◆消費税10%と同時に軽減税率を
来年4月に消費税率を8%に引き上げた後、個人消費の失速を招かないか。景気下支えに課題を残したと言えよう。
自民、公明の与党は2014年度の税制改正大綱を決めた。政府の来年度の予算案と、税制改正法案を裏付けるものだ。
低所得者対策として、食料品などの消費税率を低く抑える軽減税率の導入時期の決定を見送ったほか、会社員を対象にした増税などを盛り込んだ。家計の負担を増やすメニューが目立つ。
◆導入時期は曖昧なまま
最大の焦点は、政府が15年10月に予定通り消費税率を8%から10%へ上げる場合、同時に軽減税率を導入するかどうかだった。
与党は今年1月、10%増税時の「導入を目指す」と合意した。
だが、今回の大綱は「必要な財源を確保しつつ、事業者を含む国民の理解を得た上で税率10%時に導入する」と記し、「14年12月までに結論を得る」ことにした。
導入に「国民の理解」などの条件を付けた意味は重く、「10%に引き上げと同時」とも「10%に引き上げ後のいつか」とも解釈できる。
導入に慎重姿勢を崩さない自民党と、10%への増税の時期と合わせて食料品や新聞などを対象に導入すべきだとする公明党との妥協の産物にほかならない。
軽減税率は、低所得層を含む国民全体の税負担を幅広く和らげて家計を下支えする。
今回の大綱が、軽減税率の対象品目など具体的な検討に踏み込めなかったのも問題である。
いたずらに対象品目や制度設計などの決定を遅らせてはならない。10%増税と同時の導入を速やかに決断すべきだろう。
今回、自民党税調と財務省は、軽減税率の導入には、商品ごとに税率や税額を記載したインボイス(税額票)が必要で、企業の事務負担が増すと指摘した。
ただ、今でも土地売買など非課税取引と消費税を課す取引は混在しており、公明党はインボイスは不要だと反論した。自民党税調と財務省は積極的に課題解決へ取り組むべきだったのではないか。
大綱は、会社員などの給与所得控除を削減し、所得税や住民税を増税する方針も盛り込んだ。16年から年収1200万円超の人を対象とし、17年からは1000万円超の人まで拡大する。
財務省の試算では、年収1500万円の場合、年7万~11万円の負担増となる見込みだ。将来の家計の負担増を見越し、消費意欲は減退する恐れがある。
消費増税で低所得者の負担感が増すため、与党は、高所得者への課税強化で不公平感を和らげることを狙ったようだ。
◆拙速な所得控除見直し
だが、控除見直しを巡る本格的な議論は、わずか1週間だった。自営業者と違い、収入を把握しやすい会社員を狙い撃ちするのでは「取りやすいところから取る」と批判されても仕方がない。
軽減税率の導入時期を示さない一方で、サラリーマン増税を即決したことに、不満を募らせる人も少なくないだろう。
自動車課税では、購入時に課す自動車取得税を来年度から段階的に縮小・廃止するための財源確保策として、軽自動車税の増税などを盛り込んだ。
軽自動車税は、小型車の税金に比べて納税者の負担が軽い。軽自動車も道路や環境に負荷をかける以上、受益者負担として引き上げられるのはやむを得まい。
成長戦略の目玉とされた法人税率の引き下げは、「引き続き検討を進める」と記しただけで、減税の時期や引き下げ幅などの具体論は深まらなかった。
しかし、経済対策で1年前倒し廃止が決まった復興特別法人税を除いても、日本の法人税は欧州やアジアの多くの国より高い。
◆法人税率引き下げ急げ
産業空洞化に歯止めをかけ、海外から投資を呼び込むため、税率の一層の引き下げが不可欠だ。検討の加速が求められよう。
復興特別法人税の前倒し廃止の恩恵を受ける企業は、収益向上を賃上げや雇用拡大につなげ、家計に波及させていくべきだ。
大綱は、大企業が取引先の接待などに使う交際費の5割までを税務上の経費(損金)として認め、非課税とする方針も掲げた。
これまで中小企業の交際費の一部について損金扱いを認めてきた措置を大企業に拡充する狙いは理解できる。企業が交際費を増やしやすくなることで、飲食店などの売り上げが伸び、消費増税の影響を抑える効果に期待したい。
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