1票の格差違憲 国会が担う課題は重い

朝日新聞 2009年12月29日

定数違憲判決 「1人別枠」の是正を急げ

政権交代をもたらしたこの夏の衆院選で、小選挙区の大阪9区では約9万8千票を取った候補者が次点になり、有権者の最も少ない高知3区では約7万4千票の候補者が当選した。

二つの選挙区で議員1人当たりの有権者数を比べると、2.05倍だ。「一票の価値」で考えれば高知3区の1票に対し、大阪9区は0.49票で半分の価値しかないことになる。

この「一票の格差」を問うた有権者の訴えに対し、大阪高裁は違憲の判断を示した。同じ選挙について全国8カ所で争われている定数訴訟の中で最初の判決だ。いまの小選挙区比例代表並立制に基づく衆院選が始まった1996年以降、初の違憲判断となった。

衆院の一票の格差について、これまでの最高裁判決は「3倍未満」を容認してきた。これに対して高裁が示した基準は「一票の格差が2倍に達する場合は原則として違憲」である。

判決は、小選挙区制の導入によって有権者の投票行動が政治情勢を大きく変える現状に触れ、2倍の格差を「大多数の国民が耐え難い不平等と感じるようになった」と述べた。

憲法の基本理念である「投票価値の平等」を厳格にとらえたうえ、政権交代が可能になった政治情勢の中で、一票の重みの増した現状にもあった判断と高く評価したい。

高裁判決が問題にしたのは「1人別枠方式」と呼ばれる定数配分だ。300議席のうち各都道府県にまず1議席ずつを割り振り、残りの253議席を各都道府県の人口に比例して配分する。単純な人口割りに比べて議員を過疎地に手厚く配置する仕組みだ。

判決は、これは格差の大きい中選挙区からの過渡期の策で、すでに役割を終えたとし、「国会議員を地域代表と理解するもので、全国民の代表とする憲法の趣旨に反する」と断じた。

衆院の定数は、02年に小選挙区について5増5減の微調整をして以来、是正されていない。「格差を放置することは立法府のあり方として憲法上許されない」と厳しく指摘した判決に、国会は応えねばならない。

夏の衆院選で格差が2倍を超える選挙区は45にのぼった。衆院はまず1人別枠方式をやめるよう、法改正に乗り出すべきだ。過疎地の施策については、各議員が「全国民の代表」としてきちんと配慮しなければならない。

参院の一票の格差はもっと深刻だ。政権交代の前触れとなった07年の参院選では、格差は最大4.86倍もあった。次の参院選は来年夏に迫っており、こちらは待ったなしだ。

政権党になった民主党は政策集で衆院での1人別枠方式の廃止と、参院では選挙制度の抜本改革を掲げている。年明けの通常国会からさっそく動き出すべきだ。

毎日新聞 2009年12月29日

1票の格差違憲 国会が担う課題は重い

「1票の格差」が最大で2倍強になった8月の衆院選をめぐり、大阪高裁は、現在の選挙区割りでの選挙を違憲と判断した。選挙自体は公益に著しい損害を与えるとして無効にしなかったが、「いつまでも格差が2倍を超える状態を放置することは憲法上許されない」と国会に強く是正を求めたのは妥当な判断である。

小選挙区比例代表並立制に基づく衆院選が実施された1996年以降、司法の違憲判断は初めてだ。

8月の衆院選は、有権者の投票行動で政権交代が実現した。判決は、2倍を超える格差について「大多数の国民の視点から耐え難い不平等と感じるのが通常」と指摘し、徹底した平等化を目指すのが憲法の要請、とした。

高裁段階の判断とはいえ、その最大のポイントは、小選挙区制の実施で導入された「1人別枠方式」について「国会議員を地域代表と理解するものであり、全国民の代表者とする憲法43条の趣旨に背いている」と明確に言い切ったことだ。

この方式は、小選挙区300の定数のうち、47都道府県に1議席ずつ振り分け、残りを人口に比例して配分するものだ。過疎地域への配慮を示し、人口の少ない県に住む国民の意見も国政に反映できるように考え出された。

小選挙区の区割りは、有識者による衆院選挙区画定審議会が10年に1度の大規模な国勢調査をもとに首相に勧告している。

1票の最大格差は、96年の衆院選の2・31倍から05年の2・17倍にまで下がったものの、再び拡大に転じていた。しかし、05年の国勢調査速報値を受けた審議会は「著しい不均衡が生じているとは認められない」と勧告を見送った経緯がある。

判決はこうした経緯をふまえ、公職選挙法などを見直して是正を進める努力をしなかったと国会の怠慢を指弾した。

1人別枠方式に関しては、05年衆院選の定数訴訟で最高裁大法廷の裁判官15人のうち、6人が違憲もしくは違憲状態としている。国会は、この問題をこれ以上放置せずに、広く民意をくみ取って答えを出さなければならない。

1票の格差が最大4・86倍だった07年7月の参院選挙区選挙で最高裁大法廷は今年9月、「投票価値に大きな不平等がある状態」として国会に対し、速やかに検討するよう求めている。

民主党は7月の政策集で、衆院比例代表の定数を80削減することを掲げるとともに、1人別枠方式の廃止で格差是正を図ると提言している。今回の判決が強く求めた投票価値の平等に向けて、抜本的な議論を進めるべきである。

読売新聞 2009年12月29日

衆院1票の格差 2倍以内への是正が急務だ

衆院の「1票の格差」に対する極めて厳しい司法判断である。

8月30日に行われた衆院選の小選挙区で、議員1人当たりの有権者数の格差が最大2・30倍(高知3区と千葉4区)だったことについて、大阪高裁は「憲法上許されない」との判断を示した。

影響が大き過ぎるとして、選挙自体を無効とはしなかったが、1994年に小選挙区比例代表並立制が導入されて以降、初めての違憲判断である。国会は、格差是正に向けた取り組みを積極的に進めていく必要がある。

判決は、格差が2倍に達している事態について、「著しい不平等と評価すべき状況」と批判した。法の下の平等などを定めた憲法の趣旨に照らし、2倍を超える格差は容認できないという姿勢を明確に示したものだ。

総定数が300である衆院の小選挙区には、「1人別枠方式」が採用されている。47都道府県にまずは議席を1ずつ割り振ったうえで、残りの議席を人口比に応じて配分する方式だ。

過疎地域への配分を手厚くすることを目的としたこの手法について、高裁は「従来の著しい格差を改善させる過渡期の策としては、それなりの合理性、実効性があった」と一定の評価をした。

中選挙区時代には、格差が4倍を大きく超えていた時期もあったことを考えれば、当然の指摘といえるだろう。

高裁が最も問題としたのは、格差是正への取り組みが鈍い立法府の対応である。「格差が改善されたことに甘んじ、2倍を超える状態に固定するのを放置することは許されない」と指弾した。

最大格差が2・17倍だった05年の衆院選を巡っては、最高裁が合憲判断を示している。ただ、この判決でも、15人の裁判官のうち6人が「違憲」か「違憲状態」とするなど、1票の格差に対する厳しい見方が目立ってきている。

格差是正がなかなか進まないことに対する司法の(いら)立ちの表れといえよう。

小選挙区制ではそもそも、格差を基本的に2倍以内にすることが法的に求められている。だが、「1人別枠方式」を続ける限り、大幅な格差是正は困難だ。

民主党はこの方式を廃止し、人口比例による議席配分と区割りの見直しの方針を示している。

来年の国勢調査結果を基に実施される区割りの改定作業では、今回の判決を踏まえ、抜本的な見直しに踏み込む時ではないか。

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