経新聞とFNNが11月に実施した世論調査では、消費税が10%になる際に軽減税率が必要と回答した人が8割に達した。政府与党は消費税増税への強い不安を持つ国民の声に耳を傾けるべきだ。

欧州では、日本の消費税に相当する付加価値税の税率が20%前後と高い。このため、食料品や新聞などに軽減税率を適用し、家計の税負担を抑えている。新聞は民主主義を支える必需品と位置付けられている。こうした事例も参考にして軽減品目を決めてほしい。

消費税率アップによる買い控え対策として、自動車取得税の減税も決まった。自動車産業の景気波及効果は大きい。消費税との二重課税の解消は不可欠だ。税収減を補うため、これまで低く設定されてきた軽自動車の新車向け軽自動車税は増税される。自動車全体のバランスを考慮した税制への組み替えは必要だ。

≪対象品目は欧州参考に≫

大綱には、企業減税による法人負担の軽減も盛り込まれた。法人復興税を1年前倒しで廃止し、国家戦略特区での設備投資減税も決めたことなどだ。賃上げを実施した企業への減税措置も拡大しており、企業の活性化を促す姿勢を鮮明にしている。

産業界はこれらを活用し、設備投資や賃上げなどに積極的に取り組む必要がある。アベノミクスが目指す日本経済の再生を、官民で実現してほしい。

ただ、企業の国際競争力を高める法人税率の引き下げは、「今後の検討課題」にとどまった。海外からの投資を呼び込むためにも早期実施が必要だ。

一方、高額所得者の個人負担は増す。年収1千万円超の会社員は給与所得控除が段階的に縮小され、所得・住民税が引き上げられる。所得税の最高税率の引き上げや相続税増税も決まっている。

政府は消費税増税に伴う低所得者の負担増との不公平感の解消を目指すためだという。だが、日本の国内総生産(GDP)の6割は個人消費が占める。個人への相次ぐ負担増が、景気の失速を招かぬよう十分な配慮が必要だ。

軽減税率はその一つだ。同時に、企業は収益増を通じ、安定的な賃上げや雇用拡大が求められていることを銘記すべきである。

毎日新聞 2013年12月11日

軽減税率の導入 「消費税10%」の前提だ

生活必需品の消費税率を低く抑える軽減税率について自民、公明両党が大詰めの協議を続けている。自民党は消費税率を10%に引き上げる予定の2015年10月時点で軽減税率を導入するのは難しいとしている。だが、今年1月、自公両党は「消費税率10%段階の導入を目指し、関係者の理解を得て年末の14年度税制改正大綱で結論を得る」ことで合意している。10%時の導入が示されなければ先送りであり、大きな後退だ。

本来なら税率を5%から8%に引き上げる来年4月に軽減税率も導入すべきだったが、制度設計が間に合わないとして先延ばしされた。消費税率を10%に引き上げるなら、その時点で軽減税率を導入するのが前提条件だ。

自公協議で、自民党は納税義務者である事業者の事務負担の増大や税収が減少することなどを反対の理由に挙げた。とくに日本商工会議所など経済団体は、軽減税率に対応するには商品と価格、税率、税額を記入するインボイス(送り状)の導入が必須で、事務的に多大な負担になると反対した。

これに対し、公明党は、現行の帳簿方式を基本的に変更せず、請求書等に税率ごとの取引額を分けて記入して保存する案を提案し、これなら現行の制度に比べ大きな負担増にはならないと主張した。

1月の合意に基づけば、こうした案をたたき台に最適の方法を探り、事業者に理解を深めてもらうのが本来のやり方だ。ところが自民党は公明案でも負担増は変わらないと強調し、反対するだけだった。事業者の理解が進んでいないとすれば自民党の責任は大きい。

毎日新聞が11月に実施した世論調査では、軽減税率の導入に賛成との回答が68%にのぼり、反対の23%を大きく上回った。消費税を負担する側の消費者は軽減税率の導入を求めている。

膨らみ続ける社会保障費に対応するには、消費税率を10%に引き上げても足りないのが現実である。税収は確かに減るが、安定した社会保障費の確保に向け、国民に安心感を広めるためにも、食料品など生活必需品への軽減税率の適用は不可欠だ。

安倍晋三首相は、自公協議が本格化する前に、自民党の野田毅税制調査会長に対し、軽減税率の議論を加速するよう指示した。自公協議の中で、公明党は食料品のほか新聞や書籍を軽減対象とすることも提起している。欧州では、これらを軽減税率にしている国が多い。ところが、こうした対象品目などの議論も進んでいない。今回の大綱では導入時期をはっきり示し、詳細な制度設計を急ぐべきだ。

読売新聞 2013年12月06日

経済対策5兆円 消費増税後の景気失速を防げ

来年4月の消費増税で景気が失速しないよう、政府は経済運営に万全を期さねばならない。

消費税率5%から8%への引き上げをにらんだ政府の経済対策が決まった。国の歳出は約5・5兆円で、地方自治体などの支出と合わせた事業規模は18・6兆円に上る。

安倍政権の経済政策「アベノミクス」や円安を追い風に、景気は上向いているが、民間主導の力強い成長には至っていない。デフレからの脱却も道半ばだ。

増税前は耐久消費財などの駆け込み需要が見込まれるものの、増税後はその反動などで消費や投資が低迷するとみられる。

民間の予測では、2014年4~6月期の実質国内総生産(GDP)成長率は、年率換算で前期比マイナス5%程度に落ち込むとの見方が多い。

景気腰折れを防ぐため、経済対策を打つのは適切と言える。

対策の柱の一つは、企業の活力を引き出す取り組みである。

復興特別法人税を1年前倒しで13年度末に廃止し、企業の税負担を8000億円規模で軽減する。中小企業の資金繰りを支援する融資制度も拡充する。政府が企業を支援するのは、成長のけん引役として期待しているからだろう。

企業は、積極的な投資や事業展開を図ってほしい。収益向上を賃上げや雇用拡大につなげ、家計へ波及させることが望まれる。

対策の2本目の柱は、公共事業である。学校の耐震化や老朽化した道路、橋の更新など防災と安全対策が中心になる。

ただ、最近、人手不足や資材価格の高騰で公共事業の入札が不調となる事例も目立つ。景気刺激を効果あるものにするには、事業の円滑な執行が求められる。不要不急の事業の精査も不可欠だ。

増税の悪影響を和らげるには、個人消費を下支えする政策の充実も必要ではないか。

低所得者への給付措置などが盛り込まれたが、一時的な支給の効果は限定的とみられるからだ。

食料品などの税率を低く抑える軽減税率を採用し、より幅広い消費者に恒久的に恩恵が行き渡るようにする方が有益だったろう。

予定通り15年10月に消費税率を10%へ引き上げる場合には、軽減税率が欠かせない。与党は早急に導入を決断する必要がある。

景気の本格回復には、経済対策に加え、成長戦略を着実に実現することが大切となる。新たなビジネス機会の拡大に結びつく規制改革などを急ぐべきだ。

産経新聞 2013年12月06日

消費増税対策 民間も成長へ全力尽くせ

来年4月の消費税増税に備え、公共事業や低所得者向け給付などで約5・5兆円の国費を投入する経済対策が閣議決定された。積極的な財政出動に踏み切ることで、増税に伴う景気の落ち込みを防ぐのが狙いだ。

だが、財政頼みの景気浮揚には限界がある。増税の影響を最小限にとどめ、日本経済を自律的で安定的な成長軌道に乗せるためには、民需が主導する回復基調につなげる必要がある。

経済対策には、復興法人税の1年前倒し廃止に加え、設備投資減税など企業支援策も盛り込んだ。これらを活用して民間も機動的な設備投資や賃上げに取り組み、官だけに頼ることなく、自ら景気の腰折れ防止に全力を挙げなければならない。

民間調査機関などの試算によると、消費税率を5%から8%に引き上げるのに伴い、来年4~6月期のGDP(国内総生産)成長率は、年率換算で5%近いマイナスになると見込まれている。

こうした急速な景気の落ち込みをなるべく小幅にとどめ、7~9月期以降、早期に回復させるためには、景気への即効性が見込め、波及効果も大きい事業などに、重点的に資金配分していくことが欠かせない。

2020年の東京五輪開催に向け、首都圏の圏央道など3環状道路の建設前倒しなどを計画しているのは妥当といえる。

災害時の避難場所にもなる学校の耐震化や、橋梁(きょうりょう)をはじめとした老朽インフラの修繕などは優先度が高い事業だ。ばらまきに陥らないよう、実施に当たっては公共事業は厳選すべきだ。

家計支援としては、住民税の非課税世帯向けに原則1人1万円、児童手当の受給世帯に子供1人あたり1万円をそれぞれ給付する。ただ、こうした給付は貯蓄などに回る可能性もあり、景気への波及効果は未知数だ。あくまでも今回限りの措置にとどめるべきだ。

一方で政府は、産業界に対し、積極的な賃上げや雇用拡大を求めている。増税の影響を回避し、デフレ脱却を着実にするには、個人消費を活性化して経済の好循環を促すことが欠かせない。

賃金配分の原資となる企業収益を高めるためにも、民間企業はこれまで以上に創意工夫を進め、新事業などに積極的に取り組んでもらいたい。

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