酒酔いなど、悪質な運転で死傷事故を起こした際の刑罰を重くする自動車運転死傷行為処罰法が成立した。来年5月までに施行される。
危険運転による事故の犠牲者を減らす契機としたい。
今回の立法措置は、危険運転に関わる法体系を見直したものだ。刑法の危険運転致死傷罪を新法に移し、適用範囲を広げた。
最高刑が懲役20年の危険運転致死傷罪は、飲酒や薬物摂取で、運転手が「正常な運転が困難な状態」であることが適用条件だ。
しかし、「困難な状態」だったかどうかの線引きは難しく、泥酔状態での運転など立件されるケースは限られていた。
悪質な運転にもかかわらず、懲役7年の自動車運転過失致死傷罪となることが多く、被害者側は刑罰が軽すぎると批判していた。
新法は、「正常な運転に支障が生じる恐れ」でも危険運転致死傷罪を適用可能とした。この場合、最高刑は懲役15年となる。懲役20年と7年の中間的な刑罰を設けたのは、一歩前進と言えよう。
法務省は、酒気帯び運転の事故にも、新たな規定が適用できるとの見解を示している。ドライバーに新法を周知し、危険運転の抑止につなげることが重要だ。
飲酒運転などで事故を起こした運転手の逃走行為を罰する「発覚免脱罪」(懲役12年以下)も新設された。酔いがさめてから出頭するような逃げ得を許しては、厳罰化の効果が失われる。積極的に立件してもらいたい。
「特定の病気」で運転に支障が生じた場合を危険運転致死傷罪の対象としたのも、新法の特徴だ。栃木県でクレーン車の運転手がてんかん発作を起こし、児童6人を死亡させた事故を教訓とした。
具体的な病名は今後、政令で定める。病気に対する偏見の助長を懸念する患者団体などの声に十分配慮することが求められる。
新法には、無免許運転による事故の刑罰をより重くする規定も設けられた。
京都府亀岡市で昨年、少年が軽自動車で児童ら10人を死傷させた。以前から無免許運転を繰り返していた。検察は「運転技術は未熟ではない」として、危険運転致死傷罪の適用を見送った。
無免許でありながら、厳罰に問えないことが問題となった。
だが、飲酒や薬物摂取がなければ、新法でも亀岡市のようなケースは危険運転致死傷罪に問えない。悪質な無免許運転の刑罰について、施行後も議論が必要だ。
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